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リアクション
第5章(4)
エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)達の乗る旗艦オールド・ワンの後方に現れた多数の船。それはアークライト号の障害として立ち塞がるべく現れた新たなる艦隊だった。
「おや、あちらの皆さんも気付いたようですね。ですが、少し遅いですよ」
分断されないようにと中央に寄ろうとするエル・ソレイユとクイーン・アズ・リベンジの二隻に対して増援の艦隊が砲撃を行う。その隙に最初の残存艦隊が道を塞ぐように展開し、アークライト号への道を作り上げた。
「いつまでも遠くからではつまらないですからね。輝夜さん、私達も前に出るとしましょう」
「オッケー、エッツェル! 野郎共、進めー!!」
緋王 輝夜(ひおう・かぐや)の号令と共にオールド・ワンとその護衛艦が前進する。
それを受け、アークライト号の護衛に回っていたヘイダル号も動き出した。
「花琳ちゃん。このままだとアークライト号がマズいわよ」
「むむむ……あっちには花梨さんとかがいるし、護らないといけないよね」
アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)からの報告を受け、ヘイダル号の船長である花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)が後方へ向かう。そこには操舵を行っているブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)と、鬼崎 朔(きざき・さく)がいた。
「ブラッドちゃん! お姉ちゃん! 海賊が来たよ!」
「分かってるぜ、花琳。丁度今朔ッチと話してた所だ」
「私達でアークライト号を援護しよう。花琳は砲撃の指揮を。私も敵船を狙い撃つ」
ヘイダル号が大きく転回し、側面をアークライト号の前、接近する海賊達の方向へと向ける。
居並ぶ大砲の間に立ち、朔は対イコン用の爆弾がついた弓を構えた。
「海を支配する海賊……同じ海賊として今、悪が外道を討つ……!」
「お姉ちゃんも皆も頑張って! ヘイダル号、攻撃開始!」
砲弾と爆弾が敵艦隊へと飛んで行く。オールド・ワン達多くの船の動きは止められなかったものの、手前にいた一部の船はヘイダル号の攻撃を受けて船体を損傷していた。
「わわっ、やるなー向こうも。何隻かは今の船に反撃して! ネームレス! 私達はアークライト号を狙うよ!」
「お任せ……下さい…………姉君……」
輝夜に呼ばれたネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)が瘴気で造られた鳥とイカのようなものを召喚した。それを次々とアークライト号に向けて放つ。
「行って……らっしゃい……」
放たれた二匹の獣がアークライト号の船体を揺らし、更に触手で動きを鈍らせる。その隙を突き、アーマード レッド(あーまーど・れっど)が右肩と両脚部にある合計十二門のミサイルポッドを一斉発射した。
「対象ノ回避能力低下ヲ確認。攻撃ヲ第二パターンニ移行」
距離を詰められていた事、そして動きを抑制されていた事によってアークライト号が直撃を受ける。その攻撃は補強した部分を破壊し、船体にダメージを与えるほどだった。
『真司! 右舷前方に二箇所、左舷前方に一箇所です!』
「分かった、任せてくれ」
船内では柊 真司(ひいらぎ・しんじ)を始めとする、船体の強化に携わった者達が走り回っていた。甲板に待機しているヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)からの連絡を受け、素早く破損箇所の修復に向かう。
「左舷が一箇所って言ってたな。そっちには私が行こう」
「頼む、永太。俺達はこちら側、一箇所ずつだ」
「分かったわ!」
神野 永太(じんの・えいた)が左舷へと走って行き、真司とノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)は右舷側の破損箇所の修復に向かった。そしてそれぞれが手早く修理をして行く。
「ここか……随分やられてしまったな。早く補強しないと」
一人別方向へと向かった永太は自前の工具を取り出し、手際よく板を打ち付けていく。傷そのものは浅いと言えるが、その分破損範囲が広かった。それらを次々と埋めるように後ろ手で板を取り、修復箇所へと貼り付けていく。
「えっと、次の板は……」
「はいよ」
「あ、有り難う………………ん?」
思わず後ろを振り向く。だが、この場には自分以外は誰もいなかった。
(さて、次は、と……)
その頃、板を手渡した張本人である紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は手の足りない所へと走り回っていた。隠形の術を使っている為気付かれにくいが、実は航海を始めた時からこうやって色々とサポートしていたのだった。
その頃、甲板上では別の動きがあった。新たに召喚した瘴気の大虎に乗り、いくつかの船を跳び越えてネームレスがアークライト号へと乗り込んできたのである。
「単身とは大した自信ですね……良いでしょう。この九条 風天(くじょう・ふうてん)、お相手仕ります」
「クク……存分……に…………暴れ……ます…………よ……」
風天が納刀した柄に手をやり、ネームレスが大戦斧を構える。そして動き出したのは――二人同時だった。
「……はっ!」
「行き……ます……」
振り下ろされる大戦斧を抜刀して受け止める。そのままでは斧の重量と振り下ろしの威力に圧される所を、風天は金剛力で強化する事で強引に弾き返した。
