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少女の思い出を取り戻せ!

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少女の思い出を取り戻せ!

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 村の一角……別のルートから侵入していた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は、警備を離れていた蛮族のひとりを捕らえていた。
 その手足は佑也のフラワシによって氷に包まれ、地面と壁にそれぞれ縫い付けられている。蛮族はおびえた表情でガタガタと歯を鳴らしていた。
「俺は村人を助けに来た」
 低く、冷たい声。その瞳はぞっとするような色を放っていた。
「本当なら、お前たちを徹底的にたたきのめしたいところだが、今は人命救助が優先だ」
 そして、蛮族のモヒカンを凍り付かせながらささやく。
「村人はどこに捕らえた? 人数は?」
「ひ、ひいいっ……」
 しかし、蛮族は恐慌をきたし、質問の意図も計りかねている様子だ。佑也はさらに苛立ちをつのらせる。
「素直に言ってくれれば、命だけは助けてやる。OK?」
「こ……殺したのは、反抗したやつだけだ。すぐにおとなしくなった……から、残りは、生かしてある……み、見張りやすいように、5家族を1軒くらいにまとめて押し込んでいる。む、村人が居る家は、ペンキで印をつけてある……」
 かすれた声で蛮族が答える。
「よし」
 凍り付いたモヒカンから手を離し、佑也が頷く。
「さっき助けてやるって言ったな? あれは嘘だ」
 さらに強い冷気が手から溢れる。冷気は蛮族の体を包み込み……
「待て!」
 女の声が響く。朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)が横から佑也の手を掴み、彼を押しとどめる。
「……邪魔をするな」
「いいや、その行動は判官として見過ごせない。罪を犯したものは、罰せられなければならない」
「だったら、この場で俺が罰を与えてやる」
 佑也の返事にも、千歳はひるまない。きっと口元を結び、
「それが見過ごせないと言っている。私は法の番人として、彼らに裁判を受けさせなければならない」
「それに……」
 千歳の背から、新たな声が掛かる。長身の女。イルマ・レスト(いるま・れすと)は佑也に向けて小さく頭を下げて挨拶をしてから言葉を続けた。
「敵にはネクロマンサーがいるのでしょう? 死体を増やすのは危険ですわ」
 ぴくりと佑也の眉が震える。しかしすぐに、その表情には酷薄さの代わりに知性が戻り、なるほど、と頷いた。
「しかし、大声を出されて味方を集められたらやっかいだ。口は塞いでいこう」
「異議なし」
「同じくですわ」
 佑也の提案で満場一致。三人は蛮族の口を塞ぎ、得た情報を皆に伝えるために走り去っていった。



 一方、人質の救出以外の目的を持って潜入した者も、居る。
「陽動が成功したみたいだ。行きましょう!」
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)がかけ声とともに剣を抜き、村の裏手から飛び込む。
「ぬっ!? なんだ!?」
 出撃命令が届いていないのか、それとも単にサボっていただけか、裏手に居た蛮族が驚いて振り返る。
「邪魔はさせません!」
 が、腰に吊していたトマホークを抜くよりも早く、和輝の剣に思い切り打たれる。
「ぐぎゃあっ!?」
 悲鳴を上げ、倒れる蛮族。和輝は剣を収め、後ろを振り返った。
「いいですよ、始めてください」
「は、はい、がんばりますっ」
「しっかり掴まっていてください」
 和輝の声に応えて、二人の人影が1つのバイクに跨がり、飛び込んでくる。クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)安芸宮 稔(あきみや・みのる)だ。
「場所は、分かりますか?」
「はい、源さんの調査で見当をつけていただいています」
「人質も、周囲にはいないはずです」
 二人が答える。和輝が頷くと、稔がバイクを運転し、その背にしがみついたクレアと共に走り込んでいく。
「よし。私はこのあたりの蛮族を掃討しますか……」
 和輝は剣を構えたまま、二人とは別の方向に走る。
 そのとき、悲鳴が聞こえた。
「ん……っ!?」
 和輝が物陰からうかがうと、モヒカン頭の蛮族が、トマホークの代わりに鞭を手にし、村人だろう女性を縛り上げていた。
「なにやら騒ぎが起きているようだが、関係あるか! 俺はなあ、女の苦しんでる顔を見るのが唯一の生き甲斐なんだよぉ!」
 欲望をむき出しにして、蛮族が鞭を振り上げる。・
 バシッ! と音を立てて鞭を打つたび、女が悲鳴を上げてのけぞる。
「ヒャーハハハ!」
 そのたび、蛮族が下品な哄笑を上げる。和輝は腹の底にわき上がる怒りを抑えきれず、剣を手に駆けだした。
「やめなさい!」
「あぁん? なんだ、ガキが! どこから入り込みやがった!」
 少年のようにしか見えない和輝を蛮族は侮ったらしい。
「こいつが見えねえのか!? ちょっとでも動けば、この女を……」
 蛮族は女に手を伸ばし、和輝への人質にしようとする。が……
 ぱしっ。
 と、軽い音と共にその腕が掴まれていた。
「あ……?」
 その男が顔を上げるよりも早く。腕は掴まれ、ひねりあげられていた。
「いぎゃあ!?」
「偶然ねえ。あたしもかわいい女の子が大好きなの。もっとも、あたしが好きなのは喜んでる顔だけどね!」
 緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)が容赦なく、その腕をねじる。
 ぼきんっ。
 聞くだに嫌な音が蛮族の方から響いた。思わず目を逸らした和輝が視線を戻すと、男は口から泡を吹いて倒れていた。
「あ……あなたは、村人を助けに?」
「まあね。実益を兼ねて、ってところだけど」
 紅凛は手刀で女性を縛り上げていたロープを断ち切ると、意識を失ってしまったらしい女性の体を抱える。
「実益……というのは?」
「まあ、この子、こんなに傷ついて……危険ね、すぐに私の家に連れて帰って治療をしてあげないと! ……え、何?」
「いえ、もういいです」
 美女を手に入れて嬉しげな紅凛の様子に、思わず和輝は頭を抱える。
「あなたも、カワユイじゃない。一緒に来る?」
 ふと、紅凛が和輝に妖しい瞳を向ける。ぞわっと背筋が泡立つような気がして、和輝は首を振った。
「い、いえ……な、仲間と一緒に来ているので」
「その仲間は?」
 きょとん、と紅凛が周囲を見やる。
「いや、実は……」
 と、和輝が言おうとしたとき。
 ドオオオオオンっ!
 激しい爆発音が村中に轟く。遠くない場所で火柱が上がり、もくもくと黒煙が上がりはじめた……
「……まさか、あれ?」
「ば、蛮族の弾薬や燃料を狙うって言ってたんですけど……」
 蛮族は予想外に、大量にため込んでいたらしい。派手な爆発を眺めて、和輝は思わずうなった。
「……大変なことになりそうね。じゃあ、あたしはこれで!」
 紅凛は超人的な身体能力で村の柵を越え、あらぬ方向に駆けだしていく。
「ああっ、ちょっと、待って……と、いうか、そっちは本陣でもなんでもない方向ですけど……」
 大荒野に女性を抱えて走り出す紅凛の背中を見つめ、背中に熱風を感じながら和輝は呟いた。