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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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第2章 戦場のダンスパーティー

「七並べって2人でやるもんじゃねえよなあ」
「じゃあババ抜きにすっか」
 堀に掛かる橋の見張りはトランプで暇をつぶしていた。足元には無数の煙草の吸殻が落ちている。交代の時間まであと1時間近く。滅多に人も通らず「ここの見張りは要らねえよな」が交代時の挨拶となっているほどだ。物見櫓に上ってずっと監視するような生真面目な男は生憎とここには居ない。気が向いて見晴らしの良い所で煙草を吸いに行く、ぐらいの物だ。
 しかし、この日は違った。この砦を訪ねてくる者があったのだ。
「あのぅ、すいません……わたしたち、道に迷ってしまって……」
 黒髪ツインテールの少女が、困ったような顔で話しかけてきた。その少し後には銀髪をポニーテールにした少女が視線をキョロキョロさせている。
 男くさい毎日。どこを見ても男・男・男。そんな日々の中で突然あらわれた少女達。まるで荒野で儚げに咲く花。砂漠のオアシスだ。
 男達は即座に目配せした。言葉なんて要らない。そうだろ、兄弟。イエッサー、やる事は1つだ。下心満載の笑みを浮かべたのは一瞬。すぐに人の良さそうな笑いを貼り付ける。
「それは危ないなあ、お嬢チャンたち」
「どこに行きたいのかな? 俺達に出来る事なら力になるよ」
「本当ですか……! ありがとうございます!」
「ありがとうアル。お兄さん達、いいひとネ!」
「荒野を抜けるなら護衛が居たほうが良いぜ〜。ここ、紹介もしてるから中においでよ。2人とも可愛いからオマケしちゃおうかなあ」
 少女の肩を抱き、トランプもそのままに砦の中へ招き入れる。途中、出入り口の見張りをしている男達が口笛を吹き何やら悪い笑みを浮かべた。

 その頃、気配を消した唯斗と白竜は砦へ忍び寄っていた。久多 隆光(くた・たかみつ)も体勢を出来るだけ低くし、慎重に砦を囲む塀にはりつく。新しくは無い建物だ。おそらく、それなりの地位にある者が築いたのだろう。巽とティアのお陰で掘の見張りは居なくなったが、まだ正面口には見張りが立っている。煙草を吸い、雑談をしているやる気のなさではあったが。
 隆光はライフルを構えた。狙うは背の高い男が吸っている煙草だ。距離にして数十メートル。射程に捉え、トリガーを引く。
「な……!」
「誰だっ――!?」
 突然消えた煙草とか細い銃声に、周囲を見回す男の口元を背後から伸びた手が覆った。気配を消した唯斗と白竜が回り込んで居たのだ。振り向いた時には遅い。手刀を決められ、男達は崩れ落ちた。足音1つ立てずに遂行する辺りはさすがの一言だ。隆光は男達の服を裂き、目と口を覆うと、ベルトや衣服を利用し後ろ手に縛り上げた。堀の近くへ転がしておく。目が覚めて騒ぎ立てるなら突き落とせば良い。
「ひとまずは成功かな」
 幸運にも他の見張りには気付かれていないようだ。隆光が言うと、2人は無言のまま頷きすぐさまそれぞれ割り振られた物見櫓へと向かう。
 物見櫓は砦を囲むように全部で4つ立っている。その内の1つは睡蓮が唯斗の支持を受け落とし、もう一つはウィングがワイバーンと共に上空から奇襲も兼ねて派手に落とすことになっていた。同時に囮班が行動開始をする合図にもなる。実質、今いる初動班は3人で2つの物見櫓を落とせば良い。
 砦をどう攻略するか、相談の結果、囮と本陣の二段階に分けて攻め入るのが得策だと言う事になった。最低でも蛮族は30人。決して少なくは無い人数だ。倒せるだけ倒し、気を引いている内にライルが砦内へ侵入するのがベターだろう。

