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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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 蛮族の喚き声や爆破音をBGMにすすったコーヒー色の液体に横倉 右天(よこくら・うてん)は一度だけ舌をぬらした。不釣合いに品のあるソーサーへカップを戻す。これも盗品だろう。
「随分と騒がしい時に来ちゃったみたいだ」
 部屋へ来る途中に同校の生徒と擦れ違った。面白い事が起こりそうだけれど、今日は買い物に来ただけだ。商品さえ手に入れば、砦や蛮族グループがどうなろうと知ったことではなかった。
「正義気取りのバカが居たもんだね。後このコーヒー? ちっとも美味しくないよ」
「お子様用ミルクもジュースもねえよ。オレンジでも絞ってやろうか」
「見た目を信用しすぎると痛い目を見るって知ってる? 砂糖かミルクはないの」
「そんな高級品ここにはねえよ。持ってきた奴に言え」
「ああ、あのお姉さんみたいなお兄さん。君たちの中にも客人を持て成すっていう当たり前の作法が出来る人がいたんだね。食料庫にも? 行商人の馬車を襲ったんだよね」
「お前みたいなガキにくれてやる砂糖はねえな」
「はあ。まあいいけどさ。ソファのすわり心地も微妙だし、本題に入りたいんだけど」
 カップの中を覗き込み、コーヒーへ溶かし込むように呟やく。もう一度口をつけてみるがやはり好みの味ではなかった。
「見世物用が欲しいんだ。だからなるべく見た目が良いのを頼むよ。良いのは手に入った?」
「女きょうだいと、男も二人ばかりとっ捕まえてあるが……」
「男は要らないな。悲鳴が好みじゃないし。あとさっき君の下っ端が捕まえてきた2人も要らないよ。姉妹ってのは良いね。並べて飾ろうかな。手足は落として無いだろうね」
「何もしてねえよ。あんたの注文どおり傷1つ付けてない」
「それはよかった。楽しみが減ったら意味が無いから。ね、カフカさん」
 右天は隣に座るグレゴール・カフカ(ぐれごーる・かふか)へ満面の笑みを向ける。
「そうだな、久しぶりに腕が鳴りそうな素材だ。達磨作りもここのところご無沙汰だったからな。前世はイケメンだった故にな、何をしなくても材料が自ら集まってきたものだが……」
「あ、あの……デューン様……お願いがあるんです」
「なに、アルカさん」
 カフカの呟きを綺麗に無視して、右天はアルカ・アグニッシュ(あるか・あぐにっしゅ)へ少女のような微笑を見せてやった。
「私に、その姉妹の世話をさせてください。ここの方たちは男性ばかりで、きっと心細いと思うんです」
「うーん、そうだね。せっかくの奴隷だし」
「あ……ありがとうございます」
「ついでだ、あの女きょうだいを隣の部屋まで連れて来い。あー、何だったか、エッツェル」
「――はい」
 目を伏せ、背後に控えていたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は一歩進み出る。
「この女を連れて地下牢へ行って女きょうだいを連れて来い。隣の牢に入れておけ。場所はロマノフが知ってる」
「分かりました。行きましょうか。アルカさん」
 エッツェルと目が合うと、アルカは嫌悪する表情を見せた。デューン以外の男を毛嫌いしている。大して気にした風も無く、エッツェルは紳士的に微笑んでさえ見せた。
「そんな顔をなさらないで下さい。せっかくの美しい顔が台無しです」

 ギロンゾの部屋にはメインルームのほかに左右に1つずつ部屋がある。左手の扉を開けるとそこは寝室になっており、大きな天蓋つきのベッドと若草色のベルベッドのソファ、大きな観葉植物が置かれている。そしてもう1つ。部屋の3分の1ほどのスペースは鉄格子で仕切られていた。ここはその日に売買する奴隷を入れておき、買手に見てもらうための部屋だった。部屋の左隅に置いてある観葉植物の向こうが地下牢へ続く階段だ。この部屋を通らなければ地下牢へ行けないよう、ギロンゾが特別に改装させた。
