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リアクション
☆
「な……何てこった……」
バン・セテス(ばん・せてす)は呆然と呟いた。
そこにいたのはセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)の普通紙フェイクだった。吸血鬼なセスは元来心優しい紳士だが、このフェイクはその性格が反転してしまったらしく、実にチープな吸血鬼像が現出してしまっていた。
「ふははははは!! 下賎なる人間ども、このダークなる闇の貴公子、ヤミセスに従属するのだ!! さもなくば最後の一滴まで血を吸い取ってくれようぞ!!」
「……これはひどい。闇のセスでヤミセスってか」
と、苦笑いを浮かべるのは二人のパートナー、ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)だ。
バンは幻影の悪魔であり、セスにそっくりな姿をしていて、そのそっくり度に自らのプライドを掛けている。
そのため、セスにそっくりなフェイクの存在を見たバンがどうするのか興味のあるアイリは、本物のセスと共に見物を決め込んだ。
「この俺を差し置いてセスさんの偽者とは、まさにこの俺への挑戦状じゃん!!
やいやいヤミセスとやら、セスさんのそっくりさんの座を賭けて、この俺と勝負だ!!」
一般人を追いかけまわすヤミセスの存在に耐えかねたのか、バンはヤミセスの前に立ちはだかる。
いつも目元を覆っている仮面を外し、髪型をオールバックにセット!! そして紅の魔眼で瞳を赤く染めるともはや外見的にはセスそのもの!!
「変・身・完・了・!!」
さらに口調を丁寧にすれば完璧である!!
「さあ、行きますよヤミセス!! 今こそ本物のそっくりさんはどちらか決定する時です!!」
本物の偽者、というのも妙な話ではあるが、とにかくここに『第1回セスのそっくりさん決定戦』が開催されたのだ!!
ヤミセスの攻撃!!
「ふははは、俺様の攻撃を喰らうがいいっ!!」
しかし使ったのは奈落の鉄鎖!! あくまでも攻撃ではなく行動の阻害を狙う!!
「……意外とセコいな」
「……性格もだいぶ違うみたいですから、似ているのは外見だけですねぇ」
「あれなら、バンの物真似の方がよほど似てるぜ」
と、アイリとセスはベンチに腰掛けてすっかり観客モードである。
「甘いですよ!!」
と、封印解凍で得た素早さを利用して奈落の鉄鎖を避けるバン。
「ならば、これはどうだ!!」
「いえいえ、喰らいませんよ!!」
正直に言えばフェイクの攻撃は大したことはないのだが、いかにセスっぽく戦うかに留意しているバンの攻撃も今ひとつ決め手に欠ける。
素早さや身の軽さに特徴のあるフェイクの動きもあって、お互いの攻撃を避け続ける展開が続いた。
「なかなか勝負つかねーな」
と、アイリはちょっとだけ飽きた感じでその戦いを見守っていた。
「実力伯仲というよりは、『どちらがより似ているか』という戦いですからね。
……それにしても、顔だけ見れば良く似ていますね。バン君と並ぶとどちらがどちらか分からないくらいですよ
まあ、世の中には自分に似た人が三人はいるそうですから、もう一人くらいはそっくりさんがいるのかも知れませんね」
セスはちょっとだけ、悪戯っぽく笑った。
「ははっ、それも面白いかもな……ま、いくら似ててもセスのそっくりさんなら、見分けつくと思うけどな」
そっと、アイリは並んで座ったセスの手を握った。
「……そうですね、私もアイリのそっくりさんなら、分かると思います」
静かに言葉を返したセスもまた、その手を握り返したのだった。
「……このままでは決着がつきませんね、いいでしょう、最後の技です!!」
と、セスになりきったバンは両手に装備した光精の指輪を構えた。
その指輪の力を解放することで、光の属性を持った力がバンの両手に集中していく。
「あ、あれは私の技!?」
と、セスは立ち上がって叫んだ。
「何、セスの技を再現するだとっ!?」
アイリも調子を合わせて観客役の義務を果たした。
「ええ、魔法の光のシャワーを浴びせ、邪なる存在を浄化する――!!!」
「さあヤミセスよ、暗き闇の存在は光に帰るといい――再現、『安寧なる光』!!!」
バンの両手から発せられた光のシャワーは、ヤミセスを瞬く間に飲み込み、その存在を浄化していく。
「うわあああぁぁぁ……!!」
その光が消えた時、戦場に立っていたのはバン一人であった。
『第1回セスのそっくりさん決定戦』はバンの勝利に終わったのである。
「はぁ……やったぜ……セスさんの物真似は……俺が一番うまくやれるんだ……」
封印解凍の副作用か、疲労が激しいバンはその場で仰向けに倒れてしまった。
そのバンに駆け寄ったセスとアイリは、そっくりさん勝負に勝利したバンに惜しみない拍手を浴びせた。
「さっすがバン、やっぱりセスの一番のそっくりさんはお前だな!!」
