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リアクション
第1章
蒼空新聞、某月某日号……
実録! 蒼空新聞社解放に至るすべて
某日、蒼空新聞社ビルおよび印刷所が鏖殺寺院によって占拠された事件が発生した。
蒼空新聞では、我が社を襲ったこの事件が契約者たちの手によって解決されるまでの一部始終を記事として掲載する。
はじまり静かに 警察の協力を要請
夜半、契約者たちは蒼空新聞社付近に設置された対策本部に集合した。彼らは空京大学のレン・オズワルド(れん・おずわるど)氏が語る言葉により、勇気を喚起される。
そう、契約者たちこそが警察の手に追えぬ難事件を解決することの唯一の存在なのである!
夜、空京某所。
教導団の許可を得て設置された対策本部には、多くの契約者と、彼らを取材し、記事を蒼空新聞社に売ろうという記者が居た。
「まったく、大したもんだな、こりゃ」
レン・オズワルドはその数に半ば圧倒され、半ば呆れながら、彼は両手を打ち合わせた。
「みんな、聞いてくれ」
ざわついていた人々の視線が、一斉にレンに集まってくる。その中で、明るいピンク色の髪を持つ女性が声を上げた。
「あっ、デカ長!」
「誰がデカ長だ」
卜部 泪(うらべ・るい)の発言をいなしながら、レンは彼らに目を向けた。
「まずは状況を確認しよう。蒼空新聞社が鏖殺寺院によって占拠され、機能を停止している」
「ついでに、印刷所まで制圧してくれる丁寧さだ」
源 鉄心(みなもと・てっしん)が小さく付け足した。
「今回の作戦はあくまで警察への協力だ。本来、こういった事件は司法組織が対処するのが当然だが、鏖殺寺院が相手となればそうも言ってられない」
「機動隊は出動していますが、ビルを包囲するのが精一杯というところです。彼らの方から攻撃してくるでなし、このままだと長期戦でしょうな」
マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)が進み出て、経過を説明する。
「自分たちが、対処しなければ」
レンは頷いて、指を立てる。
「今求められているのは、連携だ。鏖殺寺院をヘタに刺激すれば、どんなことが起こるか、分かったもんじゃない。英雄的行為、スタンドプレーは必要じゃない。覚えておいてくれ」
レンの言葉に、いくらかはがっかりした雰囲気が表れる。主に、記者たちからだ。彼らは契約者に好意的な蒼空新聞社に、契約者の活躍する記事を売り渡すためにやってきたのである。
「ですが、デカ長。私たちは監禁されている蒼空新聞社のデスク、トレイシー・イエローの要請を受けて、あなたたちが新聞社を解放するまでの様子を記事にしなければならないんです」
記者たちを代表して、泪がそう言った。
「俺はデカ長じゃないが、つまり?」
「活躍してもらわないと、困ります」
「こっちも、君たちにヒーローに仕立てあげてもらうために来た訳じゃない。君たちが記事を作るのは君たちの権利であり、ビジネスだ。君たちを守るために力を割くのが面倒だと考える契約者もいる。命の保証はないぞ」
マーゼンがその長身で威圧をかけるように言う。しかし、泪はきっとその顔を見返した。
「それぐらいは、分かっています。ジャーナリストにも誇りがあるんですから、仰る通り好きにさせて頂きます」
応えて、取材の準備をするためにきびすを返した。
一角では、微妙な面持ちの朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)とイルマ・レスト(いるま・れすと)が額を寄せ合うように相談している。
「気に入りませんね」
と、イルマが言ったからだ。
「新聞社に圧力をかけるのが目的なら、何もいきなりビルを占拠しなくても他にいくらでも方法があるはずです」
「言われてみれば、そうだな」
千歳も眉を寄せ、小さく呟いた。
「あのFAXも、とても生命の危険がある人が書いた内容には思えない……犯人グループに命令されて書いたものという可能性もあります」
「様子を見た方がいい?」
「ヘタに突入すれば、罠にはまったも同然でしょう」
千歳は腕を組み、しばし考えた後、結論づけた。
「情報を得るべきだな」
「はい」
投降を拒否 鏖殺寺院の狙いは
シャンバラ教導団の一員、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)秘書をはじめ、判官である朝倉 千歳さん、また匿名の教導団員らが、社を占拠したリーダーとの通話を決行した。
寺院の主張や目的を探り、彼らを説得することがねらい。本記事では、その詳細な通話内容を記載する。