「まだ終わりではありませんよ……!」
続けての疾風突き。それは回避される。更にそのまま肩口へ刃を滑らせるが、防御に特化したネームレスの身体はそのダメージを最小限にまで抑えていた。
「素晴ら……しい…………攻撃……に……躊躇が……ありま…………せんね……」
「当然です。貴方がたのリーダーは大吾さんの友人のようですが、襲い掛かってくるのであれば容赦はしませんよ」
「ちっ……右舷! 敵三番、狙い撃て!」
エドワード・ティーチ(えどわーど・てぃーち)の号令でクイーン・アンズ・リベンジから砲撃が行われる。その直撃を受けて敵船の一隻が航行不能になるが、その穴を埋めるように他の船が立ち塞がった。
「エドワード、これじゃキリが無いよ」
「分かってる! ったく、大して強くねぇくせに数だけはいやがって……」
相手の隙を突いて秀真 かなみ(ほつま・かなみ)が幾度か突破を試みようと舵を取るが、その度に他の艦船がカバーするように位置を変え、中々アークライト号の救援に向かう事が出来なかった。更にそこに、ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が別方向から接近する艦隊を見つける。
「あらあら、また敵さんの増援でしょうか〜?」
「んだと!? くそっ、かなみ! 針路を西に修正! 挟撃を避けて増援を迎え撃つ!」
「了解だよ!」
「……待って、あの艦隊……海賊じゃないわ」
艦隊の帆に描かれた紋章を見て水神 樹(みなかみ・いつき)がつぶやく。その艦隊は整然と隊列を組み、一糸乱れぬ航行を見せていた。
――そう、あれは海賊船では無く、軍艦である。
「陛下、敵艦隊を捕捉致しました」
接近する複数の軍艦、その旗艦であるリヴェンジの甲板で、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は自らが仕えるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)に戦況を報告していた。
彼女達はこれまでの数人と同じく、物語の登場人物として与えられた記憶を基にする者達であった。
その与えられた記憶とは、この『嵐の海』の片隅に存在し、航路の安全確保の為に海域の海賊掃討を行っている島嶼国家『ハイヴァニア連邦王国』の軍人、そして国を統べる女王としてであった。
「妾の海で狼藉を働く者がまだ存在するとはな……だが、決して看過はせぬ。ローザ、兵達の様子はどうか?」
「はっ、皆士気高く、女王陛下の御為に戦える事を喜んでおります」
「左様であるか。ドレイク、そなたはどうか?」
「勿論バッチリですぜ、陛下。俺様の部下にゃ、この程度の嵐で怖気づく野郎なんかはいやしませんぜ」
グロリアーナの脇に控えていたフランシス・ドレーク(ふらんしす・どれーく)が強気に答える。彼はこの旗艦リヴェンジの艦長として艦隊全体の航行を指揮する立場にあった。
二人の答えに満足そうに頷くグロリアーナ。彼女が立ち上がり、甲板にいる兵士一人ひとり――こちらも小人達なのだが、彼女達は何故か違和感を抱いていない――の姿を見回す。
「そなたらの忠誠、妾は実に嬉しく思う。此度の戦はこの海の平穏を呼ぶ為、ひいては妾が、そしてそなたらが愛する民達の為の戦である。皆、戦いを怖れるな。護るべき者がいる我らの誇りを失うな。勇ましく戦え、兵(つわもの)よ。さすれば勝利はおのずと我らの下に訪れるであろう」
女王の言葉に兵士達の士気が最高潮に達する。下がったグロリアーナに代わり、ドレークが船員へと届くように声を張り上げた。
「おーし! いいかお前ら! 陛下の恥となる戦いはするな! このまま単縦陣で突き進むぞ!」
針路を敵と垂直になるように向け、砲撃に有利な艦側面を展開させる。いわゆる丁字戦法だ。
「大砲、よく狙って撃てよ! ――オープン・ファイアリング!」
ドレイクが手を振り下ろす。それと同時に艦隊から次々に砲弾が発射されていった。
増援は彼女達だけに留まらなかった。
反対側、エル・ソレイユのいる方向からはフラン・ロレーヌ(ふらん・ろれーぬ)率いるフリゲート艦アストロラーベが迫っていた。彼女もローザマリア達同様、ハイヴァニア連邦王国と勢力を二分する大陸の国の軍人としての記憶を基に動いているのだった。
「やられたわね。島国の連中に先手を取られるなんて……でも、祖国の為に負ける訳には行かないわ」
彼女が国から下された命令、それは『海賊を退けて、奪われた宝玉を取り戻す』という物であった。その為この辺りの制海権を連邦王国にほぼ掌握されているとしても、退く事は出来なかったのである。
「砲撃用意! 敵左翼の突端から潰していくわよ!」
フランの指揮を受け、小人達が大砲の照準を定める。
真っ白な帆が特徴の気品漂う船は『星詠み』の名の如く、敵船という星を捉えようとしていた。
「仰角3! キャノン、フルファイヤー!」
海賊達の右翼と左翼、両面から砲撃が降り注ぐ。それらはこの海域の勢力図を書き換え、アークライト号へと有利に働いていた。そして新しく入り込んできた両者は互いに負ける事が無いようにと更に手を強めるのだった。
「陛下、敵軍の後方にフリゲート艦が現れました。恐らく、大陸の船かと」
「狙いはあの賊の船か……妾の海で大陸の者に好きにさせる訳にはいかぬな。ローザよ、そなたの武、見せて貰うぞ」
「はっ。全ては陛下の為に」
「むむ、速度を上げてるあの船……確か島国の旗艦、リヴェンジだったかしら。ボク達に気付いたのかは分からないけど、このまま行かせるとマズい気がするわね……皆! こっちも速度を上げるわよ!」
幾多の勢力が交ざり合い、嵐の海は混迷を極める。この事態を鎮める物、それは宝玉というただ一つの鍵だった――
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