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リアクション
第6章
「ああ……俺は本当に駄目な奴だなぁ……」
と、大絶賛自己嫌悪中のなのは相田 なぶら(あいだ・なぶら)である。
ご多分に漏れず飛んできた手錠に繋がれてしまったなぶらは、パートナーの木之本 瑠璃(きのもと・るり)を咄嗟に庇った瞬間、自分の両手が手錠で繋がれてしまったのである。
その結果として、日頃から心の奥底にしまい込んでいた不安が噴き出してくるショックに耐えられなくなったのである。
両膝をがくりと落とし、乾いた笑いを漏らす。
「俺はどうしてこうなんだ……。勇者を目指すとか言っといて気付けばもう20歳……。
未だに何にもできちゃいない……こんな奴、普通に考えればただのニートじゃないか……。
戦争でもエリュシオン側についてシャンバラじゃ公敵扱いだし……。
俺個人の問題じゃないよな……パートナーだっているんだし……」
そのパートナーの一人である瑠璃は、ひたすら負の連鎖に落ち込んだなぶらの肩をがくがくと揺すった。
「なぶら殿、なぶら殿!! しっかりするのだ!!」
だが、そのなぶらの瞳に瑠璃の姿は映っていない。
「ああ、そうだよ……俺なんかと契約しちゃったパートナー達が可哀想だ……。
一人じゃなんにも出来ないくせに一人で突っ走ってみんなに迷惑かけて……。
ハ……ハハハ……俺なんか……俺なんか本当に……爆発しちゃったらいいのかもなぁ……」
「――なぶら殿!!」
ゴッ、と鈍い音がした。
なぶらの頬スレスレをかすめて、瑠璃の拳が後ろの壁を砕いたのだ。
「――瑠璃――」
「なぶら殿――我輩は悔しい……悔しいのだ!!」
瑠璃の拳が、肩が、わなわなと震えていた。
「なぶら殿は――なぶら殿は自分のことをそんな風に思っていたのか!?
自らの信念を貫くためにシャンバラを敵に回したのではなかったのか!?
なぶら殿が駄目な奴だなどと、我輩は思ったことはないのだ!!
初めて出会ったあの日――あの日からずっと、我輩を助けてくれたあの日からずっと我輩の勇者はなぶら殿だったというのに!!
我輩は悔しい!! 心の奥底でほんのちょっとでも、なぶら殿がそんな風に思っていたことが悔しい!!!」
ぼたぼたと、瑠璃の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
「瑠璃……」
「このパラミタにおいてパートナーとは家族ではないか!! 家族に迷惑なんて――いくれでもかければいいのだ!!
困ったら助け合えばいいのだ!! そのための家族、そのためのパートナーではないのか!?」
ずるりと、後ろの壁にもたれかかって視線を外すなぶら。
「……ごめん……」
瑠璃は立ち上がり、力強く拳を作った。
「その手錠がいけないのだ……大丈夫、その手錠は爆発しないのだ」
「え……?」
見上げるなぶらに、瑠璃は精一杯の笑顔を見せる。
「いつもなぶら殿は我輩を助けてくれる……。だから今日は我輩がなぶら殿を助ける番なのだ。
その手錠を外す方法を見つけて、すぐに帰ってくるから……待っていてほしいのだ。
そうすればきっと、我輩が尊敬するいつものなぶら殿に戻ってくれるな?」
だが、手錠に繋がれて内なる慙愧の声に苛まれる今のなぶらには、瑠璃の声は届かない。
「待っているのだぞ、なぶら殿!!!」
勢い良く走り出した瑠璃を、なぶらはただ、見送ることしかできなかった。
☆
「まずは……騒ぎを起こしている連中を見つけなければならないのだ……」
と、瑠璃は街を走り出す。アテはないが、とりあえず同様の事件が街中で起こっているのは事実。となればまずは騒ぎの元を探らなければならない。
幸いなことに、いくつかの騒ぎの元のひとつは、すぐに見つかった。
「ち……っ!! いい加減に手錠を外す方法を教えやがれ!!」
と、バスタードソードを振り回しているのは嵩代 紫苑(たかしろ・しおん)。
パートナーの柊 さくら(ひいらぎ・さくら)は紫苑を連れ出して街中デートを楽しんでいたのだ。
ある意味、最もブラック・ハート団に狙われて然るべきカップルと言えた。
「フハハハ!! そう簡単に教えるものか!! 爆発するのが嫌ならその彼女に絶縁宣言して外すことだな!!」
と、紫苑達に相対する黒タイツ男達は笑う。
紫苑とさくらを手錠で繋ぐことに成功し、首尾は上々。あとはその手錠が爆発するのを待つだけである。
手錠で繋がれたさくらが紫苑への愛情が普段以上に高まって、より一層ベタベタと引っ付くものだから、紫苑はうまく狙いがつけられない。
さくらは、黒タイツ男達の台詞にピクリと眉をひそめた。
「ぜ、絶縁宣言……? 爆発は嫌だよ、嫌だけど……」
一瞬、心に不安がよぎる。確かに、この手錠を最も早く外す手段はそれだ。
そうすれば二人ともすぐに自由の身になれるし、そうすれば普段から鍛えている紫苑のこと、こんな黒タイツ達はすぐに叩きのめしてくれるだろう。
だが、いくら嘘でも紫苑に嫌いと言われるのは耐えられない。
それでもさくらもまた、日頃の紫苑に迷惑をかけているのでないかと思っていた。強化人間として改造されたさくらに紫苑はいつもさりげなく気を使ってくれている。
11歳から成長しない身体。改造された身体。こんな身体じゃなければ――。
「――しっかり捕まってろ」
「――わっ!?」
だが、紫苑はそんなさくらの心配をよそに、紫苑はさくらを自分の背中に乗せた。
空いた片手でバスタードソードを構え直し、再びブラック・ハート団に向き直る。
「ふざけんじゃねえぞ……絶縁宣言だ? そんなことでさくらを傷つけるくらいなら俺は爆発する方を選ぶ――。
だが爆発もしない、この俺がそんなことはさせない……このままでもお前らを叩き潰して、この手錠を外させてやるからな!!!」
「……シオン……」
さくらは、後ろから紫苑にしがみついた。
自らもハンドガンを取り出して、黒タイツ男に向ける。
「そうだよ!! 私とシオンならできる!! いくよシオン!!!」
黒タイツ男達の足元にハンドガンを乱射すると、その隙を縫って紫苑が突進した。
「うおおおぉぉぉっ!!!」
サイコキネシスで微妙に弾道を帰られたさくらの射撃に、黒タイツ男は反応できない。
戸惑っている間にバスタードソードが唸りを上げ、次々に蹴散らしていった。
そこに、大きく飛び上がった瑠璃が参戦する。
「よく言った!! よく言ったのだぁぁぁっ!!!」
紫苑の後ろに回りこんでいた黒タイツ男を全力で蹴飛ばした瑠璃は、満面の笑みを浮かべた。
「――誰だ!?」
紫苑は一瞬警戒したが、少なくとも瑠璃が自分達を援護しているのは事実である。この混戦の中でいちいち人の身元を問う時間はない、ただ、敵か味方だけかが分かれば充分だ。
「こいつらが手錠をばら撒いている犯人なのだな!! 我輩も助太刀するぞ!!」
その言葉に、さくらも応じる。
「うん!! 誰か知らないけど、こいつらやっつけよう!!」
気が合わせる女二人を見て、紫苑もまた笑みを浮かべるのだった。
「よっし、さっさと片付けるとするか!!!」
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