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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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一方その頃、炭坑の外では和やかな空気が流れていた。
「はい。アナタ、ご飯ですよ」
「う、うむ……」
「今日もお仕事おつかれさま。夕ご飯はあなたのだいすきなハンバーグにしたんですよ。いっぱい食べてね」
 すっかり泣き止んだ少女は可憐とヴァルを巻き込んでオママゴトをしていた。母親役になりきってご満悦だ。笑顔も見せてくれる。それは喜ぶべきところなのだが……少女から受け取った『ご飯』を前にヴァルはどうしたものかと思い悩んでいた。少女がそんな胸中を知るわけも無く「今からおみそしるを用意しますからね〜」と歌うように何やら砂や小石をかき集め始める。
「ごめんなさい、ヴァル様」
 可憐は声を潜めた。
「どうしても、サエナちゃんがお父さん役が欲しいって」
 サエナとは少女の名前だ。ほほえむ可憐はこの舞台設定では子供役だった。サエナに「ちゃんとぴーまんも残さず食べるのよ」といわれ「はーい♪」と返事している。送られてくる情報を元にマッピングなどしながら炭坑口で待機していたところ、ちょこちょこ近寄ってきた少女がマントを掴み、物言わずじっと見つめてきた時は何かと思ったが。
 胡坐をかき、腕を組んだまま目の前にならべらた“夕飯”を凝視する。大きな葉の上に乗せられた泥団子。どこから拾ってきたのか細い枝を2本「おはしですよ」と推さない手で並べていく。
「はい、いただきます」
「いただきます♪」
「い、頂きます」
「お父さん! ちゃんと手を合わせなくっちゃダメですよ!」
 かれんちゃんにしめしがつかないでしょう! と叱られるヴァルはどうにも頭が上がらなかった。
 
「おい、おまえら」
 炭坑の中を気にしつつも、可憐とアリスの持ち前の明るさですっかり気分を取り戻してきた少年達へ声を掛ける者が居た。リル・ベリヴァル・アルゴ(りる・べりう゛ぁるあるご)だ。外見が自分達と変わらないために少年達はほとんど警戒しなかった。遊んでいた手を止め、ボールを抱えている。
「こんな所で油を売っていて良いのか」
「あぶらをうる?」
「そんな言葉も知らんのか、これだからガキは面倒くせえんだよ」
眉を顰めた。バカにされたことだけは分かったらしいリベリアが口を開いたとこへ掌を押し付けた。
「本当に待ってるだけで良いのか? 悔しくないのかおまえら。男なら大事なもんぐらい、自分で取り返してみろよな!」
「僕だって行きたいけど……でもどうするの。お姉ちゃんたち。一緒にいるから、見つかっちゃうよ」
 しばらくうんうんと唸っていたが、ダリスがぽん、と手を叩いた。
「……そうだ!」

 
「ねえねえ、アリスお姉ちゃん。オレ達ねー、缶ケリやりたいな!」
「缶ケリ?」
「うん、さっきね、そこでダリスが缶を見つけたんだよ!」
 得意げに頬をかいている。
「わかった。じゃあお姉ちゃんが最初は鬼になろうか!」

 アリスが数を数えている間、少年達はママゴトの最中に「買い物」として近くを散策していたサエナをそっと手招いた。指を立て「しーっ」とするリベリアを見て、咄嗟に両手でふさぐ。
「良いか、オレ達、もういっかい秘密基地にいってくるから」
「で、でも、あぶないよ……」
 かくれんぼでもするのかと思っていた少女は、少年の言葉にとたん、瞳を潤ませる。
「お前の人形、ちゃんともって帰って来てやるからさ。だから、あいつらにはオレ達が中に入ったって、言ったらダメだぞ」
「う、うん……」 
「ほら、はやくしろ! 気付かれる!」
 リルの掛け声で「じゃあな」と炭坑口へ向かっていく小さな背中を見つめながら、少女はどうして良いか分からず、辺りをきょろきょろと見渡し、その場から走り去った。

 月詠 司(つくよみ・つかさ)は姿を隠し、こっそりと理子一行について炭鉱へと入っていった。ヴァルの存在が気がかりだったが、上手いことママゴト付き合わされており、警戒がそれほど厳しくなかったのが救いだ。ここに居るのは司自身の意思と言うより、パートナーに引っ張られたという方が正解に近い。
「ほら、こっちだ。早くしろ」
「見つかったら帰れって言われるんじゃねーの」
「おまえらの方がここ、詳しいんだろ。裏道とか知らないのかよ」
 思わぬ声に振り返ると、リルが男の子達を引き連れてこちらへ向かってくる。隠れ身を解き、慌ててリルのワンピースの襟を引っ張った。
「ちょっ、ちょっと! リルくん! 何やってるんですか!」
「あ、パパ。ここに居たんだ」
 ぱっと喜色を浮かべたリルは、司の焦りも全く意に介していない。
「子供達を連れて来るなんて聞いてないですよ!?」
「だーいじょうぶだって、ちょっとこのまま世直し一行の所まで連れて行くだけだから! あたし達が居ればお荷物になって、あっちの動きも制限されるってもんだろ?」
 上手く言えばさらに分断させることになるかもしれない。外へ連れ出されるならそれでも良いだろう。人員を割かなければいけない状態を作り出せれば良いのだ。そう言われても「はいそうですか」と見過ごすわけには行かない。
「はー……もう、わかりました。道中、子供達の安全は私が守りますから。でも、いざというときはリル君も責任持ってくださいよ……」
「分かってるって、パパ♪」
 何のためにあたしまで付いてきたと思ってんだよ。ばちこん!と片目をつぶり親指を立てるリルに司は苦笑するしかなかった。

「ですって。本格的に調査するみたいよ、どうするの?」
 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は司たちからの情報を並べ立てていた。相手は気が気でないのだろう。シオンが口を開くたびに机を指で叩いたり火をつけたばかりお煙草をもみ消したりと落ち着きが無い。
「結構な手練が居るから、証拠隠滅したいなら、早く向かったほうが良いと思うけど」
「そ、そんなこと、言われんでも分かってる!」
 そう吐き捨てて男は慌てて店を飛び出していった。