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 テスラの心中にはイゾルデの存在が、貴瀬と瀬伊、そして歩の脳裏にはイズールトという少女の存在が浮かんでいたその頃。完成した花輪を嬉々とした様子で手にしながら、リュナが素直に微笑んでいた。
「出来たよ」
 険しい路を戻りながら、本当に嬉しそうな様子のパートナーに対し、蛇々は黒い髪の端を指で巻き取りながら、少しだけ優しい瞳を浮かべた。
 リュナがピンク色の花で編んだ輪は、実にみずみずしく陽光を反射するように、細く白い手の中で映えている。
「ほら、さっさと行くんだよ。――大体、どうして急にそんな花を……」
 他にいくらでも花なんて在るだろうと思いながら、蛇々が溜息をついた。
「あのね、このローダンセの花言葉の意味、知ってる?」
 すると少し後ろを歩いていたリュナが頬を持ち上げた。
 言葉に窮した蛇々が、蒼空学園へと続く通学路の地を踏みながら、何か言おうと唇を動かす。

「変わらない思い」

 その時応えたのは、丁度路地にいたヒルデガルトだった。
 蛇々とリュナが揃って視線を向ける。
「無論私が存じていたわけではありません。私には、リュナさんの想いが視えたのです」
 美しい薄茶色の髪を隠すようなローブの裾に手を触れたヒルデガルトに、その時あゆみが追いついてきた。
「ちょっと待ってよ。トリスタンを迎えに行くってどういう事? 誰それ?」
 肩で息をするように声をかけたあゆみの事を、蛇々がまじまじと見据える。
「ま、いいや、ヒルデを信じるよ。その人と、あの金髪の娘が関係してるって事よね」
 しかし蛇々達の視線には気づかぬ様子で続けたあゆみは、一人静かに頷いたのだった。
「あゆみさんが納得出来る結末を迎えるための道筋を相手に強いるのではなく、相手の望む未来のヴィジョンへの軌道を確保し、背中を押し導いてこそ愛のレンズマンと言えましょう」
 あゆみに対してそう答えながらヒルデガルトは、リュナの持つピンク色の花輪へと視線を落とした。
「あきらかな間違いを正すことは簡単です。ですが、正しいことが絶対の善である保証はありません。嘘の中に愛や信頼があるといった事もあるのです」
「なによ、リュナが頑張ったことが間違いだとでも言うの?」
 蛇々が一歩前へと進み出ると、微笑を浮かべてヒルデガルトが首を振る。
「ふふ、視えました……みんなの笑顔が」
 その声に、三人が、それぞれ目を瞠る。
「願わくば二人の魂が永遠でありますよう――その為にも、相手の話しをよく聞き本質をつかむ事が重要なのです」
 ヒルデガルトのその声に、リュナが首を傾げた。
「えっと、あたし達は今から伝説のある樹の所に行こうと思ってて」
「了承しています」
「私達もそのトリスタンとか言う騎士がいるところに行こうとしてるんだよね」
 あゆみが頷くと、蛇々が困惑するように黒い瞳を揺らした。
「じゃあ……その……」
――一緒に行く?
 そこまでは口にすることが出来なかった彼女だったのだが、その内心を読むようにヒルデガルトが頷いた。
「ええ、ご一緒させて頂きましょう」