 同じ頃、伏見 明子(ふしみ・めいこ)がゴールドマトックを手に隠形の術で気配を消しつつ、うきうきと砦の裏側へ向かっていた。レヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)はそんな明子へ潜めた声をかける。今は鎧のセーラー服となって明子が装備している。
「……楽しそうだな」
「当たり前よ。ずーっとこれ使ってみたかったんだもの」
 なんでも武器としても強いが、壁を壊す時に本領が発揮されるらしい。本当に壊せるのかどうか。実際に試せるチャンスを見逃すはずもなかった。それに、護衛で半分ぐらい生計を立てている明子としては、この蛮族グループは捨て置けない。同じだと思われたらたまらない。
 どこから侵入するかと作戦を練っていたのを耳にして、明子は提案したのだ。
「道が無いなら作るのみ。穴が無いなら空ければ良いのよ!」
 その手にはゴールドマトック。言ってしまえばつるはし。そして明子の眩しい笑顔。流れる微妙な空気に、レヴィは複雑な心境だった。
 ――いやまあ、楽しそうならいんだけど。
 つるはしを握って楽しそうってのもアレだけども。何て考えていると、明子はどこに穴を開けるか目方をつけたのか、さっそくゴールドマトックを降りかぶっていた。
「いーち、にーの」
「えっ、ちょ、もう行くのかよ!」
「だって夢野先輩が『任せる!』って」
 同じパラ実生として、総長に支持を貰おうとしたのだが。
 しかも散々悩みまくっての回答だった。
「だからって、物見櫓の方とタイミングとか――」
「ぎるがめっしゅ!」
 レヴィの心配をよそに謎の掛け声と共に、おもむろにゴールドマトックを壁に打ち付けてしまった。すると、まるでチョコレートのようにレンガが石壁からぼろっと剥がれ落ちる。
「見た!? ねえねえレヴィ見た!?」
 まるでバーゲンでお気に入りのワンピを見つけたような顔だ。気をよくした明子が壁をがっつんがっつん掘り出し、ついにぶち抜くと、まずは小さな穴から中を覗いてみた。斧やサーベル、盾など古いものから新しいものまでが並べられている。どうやら武器庫のようだ。ぎらと光るものが見え、何だろうと明子は良く覗き込もうとした。
「伏せろ!」
 レヴィが声を張り上げた。次の瞬間、僅かに空けた穴をめがけて銃弾が飛んでくる。
「そりゃあそうなるわな」
 ここに敵が居ますよと言って居るようなもんだ。
 本当、退屈する暇も無い。人化して壁にもたれつつ、あくびをかみ殺す見張りの姿を思い出すレヴィの胸には、優越感のような憧れのような感情が広がっていた。

 明子が最初の一撃を壁にお見舞いしたのと、ワイバーンが上空から物見櫓へ向かって機種を掛けるのはほぼ同時だった。唯斗の合図で睡蓮の放った矢が、偶然にも物見櫓に登っていた見張りへ向かい、唯斗・白竜も台へ上がらずダベっていた見張り役が声をあげる間もなく静めた。
 地鳴りの様な音が砦一体を襲う。
 そんな中、入り口で声を張り上げるものが居た。
「すいませーん! 聞こえてますかー! もーしもーし!」
「さすがにこの騒音の中だと、聞こえて無いんじゃ……」
「やっぱり聞こえないか」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はもしもーし!と声をダメ押しで大声を出す樹月 刀真(きづき・とうま)と同様、砦を見上げている。中から喚き声は聞こえてくる。混乱させることには成功したようだ。まあいいか。刀真はあっさりと次の台詞へ移ることにした。
「あのー、俺、君達が行商人から積み荷を強奪したと聞いたので、取り返しに来ましたー! 返してくれるかなー? いいともー! よーし、それじゃあ遠慮なく行かせてもらいまーす!」
 ぺらぺら喋っている内に、いくつかの足音がこちらへ向かって来る。月夜はハンドガンへ手をかける。1人…2人、3人。相手の攻撃によるが、この距離なら剣を使う刀真が有利だろう。遠距離から攻撃してくる敵が居たらフォローに回ればいい。
「あ、出てきちゃった。まあいいか」
「何だてめえら! お前の仕業か!?」
 にっこり笑って刀真は上空を指差す。つられて見上げた先にはワイバーンが大口を開けている。男達はそろってあんぐりと顎が外れるほど口をあけた。
「ちなみに、俺は敵は殺すって決めてるので」
 す、と足を引きトライアンフを構える。ぎらりと冷たい光を放つ幅の広い刀身に蛮族は僅か、怯えたように顎を引く。下っ端か、と刀真は目測した。慌てて転がり出てくる所などいかにも小物っぽい。アホっぽい顔してるもんなあ、と刀真は思った。
 アホといえば理子だ。お忍びと言いつつ名前は『理子っち』。忍ぶつもりはあるのだろうか。まあ、今回は同じ蒼空学園の学友として手を貸そう。そう決めたからこうして陽動班に身を置いているわけで――不測の事態でロイヤルガードとしての力が必要な場合も、すぐさま動く心構えは出来ている。
 刀真の背後では月夜が銃口を男達へ向けている。少しでも動けば撃つ。そんな気迫が伝わってくる。
「死にたくなかったら、邪魔しないでね?」