 薄暗い階段を下る。足首を冷気が舐め、アルカは身震いをした。階段が途切れるとそのまま牢獄へと繋がっていた。道が前方と左手に開け、独房が続いている。迷いの無い足取りでロマノフと呼ばれた男が先へ進む。ほとんどの独房は空のままだが、いくつかの房にはずた袋や木箱が放り込まれている。どうやら倉庫としても利用しているらしい。火薬や小麦だろうか。
「あの部屋はガス室だそうですよ。向こう側には拷問室もあります」
 エッツェルがそっと口を開いた。地下へ入ってすぐ左手にあるその部屋だけ、やたら頑丈な造りをしているのだ。格子状ではなく、ちり1つ漏らしてやるものかと、のっぺりと塗り込められた壁は繋ぎ目1つ無い。
「そんな、怯えなくても、だいじょ、うぶ、です……我主は、悪い人では……ありません」 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)は突然話しかけられ体をビクつかせたアルカへ向け呟いた。
 それとほぼ同時に、ガシャン、と錠の落ちる音がする。首をめぐらせて見れば、黒いツインテールの少女と銀髪のポニーテールの少女が牢獄へ入れられている所だった。
「あのっ……ど、どうしてこんな所に?」
「しばらくそこで大人しくしてな、お嬢ちゃん」
「おい、身包み剥がさなくて良いのか」
「大丈夫だろ。世間知らずのお嬢様だぜ」
「まあ、それもそうだな。こんなとこで道に迷ったなんて俺達に声かけて来る位だからな」
「そうそう」
「大人しくしてれば悪いようにはしねえよ、お嬢ちゃんたち」
 不安げに瞳を揺らしている。男の下品な笑みに身の毛がよだち、アルカはそそくさと姉妹の房へ足を進めた。突き当たりの横並びになっている房の角に姉妹はいた。近づき、膝を折り話しかける。
「私はアルカと言います。あなたたち……お名前は?」
「……ラン。お姉ちゃんはエウリカっていうの」
 妹は怯えながらも、アルカへ素直に名前を教えた。姉はそんな妹の体を抱え、警戒して睨みつける。悲しかったが、それも仕方の無いことだ。
「……大丈夫、あなた達を無下に扱わせるつもりはありません。必ず逃がしてあげますから……」
「え……?」
 姉が困惑した目で、縋るようにアルカを見た。
「おっぱいの気配がするぜ!」
 鉄格子へ飛びつき、掴んでがたがたと揺らし始めたのはゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)だ。
「ニューおっぱい! ニューおっぱいだぜ! いや、あれはおっぱいじゃねえ、ちっぱいだぜ! モミモミさせろ〜! おっぱ〜い! 禁断症状で……あ……眩暈がしてきたぜ……お前が優しいおっぱいならモミモミさせてくれえええ」
「あ、あなたっ何なんですか……」
「そのちっぱいを立派なおっぱいにモミモミしてやるぜ〜! ほらほら!」
 格子から腕を出し手をわきわきさせているゲブーにアルカはおびえきっていた。
「何か、気付いたら捕まってたんだってさ」
 姉妹の隣の房から声を掛けたのは甲斐 英虎(かい・ひでとら)だ。その背中に隠れるように甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)が不安げな顔で辺りを窺っている。
「そういう俺達も同じなんだけどさ。遺跡のデータ集めてたら捕まっちゃってさー。この辺りが蛮族の縄張りだって知らなくて」
「ん? んん? あそこからは1おっぱいの気配しかしねえ」
 むむむとゲブーが目を眇める先には、さっき閉じ込められたばかりの少女2人が身を寄せ合っている。
「トラ……あの、もしかしてあの黒髪の女の子って……」
「うん……巽だろうね……ティアが一緒だし」
 着ているものが百合園女学校の制服ということは、囮か何かだろう。
「ところで弟くんは無事なのかな」
「弟?」
「あ、何か知ってそうな顔してる」
 咄嗟に反応したアルカへ英虎は悪戯っぽく笑って見せた。ガン無視を決め込むアルカに、嫌われちゃったみたいだと肩をすくめる。ユキノが頷き、おずおずとアルカへ訊ねる。
「私達、彼女たちのことを助けたいんです。あなたも同じ気持ちなんですよね」
