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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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 霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は大声を張り上げながら、愛らしい外見にそぐわぬ拳を男達の頬にめりこませていく。その両手足は炎を纏い、蛮族は近づくのを恐れていた。
「ほらほらほらほら〜! そんな攻撃じゃ私は倒せないよ!」
 せっかくの囮役だ。派手に決めなくっちゃ面白くない。あまり奥へ行くと強い奴が固めているだろうからスリルのある戦いが出来るだろうけれど、その分姉妹や積み荷やらと戦いに集中できない。
 それならば雑魚相手に思いっきり暴れているほうが気楽だ。1人2人は骨のある奴がいるかも知れない。
 銃弾を避けながら及び腰の男達の中へ突っ込んで行く。恐れは無い。怪我をすることは覚悟の上だし、距離を詰めればこっちのものだ。手元を蹴り上げ、手から離れた武器を即座に奪う。じわじわと内から燃え上がる。四方へ意識を張り巡らす緊張感。殴るか殴られるか。生きるか死ぬか。
「このスリルがたまらないよね……!」
 楽しげな透乃とは異なり、月美 芽美(つきみ・めいみ)はひどく冷静に行動していた。すばやい動きで相手を攪乱し、隙だらけの背中へ芽美は轟雷をまとった一蹴をぶちこんだ。疾走に目が追いつかない男は完全な死角を突かれ、防御どころではない。壁に顔面から激突し、そのまま意識を失ったようだ。ぴくりとも動かない。
 芽美は積み荷だの世直しだのに興味はなかった。騙された側が悪い。そう思っている。ここへ来たのは手助けというよりも人を殺せる気がしたからだった。
 崩れた壁に埋もれた男が小さく呻く。
 胸倉を掴むとうつろだった目が芽美を捕らえ、一瞬にして青ざめる。
「力が荒野の理というなら――力ずくで殺しても構わないわよねえ?」
 今回は何人殺やれるかしらね。まずは1発。男の顔面へ拳を振り下ろした。
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は透乃や芽美の攻撃を受け、昏睡している男の首へ「凶刃の鎖」を絡めた。
「ファイアストームとかの方が目立つとは思うんですけど……あまり面白味が無いんですよね」
 陽子もライルを助けてあげたい、という積極的な思いからこの場に居るのではなかった。恋人である透乃に誘われ、陽子はここまでやってきたのだ。蛮族から見れば略奪者は自分たちなのだろう。結局はどっちもどっちなのだ。法律という機軸があるから善と悪なんてものが生まれてしまう。
「うわあああああああああっ逃げろ!」
「ちょ、おい、こっちくんな!!」
「ぎゃあああ!」
 はあ、と息を吐き陽子は思い切り腕を振り上げ、鎖を絡めた男ごと振り回す。その細腕や儚げな容姿からはとてもではないが想像できない。気絶した男を使ったからか、少し面白味が無い。武器にされている人間の叫び声が1つ足りないせいか、何だか物足りないのだ。
 逃げ惑う蛮族たちを眺めながら、次に振り回すときは意識のある人間を使おう。陽子は心に決めた。

 そんな透乃たちのちぎっちゃ投げちぎっちゃ投げの様子にルカフォルク・ラフィンシュレ(るかふぉるく・らふぃんしゅれ)は青ざめながら身を縮めていた。まるで地獄絵図だ。
「女ってコワイ……」
「ルカ兄! おしゃべり厳禁! それより手を動かす!」
「分かってるわよぅ。もう!」
 冴弥 永夜(さえわたり・とおや)は銃弾を壁や柱や手当たり次第にぶち込ませながら、「やだなにあれこわい」「悪魔よ……悪魔がいるわ……」と透乃たちの襲撃に怯えるルカフォルクを咎めた。
 確かに大技や見た目が派手な技を乱発している彼女達は目を引いてしまうものではあるが。
 確かにちょっと、いや、かなり衝撃的な光景ではあるが。また新たに人間鎖鎌の餌食になった男が悲鳴を上げている。陽子はとても楽しそうだ。
 囮なのだから派手に動くほうが良いという思いは同じだった。少しでも多くの蛮族の注意を引くのが自分たちの役目だ。無駄撃ちだって立派なネズミ捕りになるかも知れない。やっかいなのは2階から銃弾や矢を放ってくる敵だった。吹き抜けという構造上、階下の様子が丸見えなのだ。下からの攻撃と上からの攻撃、二重に気を配らなければならない。こちらからも向こう側は丸見えなので、条件的にはほぼ同じではあるのだけれど――。おまけに身を隠す場所が少ないのだ。趣味の悪い銅像の陰に隠れつつ、狙いを定めるもあちこちから向けられる殺気に集中が乱されてしまう。
「背中のことは気にしないで思いっきりやりなさい! ワタシの完璧なフォローを見せてあげるわ!」
 派手に暴れる。その作戦にはルカフォルクも賛成だった。シンプルで分かりやすい。とても良い。周囲をぐるりと見回すと、1人の蛮族の男が武器を手にしたまま動けなくなっていた。戦闘は初めてなのだろうか。目の前の光景に愕然としているようだ。だからといって見逃してやるわけには行かない。
「そんな所で突っ立ってると危ないわよぉ」
 男は緩慢な動作で視線を向けてくる。優美にうっそりとルカフォルクの唇が弧を描く。召喚した魔獣を撫でながら、僅かに目を伏せる。
「このコが餌だと思っちゃうから」
 男の叫び声を背景に、氷夜は照準を2階にあわせる。こちらは確実に仕留めなければならない。間違いなくライルと理子が首領の部屋へ向かうところを狙われる。
 上手く、ライルの姉妹を救い出してくれよ……!
 銃弾に願いを込め、氷夜は部屋から飛び出してくる蛮族たち目がけ引き金をひいた。

 一方で、御凪 真人(みなぎ・まこと)はあくまでも“足止め”をするのが己の役目だと思っていた。もちろん派手に動いて蛮族たちの気を引くのは大事だ。しかし、同時に姉妹の身の安全が気がかりだった。積み荷を奪還すると宣言した以上、蛮族側も奴隷としてではなく“人質として”姉妹を利用するかも知れない。攻めるより引いた方が蛮族も釣れる可能性もある。あまりこちらが勝ち過ぎるのも得策では無いのでは。威力を微妙に調節しつつ魔法を放ちながら、そんなことを真人は考えていた。
大切な人達が浚われたのなら助け出せばいい。そのためならば、惜しむことなくこの力を貸そう。
「にいちゃーん。こいつら、このヘンに転がしとくぜ」
 陽動班が倒した蛮族を引きずり、男が身につけているベルトや衣服の紐などで拘束した。トーマ・サイオン(とーま・さいおん)は砦の入り口付近へ意識を集中させながら、気絶した男を何とか砦の隅へ放り投げた。意識を失っている場合、目覚めてまた武器を手に取られては意味が無い。出入り口を警戒しているのは、隙を突いた蛮族が外へ出て行くのを防ぐためだ。増援を呼ばれたらコトだ。ライル達が侵入する際の妨げにもなる。蛮族は1人残らずこの砦に「幽閉」しておくのが良いだろう。
「悪いやつら懲らしめるなら、オイラも気合入れて闘うぜ」
 隠形の術で姿を隠しつつ、真人が背後から敵に襲われそうになったらブラインドナイブスをお見舞いしてやるのだ。