「おめでとうございます、やはりバン君が一番のそっくりさんですね」
それでいいのか、という気もするが、二人にとっては細かいことよりもバンが喜ぶことの方が重要なのだ。
「……へへ……そうだろ?」
バンもその期待に応え、最高の笑顔を浮かべるのだった。
☆
「はわわわっ!! このままだとおにーちゃんの『しゃかいてきたちば』が大ピンチだよっ!?」
とノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は慌てていた。
何故ならば、パートナーである影野 陽太(かげの・ようた)が、目の前で一枚一枚服を脱ぎながら奇妙な踊りを通行人に披露しているからである。
流行ってるのか全裸。
「お、おにーちゃんは今この辺にいないから……間違いなくフェイクとかいうニセモノだよねっ、えーいっ!!」
カメリアからのメールによればフェイクはちょっとした衝撃で元に戻るはず、とノーンは氷術による氷のつぶてをフェイク陽太に飛ばした。
「――」
だが、そのつぶてはあっさりと弾き返されてしまった。
「え?」
ノーンは戸惑った。通常のフェイクであればその氷術一発で片付けられる程度の耐久力のはず。
しかも、フェイク陽太はお返しとばかりにライトニングブラストで反撃してきた。
「きゃあああぁぁぁっ!?」
そのライトニングブラストは的確にノーンにヒットし、彼女の衣を焦がした。
「つ、強いっ!?」
ノーンは知らなかったが、そのフェイク陽太は上質紙で作られたフェイクだった。
つまり、その力も技術も基本的には影野 陽太本人と同等の実力を持っているということになる。
ノーン一人で戦える相手でないことは明白だった。
そして、そのフェイク陽太はいよいよほぼ全裸になって不思議な踊りを披露中である。
「うう……わたしだけじゃ全然手に負えないよー」
と、その不思議な踊りを止めることができないノーンは嘆く。
だが、救いの神は現れた。
「フェイクか本物か分からないけど、猥褻物陳列罪で逮捕よっ!!」
まず飛び込んできたのは魔法憲兵少女、えむぴぃブルー――宇都宮 祥子のフェイクだった。
隠形の術でフェイク陽太の懐に入り込んだフェイク祥子は、ブラインドナイブスでティアマトの鱗をフェイク陽太の胴体に叩き込む!!
だが、あくまで普通紙フェイクのえむぴぃブルーの攻撃は軽い。フェイク陽太はそこまでのダメージも受けずに、平然と殴り返してくる。
「……まだまだ」
その隙を縫って背後から攻撃したのは突撃魔法少女リリカルあおいブラック――秋月 葵のフェイクだ。
上空から黒い光を放つ流星――シューティングスターである――がフェイク陽太を直撃し、フェイク祥子を攻撃しようとしていた態勢を崩した。
しかし、それもまた普通紙フェイクであるところのフェイク葵の魔法攻撃、そこまでの威力はない。
だが、その隙はノーンに一つの賭けを決意させるには充分な時間を与えてくれた。
歌姫としての力を一つに集中して、ノーンは叫ぶ!!
「おにーちゃんのニセモノさんっ!! 変質者さんだと環菜おねーちゃんに嫌われちゃうよっ!!?」
それは、ノーンの想いを乗せた『咆哮』だった。
ぴたり、とフェイク陽太の動きが止まる。
「そ、そんな……環菜に嫌われてしまう……?」
そう、フェイク陽太と本物との違いは、おかしな脱ぎ癖だけ。
恋人に対する想いそのものは変わりがないのだ。その証拠に、全裸になって踊り狂っていながらも『大切なロケット』と『約束のペアリング』だけは手放さなかった。
しかし、それゆえに恋人に嫌われるかもしれないというノーンの咆哮は効いた。そのダメージに大きなショックを受けたフェイク陽太はその場に膝を突く。
そして、その隙を見逃す魔法憲兵少女えむぴぃレッド――本物の宇都宮 祥子と、突撃魔法少女リリカルあおい――本物の秋月 葵ではなかった。
「いっくよー!!!」
葵が放った歴戦の魔術が膝を突いたフェイク陽太に襲いかかり、大きなダメージを与える。
「続いていくよ!!」
そこに祥子の氷術が叩き込まれ、陽太の動きを止める。
「――これで!!」
「――終りっ!!」
二人の勢いは止まることはなく、最後に放たれた葵のシューティングスターと祥子のブラインドナイブスがフェイク陽太に突き刺さった!!
さすがに本人と同等の実力を持っているとは言え、ロクな装備もない状態でこの連続攻撃はひとたまりもない。
ぼわんと一瞬の煙に包まれたフェイク陽太は元の似顔絵に戻り、ノーンの足元にはらりと落ちた。
「はあああぁぁぁ……よかったぁ……みなさん、ありがとうございますっ!」
その似顔絵を拾ったノーンは、更に似顔絵ペーパー回収を続けるためその場を去る葵と祥子の二人に深々と頭を下げ、礼を言うのだった。
その似顔絵の裏には、『全裸で不思議な踊りを踊りまくる変質者、影野 陽太』と書かれていた。
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