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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

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    ★    ★    ★
 
「よし、飲め」
 朝霧垂から奪い取った日本酒をダリル・ガイザックが月崎羽純に勧める。
「これはどうも」
「それで、最近どうだい、光条兵器の調子は」
「ああ、あれは……。そうだな……」
 二人が酒を飲み交わしている間に、並寿司を平らげたライゼ・エンブが、どんどん追加注文をしていった。ただだというので、節操がない。
「淵ちゃんは未成年の女の子だからお酒はだめだよ。はい、ワサビ抜きのタマゴ分けてあげるね」
「俺は、未成年でも女の子でもない!!」
 ライゼ・エンブからわざとらしくタマゴを差し出されて、夏侯淵が叫んだ。
「だって、もうお腹いっぱいなんだもん」
 高級ネタを大量に頼む気満々だったライゼ・エンブだったが、体格に見合った食欲はすぐに上限に達してしまったらしい。
「そうか。もう限界か。よし、だったらプリンを頼む」
 夏侯淵が、サービス係の朝霧栞に命じた。
「ううっ、それは俺が食べたかったのに……。は、はい、喜んで。おこちゃま用プリン、一つ入りまーす!」
「おこちゃまではない!」
 朝霧栞の注文の仕方に、夏侯淵が怒って突っ込んだ。すぐに、プリンがやってくる。
「ふっ、うらやましいだろう。ふふふふーん」
 夏侯淵が、ライゼ・エンブにプリンを見せつけて言った。
「別腹発動! 栞さん、プリンアラモード持ってきて?」
「さすがにアラモードは……」
「なければ買ってくるの!」
 無茶苦茶な注文に、ライゼ・エンブと朝霧栞が言い合った。
「ない物は無理だぜ。断固拒否する!」
 そう言ってその場から逃げだそうとした朝霧栞が何かにつまづいた。
 見れば、ダリル・ガイザックと月崎羽純が酔いつぶれて転がっている。
「早っ!」
 二人共弱いわけではないはずだから、どんな高速飲みをしたというのだろう。それとも、大量に飲みたいことでもあったのだろうか。
「あら? ダリルさんと羽純くんが寝ちゃってる? これは……、ぜひ、写真撮らなきゃ!」
 朝霧栞が酔いつぶれた二人をならべて転がすのを見て、遠野歌菜がすかさず携帯を取り出してにんまりした。
 すぐに、女の子たちによる撮影会が始まる。
 わいわいと、楽しくパーティーは続いていった。
「よし、俺は飛んで帰るぜ!」
 ちょっとほろ酔い気分のカルキノス・シュトロエンデが窓から外へと飛び出していった。
「おーい。もう、しかたないんだもん。じゃ、そろそろお開きで」
 さすがに収拾がつかなくなってきたので、ルカルカ・ルーが中締めをする。
「で、これどうしようか?」
 遠野歌菜とルカルカ・ルーは、幸せそうに眠りこけているダリル・ガイザックと月崎羽純を見下ろして軽く溜め息をついた。
 
    ★    ★    ★
 
「今日も、蒼空はいい天気だぜ」
 天御柱学院の屋上に寝転がって、天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)は空を見あげていた。
 正面には、太陽柱にも似た一本の柱がまっすぐに天空にむかってのびている。
 天沼矛だ。
 その中間にあるリーフ状のイコンカタパルトから、重装甲のイコンが一機飛び出してきた。装甲にとりつけられたブースターを全開にして、真一文字に白い飛行機雲をひきながら天空寺鬼羅の頭上を飛び去っていく。ややあって、遙かな爆音が聞こえてきた。イコンの飛行訓練が頻繁に行われるここ海京では、誰もが聞き慣れた音だ。
 しばらくして、今度はドラゴネットが上空を通りすぎていく。
「さて、そろそろ再開するか」
 ピョンと振り上げた足を振り下ろす反動で一気に起きあがった天空寺鬼羅が、かたわらにおいてあるイーゼルにむかった。そこには、描きかけの絵が掛けられている。
 潮風が渡る先には、海京をとりまく太平洋が青く広がっている。そして、頭上に広がる青空の中には巨大な大陸、パラミタが浮かんでいた。その端は雲に隠れてしまっていて、どこまで広がっているのかは分からない。トワイライトベルトから先は異空間へと繋がっているので、目視できる範囲で物理的な大きさを測ることは無意味だ。ただ、ここ海京の真上に、その一部は広がっている。
「この風景に見慣れてから、もうずいぶんと経ったな」
 水彩絵の具を筆先で溶きながら、天空寺鬼羅がつぶやいた。吹く風に、少し絵の具が流されてパレットに広がる。
 キャンパスに絵の具を塗っていきながら、さて、これからどんなふうにこの絵は変化していくのだろう、そして、どんなふうに塗り重ねていけばいいのだろうかと、素朴な思いが筆先から滲み出る。
「そうだな。この絵のタイトルは蒼空のフロンティアとでもするか……」
 天空寺鬼羅は、パラミタ大陸を見あげてつぶやいた。
 