「FAXが届いたということは、電話回線は生きているはずだな?」
千歳の進言に、鉄心が頷いた。
「俺もちょうど、そう思っていたところだ。彼らは人質には手を出してはいない。おそらく、まだ交渉の余地がある」
「私も同意見だ。一方的に制圧するのは可能だろうが、過剰な対応という奴だな。まずは彼らと話をするべきだろう」
そう付け加えたのは、御茶ノ水 千代だ。
千歳の考えとはいくらか違っているようだが、とにかく敵対するリーダーと話をしたいと思っている人間がいるらしい。
「わ、私も……話してみたいです。私たちの話も、聞いて欲しいから」
「ま、まあ、わたくしも興味がないことはないですし、お好きになさってはいかがかしら」
鉄心のパートナー、ティー・ティー(てぃー・てぃー)と、なぜかその背中に隠れているイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だ。
「ああ。……かけるぞ」
鉄心が電話を手に取った。イルマによって録音や各種解析の準備は済ませてある。
小さなコール音が鳴る。緊張が高まる。しかし10秒も経たずにコール音は途切れた。
『……契約者か?』
受話器の向こうから、低い、落ち着いた男の声が聞こえた。
「そうだ。シャンバラ教導団所属の源 鉄心という。それに……」
『話すことなど何もない』
男の声は低く、告げた。一瞬、言葉に詰まる鉄心の代わりに、千代が後を引き継ぐ。
「私たちは、君たちが単なるテロリストだとは考えていません。何かの事情があって、こういうことをしたのではないですか?」
しばしの沈黙の後、男は小さく応えた。
『私は鏖殺寺院のメンバーだ。現在、この新聞社を占拠している勢力は私の指揮下にある』
「それじゃあ、この人がリーダーなのですわね」
イコナが呟く。はっとしたように、ティーが声を上げた。
「どうか、私たちの話を聞いてください! あなたたちが、シャンバラと地球の交流に反対していることは知っています。それで、悲しいことが起きたり、嫌な思いをした人だって居ると思います。でも、こんなやり方じゃあ……」
『悪いが、私はこの行いをやめるつもりはない。今更、契約者と話すことなど何もないと思っている』
「本当に、鏖殺寺院なのか?」
問うたのは千歳だ。電話回線を通じて、ふんとリーダーが鼻を鳴らすのが分かった。
『疑っているのか? 私は寺院の一員であることに誇りを持っている。寺院の名を騙るものが居れば、誰よりもまず私が放ってはおかない』
「キミは、理知的な指揮官だと俺には感じられる」
鉄心が再び、リーダーに話しかけた。
「この数の契約者を相手にすれば、おそらくキミたちは制圧されるだろう。それが分からないはずがない。だったら、なぜこんな活動を続ける? キミたちの主張は一体、なんだ?」
『我々の目的は契約者に加担するメディアに裁きを下すことだ。シャンバラ侵略を正当化するような記事が世論を煽り、貴様らの行いを後押ししているのだから、シャンバラを守るものとして当然の行いだ』
「それは国民の知る権利への重大な侵害行為だ!」
『このようなプロパガンダを見逃すわけにはいかん!』
判官としての正義感を露わにして叫ぶ千歳に煽られ、男の声も熱を帯びる。その熱を下げるように、冷静な千代の声。
「私たちは現在、蒼空新聞社をはじめ、いくつかのマスメディアとの連携体制を取っている。君たちが望むなら、彼らに君たちの主張を伝え、報道させることができる」
『不要だ。この行いこそが、我々の主張なのだ。そして何よりも、我々は貴様たちによる制圧など恐れてはいない』
「そんな態度では、わかり合える人ともわかり合えません。どうか、話を……」
『これ以上、話すことなどない。通話を終了する』
男が告げた直後、電話は切られた。
「リーダーの身元、特定できました」
イルマがコンピュータを前に、その場に居る全員に告げた。
「鏖殺寺院の一員であることは間違いないようですね。経歴は、もとシャンバラ開発の技術官僚だった男です。が、『これ以上環境破壊に手を貸すわけにはいかない』と脱退、寺院に寝返ったようです」
イルマが打ちだした資料に目を通し、千代は小さく肩をすくめた。
「自分が推進していた計画で環境が破壊されていることに気づき、罪の意識で寺院に向かったというわけですか。極端から極端に走る人ですね」
「だとしたら……」
千歳は頭痛がしそうな額を押さえて、大きくため息を吐いた。
「ヘタに偽物を相手にするより、よっぽど面倒なことになりそうね」
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