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「良かった、あったよ。あれだもん」
 蛇々の一歩先で、リュナが素直に嬉しそうな声を上げた。可愛らしいリボンが風に揺らされている。駆けだしたリュナの正面には、一面――とまでは言えないだろうが、ローダンセがピンク色の絨毯を築いていた。
 一件粗暴に見えても実のところとても臆病な蛇々は、苦労してここまで辿り着き、そして実際に目指す花を見つけられた事に、心底安堵していた。
「早くつむんだよ」
「蛇々おねえちゃん我が儘言ってごめんね」
「……」
 結局リュナの頼みを断らなかったのは、蛇々である。彼女は何を言うわけでもなかったが、その険しい目が少しだけ優しくなったように見えるのは気のせいではない。
 蛇々は元々他人に対して素直になれず、逆に皮肉ったり、わけも無く怒鳴ったりを繰り返してしまう不器用な少女なのである。だから友達だと呼べる者はほとんどいないのだ。けれど心根は本当に繊細だ。その為、ごく稀に小さな気遣いを見せるのだが、またそれが他者には非常に分り難いものなのである。
 よって他人を威嚇し寄せ付けなかった蛇々の頑なな心を、解きほぐすと共に契約を結んだリュナは、蛇々にとって妹のような存在だった。そうして同時に、真に心の友であるといえるような相手なのでもある。
「蒼空学園の方が騒がしいけど、何かあったのかな?」
 遠くから響いてくる轟音と、リュナのそんな声で、蛇々は我に返った。
 気がつけば目の前には、ローダンセの花を摘みながら、花輪を作り始めたリュナの姿がある。
「良いから、気にしないで早く作るんだよ」
 ぶっきらぼうにそう告げて、蛇々は視線を逸らしたのだった。