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リアクション
ライルは胸の内で何度も毒づいていた。
はっきりと口にはされなかったが、足手まといだと言われたも同然だ。
「お前、ライル、何のために砦へ向かうんだ」
「何の為って――敵を取る為だ。あんなことしやがった奴らに」
鬼崎 朔(きざき・さく)の問いかけにライルは迷いなく答えた。半ばムキになって。女性にしては背が高く、黒を身にまとう姿は妙な威圧を感じる。見下ろされているからだろうか。
「1つだけ忠告しておく。敵を討とうだなんて容易く考えるな。口にするな。それがどう言うものなのか、何を意味するのか、分かっていないだろう」
復讐のために半生をささげている朔は、似た境遇の者に自分と同じ様な思いをさせたくはなかった。この世に「絶対的な正義」など存在しない。それが朔の出した結論だ。
「復讐は何も生みやしない。あるのは負のイタチゴッコ、永遠に続く負の連鎖だ。それを“正義”だなんて傲慢な言葉で片付けるな。敵討ちが正義などと思っているのなら、今すぐに止めろ。そんな軽い考えで手を染めるものじゃない!」
ライルだけではなく、理子にも向けた言葉だった。まだライルには希望が残されている。それならば、背負わずにすむのならば、こんなもの持たないほうが良いのだ。
「アンタ達さ、オレの味方なんじゃないの……」
ライルはぽつりと呟いた。
「さっきから何なんだよ……俺の事が気に入らないならほっとけばいいだろ! オレは、オレ1人でだって、ちゃんとやってやる。砦に行って、ランと姉貴を助けてやる!」
「ライル――」
「理子、私達はライル君の護衛に就こう」
駆け寄ろうとした理子は、思いの外強く肩をつかまれ踏みとどまった。綺雲 菜織(あやくも・なおり)が理子に耳打ちをする。
「あの様子だと暴走しかねない。着いて来るなと言っても聞き分けないだろう」
「一人で突っ走らなければ良いのですが・・・・・・」
有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)もライルの小さな背中を見詰めながら菜織に同調する。
同じように顔を曇らせていたのは夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)だった。ライルの叫びはとても痛々しい。周りが見えていない。今の彼は孤独なのだろうと、彩蓮は思った。そっと近づき、できるだけ穏やかに声を掛ける。
「ライルさん、みなさん、あなたのことを心配しているんですよ」
「そうは思えないけど」
「方法はそれぞれ違っていますけど、みなさん、ライルさんのことをちゃんと考えているんです。だから、ちょっと厳しい事も口にするんです」
ライルは彩蓮へ視線を向け、それから顔をそらした。すげなく突っぱねたと言うのに、嫌な顔1つしない。。
「それに、ライルさん、護衛というのは信頼関係が無いとダメなんです。背中を預けるというのは、そういう事なんですよ。命を預ける、命を懸ける。その相手をお互いに信じられなかったら、上手く行くものも上手く行かなくなってしまいます」
黙り込んだライルに、彩蓮は優しく微笑んで見せた。
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