    ★    ★    ★
 
「ええと……超能力試験の点数は……げほげほっ……」
 パソコンのキーボードを弱々しく叩きながらアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)が激しく咳き込んだ。
「あなた、何起きてるのよ!」
 その咳を聞きつけて、キッチンにいたエプロン姿のヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)がすっ飛んできた。
「寝てると思って雑炊作ってたのに。なに勝手に起きて仕事なんかしてるの。そんなことで、風邪が治るとでも思っていて。まさか、こんな状態のまま登校して、生徒に風邪移し回る気じゃないんでしょうねえ」
 ヴェルディー作曲レクイエムがお玉を振り回して説教する。
まだ、生きてますよ……。でもですねえ、明日までに……」
「いいから、とりあえず寝なさいって」
 アルテッツァ・ゾディアックの襟首をつかむと、ヴェルディー作曲レクイエムがベッドへと放り飛ばした。
うえっ……、こんな所で……
しょうがないわねえ。ふふっ。手伝うわよ。で、何をやらなくちゃいけないのよ」
 ヴェルディー作曲レクイエムが聞くと、試験結果のデータ入力やら何やらがぞろぞろとでてくる。
「パソコンの横のデータを打ち込めばいいのね。それくらいなら、アタシでもできるから、ちゃんと寝てて。生き残りたいでしょ。今、雑炊もできるからね」
 そうアルテッツァ・ゾディアックに言い含めると、ヴェルディー作曲レクイエムはキッチンに戻っていった。
 そこへ、買い出しに行った親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)が、途中で会った六連 すばる(むづら・すばる)と共に戻ってきた。
「レクー、言われた物、買ってきたぎゃー。ついでに、途中でスバ拾ったから連れてきたぎゃ」
「マスター、生きてます? マスター。まだ死んでませんよね」
 親不孝通夜鷹が開けたドアから、六連すばるが駆け込んできた。そのままドーンとアルテッツァ・ゾディアックの上にのしかかる。
「お見舞いに来たんですよ。風にはビタミンCがいいって聞いたんで、オレンジゼリーも作ってきたんです。たくさん食べてくださいね」
「わ、分かったから、重い……、どいてくれ……」
「ああっ、ごめんなさい、マスター。わたくしったら、取り乱してしまって。ふっ。あら、氷嚢が暖かくなってますわね。今取り替えて参ります」
 冷静さを取り戻すと、六連すばるがゼリーを机の上においてキッチンへと姿を消した。
「イコンの整備は、ちゃんとすませてきたぎゃ。……アル、オメー、生き残りたいて言ってるわりには、身体大事にしてないぎゃ。オメーが死んだら、ワシも死んじまうぎゃ! しっかりするぎゃよ! 少しは美味しいものでも食べて、元気になってもらうぎゃ。そういえば、スバが何か持ってきてたぎゃ?」
 どれどれと、親不孝通夜鷹が、六連すばるが持ってきたゼリーらしき物を手に取ってみた。
 大きなボウルに入れられたオレンジ色のゲル状物質は、プルンプルンしているというよりは、なんだかスライムのようにうねうねしているように思えるのは気のせいだろうか。
「どれ、ちょっと毒味を……。うっ、うぎゃあぁぁぁぁぁ……ぎゃ」
「なんなの、今の悲鳴は!?」
 ばったりと倒れた親不孝通夜鷹の悲鳴を聞いて、ヴェルディー作曲レクイエムと六連すばるがあわてて戻ってきた。
「分かりません。なんかいろいろ言ってるうちに、突然倒れたようです」
 うんうん唸って横になっていたアルテッツァ・ゾディアックが、天井を見つめたまま言った。
「ああ、あたくしのゼリーつまみ食いした!!」
 まるで襲われたかのように顔面をゼリーで被われてピクピクしている親不孝通夜鷹を見て、六連すばるがゲシゲシと足で蹴っ飛ばした。
ちょっとお、何すんのよぉ。まったく、みんなであたしのゾディを殺す気? さあ、ちゃんとしたお粥作ったから、早くこれを食べて。薬膳粥よ」
 何やら風邪薬のカプセルの浮かんだ粥を差し出して、ヴェルディー作曲レクイエムがニッコリと笑った。