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リアクション
「蛮族たちの士気が崩壊しはじめているわ。村から逃走し始めている……」
セレンフィリティ・シャーレットが報告を受け、状況を確かめる。
「ひとりも逃がさないで」
「今日はずいぶん、クールなのね」
その様子に、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がからかうようにささやく。
「……別に、必要だからそうしているだけよ。それより、行くわよ」
突撃銃を両手に構えてセレンフィリティが顎をしゃくる。
「オーケー」
と答え、セレアナもまた槍を構える。
「ゴー! ゴー!」
セレンフィリティのかけ声に合わせ、契約者たちが走り出る。村へ追い詰めた敵が飛び出してくると見越しての待ち伏せ作戦である。これは見事に決まり、次々に逃げ出した蛮族たちが捕らえられていく。
「ひとり残らず、ぶっ殺してやる……」
岩陰から飛び出し、駆けるのは如月 正悟(きさらぎ・しょうご)。その手には2つの刃を両端にそろえた光条兵器。
それが触れるたび、蛮族たちの体が弾き飛ばされ、次々に吹き飛ばされていく。
「お前たちの死で、殺された村人への鎮魂にしてやる!」
「ひ、ひいいいっ!?」
突き飛ばした蛮族に向けて、武器を構える。白く光る刃が、蛮族の胸の中心に向けて、振り下ろされる……。
「やめろっ!」
横から別の剣が現れ、その刃を弾く。
「ちっ……何をする!?」
正悟が振り向く。彼の刃を弾いた巨大な剣の持ち主は、誰あろう七刀 切だ。
「確かにこいつらを許さないけどな。殺すのだけが報いじゃないだろう?」
「無法の大荒野に出た時点で、こいつらにも殺される覚悟くらいはあるはずだ!」
正悟がにらみ返すが、切も引かない。
「だったら、その覚悟しているやつを殺して何になる? ここで怒りに身を任せて殺したら、こいつらが悔いることもない、こいつらが殺した人たちに謝る機会もなくなるんだぞ」
ふたりの光条兵器が、つばぜり合い、じりじりと震える。
「こ、この間に……」
正悟にとどめを刺されそうになった蛮族が、地面を這って逃げ出していく……が。
ドドドドッ!
高く響いた銃声。放たれた弾丸が村の看板を弾き飛ばす。それは寸分違わず、逃げだそうとした蛮族を巻き込んで地面に落ちた。
「ぐげえっ!?」
つぶれた蛙のような声とポーズで倒れる蛮族を見下ろし、射手……セレンフィリティが肩をすくめた。
「こだわるのはいいけど、作戦の目的を忘れないでよ。蛮族を殺すことじゃなくて、村を解放するのが目的でしょう?」
「……熱くなりすぎだ。相応の報いっていうのは、何も殺すことだけじゃないよ」
切が先に剣を引いた。正悟はゆっくりと首を振った。
「……分かった。とにかく、全員捕まえてからだ」
正悟もまた剣を引き、振り返る。ふたりは別の蛮族を捕らえるため、駆けだした。
「……村のものを壊すのも、目的じゃないと思うんだけど?」
「う……」
背後からの指摘に、セレンフィリティがうなる。セレアナは、やれやれと肩をすくめた。
「熱くなりすぎないでね、壊し屋セレン」
セレアナは自分の感情を抑え切れていない相棒の様子に、ほんの少しの安堵を感じていた。
「逃げるのをやめろ! 逃げれば追う! 追いつけば殺すぞ!」
夜月 鴉(やづき・からす)が声高に叫ぶ。武器を担ぎながらの威圧。それで蛮族たちが止まるはずもなく、一層必死で逃げはじめた。
「チッ! 仕方ねえ……!」
鴉は地を蹴って駆け出す。
「逃げるんじゃねぇ!」
「そう言われて誰が止まるか!」
もはやバイクを失い、這々の体で逃げ出す蛮族の男。その眼前に、突然刃が飛来した。
「うう、おおっとぉ!?」
男が身をかがめてかわす。放たれたダガーは蛮族のモヒカンをザックリと斬り飛ばすだけに終わった。
「鴉、いまだ!」
ダガーを投げた本人……レーネ・メリベール(れーね・めりべーる)が言う。蛮族はダガーの攻撃をかわすため、大きく身をのけぞらせていた。
「ああ!」
叫び、手を突き出す。鋭い爪が、男の背に突き立った。
「ぎ、ぎひいいいいい……!」
男の血から、生命力が流れ込んでくる。そうして力を奪い、動けなくするのだ。
「まだ来るよ。気をつけて」
夜月 壊世(やづき・かいぜ)が周囲を確かめる。契約者たちの追撃が、確実に蛮族たちを捕らえているようだ。
だが、窮鼠猫を噛む。追い詰められた蛮族が、一丸となって向かってくる……鴉たちが守っている一角を、防御が薄いと見たらしい。
それぞれが武器を手に敵を迎え撃とうとしたそのとき。
「ああ……っ、ぐ!?」
突然、鴉が頭を押さえてうずくまる。
「鴉? どうした!」
「前を!」
思わず駆け寄ろうとするレーネに、壊世が声をかける。ふたりは迫る蛮族と、それぞれに相対した。
「ぐ……あっ!?」
「ヒイヤッハー!」
痛みに動きが鈍る鴉へ、蛮族のトマホークが迫る。それはしたたかに鴉の胴を打ち、弾き飛ばす。
「なんだ、てんで弱っちいぜ!」
打ち倒した蛮族が、トマホークを掲げて先を示す。レーネや壊世が相手取る敵も一斉に勢いづく。
が……鴉は、薄れ行く意識の中で思考が駆け巡るのを感じた。
「こんな……こんな所でやられて溜まるかっ。こいつら……こいつら、殺してやる!」
心中の叫び。瞬間、打ち倒された体が跳ね上がった。
「っ……なんだ!?」
驚く蛮族の体をどうと突き飛ばす。その体からはナラカの気が立ちのぼり、ぎらついた異様な光が目に宿っている。
「殺ス……皆殺シダ!」
光条兵器を引き抜き、構える。一瞬に蛮族のただ中に入り込み、立ちのぼる気と超常の筋力で蹴り、殴り、打つ。
「ぎいいいやああ!?」
蛮族の悲鳴が幾重にも重なる。そうしてレーネや壊世が相手取っていた蛮族たちすら倒してからも、鴉は武器を手に、蛮族にとどめを刺そうと近づいていく。
「殺ス……許セナイ……」
「もういい、鴉。終わったんだ!」
その背に抱きつき、レーネがおびえたように叫ぶ。過去のことがフラッシュバックするのを、必死に抑えていた。
「邪魔ダ!」
どん、と鴉がレーネを突き飛ばす。
「あっ……!?」
恐怖心で体が思うように動かない。レーネはそのまま、荒野に尻餅をついた。
「か、鴉……?」
鴉はもはや、正気を失っているように思えた。しかし、レーネの声を聞くと、一瞬、
「あ……」
目に光が宿る。が、すぐに頭を抱え、
「ぐあ……っ!」
悲鳴と共に倒れ込んだ。
「鴉!」
思わずレーネが駆け寄り、体を抱き上げる。今度は、正真正銘、気を失ったようだ。
「そうか、兄さん……やっぱり」
壊世はその様子を見て、小さく呟く。
気づけば、荒野には静けさが戻っていた。
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