百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

黒いハートに手錠をかけて

リアクション公開中!

黒いハートに手錠をかけて

リアクション

                              ☆


 その頃、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は大変なことになっていた。

「お、おい……っ!?」
 主に大変な目に合っているのはダリルのほうである。
 何しろ、普段は冷徹なほどに冷静なメシェがダリルと手錠で繋がれた途端、ダリルを押し倒したのだからそれは大変だ。

「ふむ……私としたことが迂闊であったな、身近にこのように美しい美術品があったことを見逃していたとは」
 日頃は剣の花嫁であるダリルを兵器だ道具だと言い切るメシェだが、手錠で繋がれた愛情がその『道具』に対して美術品としての美しさを見出させてしまったのだ。
 もとより貴族出身のメシェ、美しいものは愛でなければいけない。
「剣の花嫁は古王国の遺産――つまり私のモノということだ」
 と、ダリルの頬をうっとりするような表情で撫でるメシェ。
 もちろんダリルとて抵抗はしているが、普段のメシェからは想像もできない変貌ぶりに戸惑うばかりで身体はうまく動かない。
「ま、待て、誰が美術品だ。しかも誰のモノだと、いい加減に――」


 その抗議を発した口すらも挨拶代わりの気軽さでメシェに奪われてしまったわけで。


「む、んん……!!」
 何という手際の良さだろうか、ダリルの口を自らの口で塞いだかと思うと、メシェは自然な動作でダリルのシャツのボタンを外し、その中に手を滑りこませていく。
「ほら……口ではどう言ったところでこちらは素直なものだね……すぐに呼吸荒くなってしまう」
 その言葉通り、まんまと押し倒されて身体をまさぐられるダリルは、もはやパートナーのルカルカ・ルー(るかるか・るー)に助けを求めることしかできない。
「ちょっ……、はぁっ……!!
 ルカ……見てないで……助け……ってどこ行った!?」
 ダリルが気付くと、さっきまでそこにいた筈のルカルカの姿はない。
 それもそのはず、いち早く異常事態を察したルカルカは物陰に隠れてその様子を眺めていたのだ。
 別にデバガメ根性を発揮したのではない。冷静に状況を判断すれば手錠を飛ばした犯人がいるわけで、その犯人はこのような痴態を眺めて喜ぶ愉快犯に違いないのだから、こうして様子を覗っていれば犯人らしき人物を発見できるはずであると踏んだのである。

「どこかにこの状態を眺めている犯人がいるはず……
 あ、ダリルってあんな顔もするんだ……。うわ悔しそう……。
 ……結構いい声……艶っぽい声出すじゃない……」


 といいつつ手に持った携帯でその状況を録画するのは忘れないわけだが。


「だってこんなものそうそう見れるものじゃないし。なま掛け算だーすごーい」


 それじゃあなたが愉快犯ですよ。


 それはそれとして、メシェのパートナーエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は野次馬に混ざってその様子を眺めていた。
 ルカルカと同様、野次馬の中に犯人を見つけるためで、ブラックコートをまとって気配を消している。

 まあ、ルカルカよりは真剣な様子だ。

「ん……あれだな」
 と、物陰からダリルとメシェの様子を見て笑っている黒タイツ姿の男達を見つけた。
 すぐにルカルカに連絡し、男達の後を追跡し始めるエース。
「楽しんでる場合じゃない……跡をつけるから、そちらも頼むよ」

 ルカルカもその声に我に返って行動を開始した。
「ああうん……そうね。そろそろ止めないとヤバそうだし……」

「はぅ! ……ううぅ……」
「ふ……どうだね、もうこんなになっているよ……痛!!」
 いよいよ盛り上がってきたメシェの後頭部を一発殴るルカルカ。
 その隙にダリルはどうにかこうにかメシェの責めから逃れる。
 ダリルにルカルカは入れ知恵をした。
「あ、どうやらその手錠、相手を嫌いって言えば外れるみたいよ。エースが言ってる」
 これぞ天の声とばかりに、ダリルはメシェに告げるのだった。

「はー……はー……、お、俺には地球に恋人がいる。メシェのモノになることはできん、諦めろ」
 その一言でメシェとダリルを繋いでいた手錠は粉々に砕け散った。
 だが、散々酷い目に合ったダリルの怒りが収まるわけもない。

「さあ……エースが追跡しているんだったな……行くぞルカ……!!」
 もはや陽炎となってゆらめく殺気を隠そうともせず、ダリルは立ち上がった。
「う、うん……」
 その迫力に少しだけ怯えながら、ルカルカは物陰から姿を現した。

 走り去っていく二人を尻目に、正気に返ったメシェはこっそり精神的ダメージを受けていた。
「何で私がふられたような立ち位置になっているのかね……少しは躊躇したっていいではないか……」


「ところでルカ、さきほどの一連の流れは事故だからな、さっさと記憶を抹消しておかないとお互いのためにならんぞ?」
「う、うん、分かった」
 といいつつ、記録に残る分にはいいよね、と携帯を隠すルカルカだった。


「さて……ここのようだな」
 エースは黒タイツの男達を隠れて追跡し、ブラック・ハート団のアジトを突きとめていた。そこはどうやら過去に玩具などを作っていた廃工場のようで、普段は人の出入りがないのか入り口が塞がれている。
 だが、その裏口を思しき場所で数人の黒タイツ男が出入りしているのが見える。
「なるほど……ここで手錠の原型を作っているんだな……」
 とりあえずルカルカとダリルが合流するのを待つエース。
 まだ中に首謀者がいるのか分からない、もう少し情報を探る必要があった。


「恐らく他にも動いている人間はいるはず……少し様子を見るか……」