「――今この砦を攻撃している人たちが居ます。蛮族が強奪した積荷を取り返すと言って」
「さっきちょっと揺れたのはそれだったのかな」
 やっぱり英虎の質問には答えるつもりは無いらしい。
「それにしてもここ、防音がすごいね。古そうなのに。全然音が聞こえてこない」
 天井を見上げながら呟く英虎へユキノは不安げな視線を向ける。
「トラ……あたし達、ちゃんと帰れますよね」
「あったりまえでしょー。ユキノのことはちゃんと守るから、ユキノは女の子達をお願いねー」
「はい。みんなで無事に帰りましょう。なんだか希望が近づいている気がします」
 ようやく心からの笑みをみせたユキノに、英虎は目を瞬いてから、元気付けるように笑った。
「それ、きっと気のせいじゃないよ」
「お喋りもたいがいにしとけよお、兄ちゃん」
「きゃあ!」
 苛立たしげに見張りの男が鉄格子を蹴り飛ばす。ヒッと隣の房にいる妹が身を縮めた。
「お前等は今んとこ“商品”じゃあねえんだ。あの姉妹と違って身の安全は保証されて無いんだぜえ? せいぜい俺達の機嫌を損ねないようにするんだな」
「わー。それは困ったなあ。どうしよう」
「てめえ……ちょっと表でろ!」
「え? 出て良いの? 喜んで出ちゃうけど」
 あはは、とちっとも困った様子のない英虎にますます見張りの男達は頭に血を上らせる。蛮族はみな英虎に気を取られ、巽たちの居る牢屋へ背を向けている状態だ。巽は奪われずにすんだティアの銃型HCを後手にすばやくメールを打った。

 エッツェルは、捕らわれの姉妹を呆然と見詰めたまま、高鳴る胸を押さえ切れずにいた。本能が、心臓が告げている。彼女達の為に在れ、と。妹を守ろうとする姉の気丈さ、ランと名乗る妹の素直さはどうだ。なんと美しい。それに比べて――あの男達のなんと醜いことだろうか。腕を見込まれ用心棒として雇われたのはありがたいことだが、愛の前ではそんなもの無力だ。
 この時、エッツェルは運命の導きのような力で蛮族を裏切ることを決めた。
「さあ、お嬢ちゃんたち、ボスと新しいご主人様がお呼びだぜ」
 牢屋の鍵を開け、怯える姉妹の腕を掴もうとした男を殴り飛ばした。
「汚い手で彼女達に触らないでください」
 ふと姉妹と目が合う。エッツェルは優しく微笑んで見せた。

***
 陽動班が暴れている中、1つの陰が正面口から侵入していた。辺りをきょろきょろ見渡し、気付かれないように柱やドアの陰にかくれて移動するのは御弾 知恵子(みたま・ちえこ)だ。時折、流れ弾や物陰に潜んでいる蛮族に狙われるも、知恵子は臆することなく戦場を駆け抜ける。
「ちえこ、ちえこ! いてえってマジいてーんだよ! よけろって!」
「ちょっと黙ってな」
 四番型魔装 帝(よんばんがたまそう・みかど)の必死の訴えをすっぱり切り捨てた知恵子は蛮族の悲鳴や伸びている蛮族を踏んづけてずかずかと先へ進んでいた。目指すはお宝。成金趣味なんだから金目の物だってたんまりあるはずだ。依頼を見てピンと来たのだ。金のにおいがすると。
 何やらワケアリのようだから、契約者の連中と鉢合わせしたら、荷物は譲ってやろう。弱いほうが悪い。奪われるほうが悪い。それはどちらにも言えることだ。泣き寝入りする連中が多い中、逆襲しようだなんて立派じゃないか。そういう心意気は嫌いじゃない。

 砦に入るとまっすぐに廊下が延び、階段が――おそらく首領が居るだろう部屋へと続いている。長い直線上の廊下には紅い毛足の長い絨毯が身をくったり横たえている。おそらく、元々この砦にあったものなのだろう。随分と古ぼけて色も掠れ、毛足も萎えてしまっていた。しかし上等の品ではあるだろう。さすがにこれを巻いて持って帰るわけには行かない。かと言って無造作に体を晒している石造を持って帰る事も不可能だろう。
「帝、あんた、これ入るかい」
 近場にあった絵画を壁から外した。比較的小さめのものだ。それでも横の長さは知恵子の肩幅ぐらいある。
「いや、いやいや! どう考えても無理だ! わ、やめろって俺はふろしぎじゃない! 壊れる! いやちがうやぶれる! やぶれるから!」
 帝は鎧化するとポンチョ型になる。広がりはしないかとぐいぐい伸ばしながら詰め込もうとしている知恵子がこの時ばかりは悪魔に見えた帝だった。