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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

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    ★    ★    ★
 
「海京神社の本殿かあ。そんな物があったんだあ」
 図書館の端末を操作しながら、刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)がつぶやいた。
 モニタには、概略図として海京にある海京神社から海底にあるとされる海京神社本殿へと続くラインが擬似的に表示されている。
「なんでも、宝剣が出たとか。見てみたかったですね」
 隣にいたアレット・レオミュール(あれっと・れおみゅーる)が、興味を持ったように画面をのぞき込んだ。
 新型イコンガネットも投入されたらしいが、ちょうどそのころ刹那・アシュノッドたちはカラオケをしていたので詳細は体験していなかった。それで、今調べなおしているというわけだ。
「二人共、精が出ますねえ」
 どこか他人事のように、よいことだと言わんばかりのセファー・ラジエール(せふぁー・らじえーる)が、彼女たちの後ろを通りすぎようとした。
「あなたも、調べておいた方がいいんじゃない?」
「ワタシは、なんでも知っている魔道書ですから」
 アレット・レオミュールに言われて、セファー・ラジエールがさらりと受け流した。もちろん、刹那・アシュノッドたちよりも先に同じ資料はチェックずみである。だが、当然、そのことは言わない。
「ではまた。後で何か分かったら教えてください」
 さりげなく小さな墓穴を掘ってから、セファー・ラジエールは去って行った。
 
    ★    ★    ★
 
「歌ちゃんデビュー記念、お寿司対抗かぶっちゃやーよ大会!!」
 ドンドンドン!! パフパフパフー!!
 海京商店街にある寿司屋の個室宴会場で、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、高らかに宣言した。
 今日は、遠野 歌菜(とおの・かな)がインディーズでCDを出したので、そのお祝いパーティーなのだった。
「本当は、ゲームなんかしないであっさりと食べたいんだけどなあ……」
「優勝したら特上寿司頼んでいいんだぜ」
「うんうん。なんでもルカルカの奢りらしいんだよ」
「なんだってえ!!」
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)朝霧 栞(あさぎり・しおり)に耳打ちされて、朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、がぜんやる気を出す。
「ルールは簡単。すでにみんなに注文してもらった五品が、手前の重箱に入っていると思うけど、それからだぶった分を抜いて、一番オリジナルな注文をした人の勝ちなんだもん。同率の場合は、安い人が勝ちね。優勝者は、特上寿司、その他の人は並寿司だよ。その後は、自由に注文していいからね。最下位の人は、罰ゲームとして一日サービス係だよ」
「全員特上でもいいのに……」
「でも、こういうのも楽しいよ」
 どうせ奢りなんだからと思う月崎 羽純(つきざき・はすみ)に、遠野歌菜が言った。
「うーん、まあ、歌菜がそう言うのなら……。はぁ……、早く終わらせるぞ
 恋人の言うことに、月崎羽純がとりあえず納得する。
「それでは、オープンセサミ〜」
 ルカルカ・ルーが、ゲームの開始を告げた。
「まずルカルカは、ハマチ、ヒラメ、カレイ、スズキ、エンガワだよ」
「白身ばかりだな」
「だって好きなんだもん。いいの」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に突っ込まれて、ルカルカ・ルーが言い返した。
 そのダリル・ガイザックと言えば……。
「光り物、赤身、白身、貝、軍艦と、まんべんなく構成した、コハダ、鮑、黒鮪、鯛、キャビアだ」
「キャビアってなんなんだもん」
 ルカルカ・ルーがここぞとばかりに突っ込み返す。
「キャビアは遊び心だ。イクラと違い、これはこれでいけるぞ」
 しれっと、ダリル・ガイザックが言い返した。
「ビバ、甲殻類!」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、自信満々で甘エビ、クルマエビ、ボタンエビ、シャコ、カニの入ったお重の蓋を開く。
「偏りすぎだろ……」
「ビバ、甲殻類!!」
 突っ込むダリル・ガイザックに、カルキノス・シュトロエンデが再度言いなおした。
「じゃ、私は、マグロ、カニ、タマゴ、サーモン、キュウリで勝負だよ!」
 歌うように、今日の主役の遠野歌菜が言った。
「俺は、マグロ、カニ、タマゴ、タケノコ、トビコ……ちっ、あたったか
 遠野歌菜と揃って蓋を開けた月崎羽純が、他の者の寿司ネタと比べて言った。
焼きが回ったか……
 めんどくさがっていたわりには、微妙に悔しがる。
「俺は、やっぱり最初は光り物から始めたいってことで、アジ。ヒラメと比べる奴がいるけどさ、旬のカレイは充分うまいぜということでカレイ。程良い歯ごたえと甘さがたまらない、トリ貝。やっぱり寿司を食うのにこれは外せないだろ、中トロ。甘いツメをつけて、最後に食べたい、穴子だ!」
 自慢げに、朝霧垂が自分のチョイスを披露した。
「僕は、エビ、ホタテ、赤身、イクラ、玉子焼き! もちろんワサビ抜きだもん!」
 なぜかワサビ抜きのところを自慢するかのようにライゼ・エンブが言う。
「俺は、タマゴ、甘エビ、シーチキン……ええと、後は適当で……エビマヨとサーモンが入ってるか」
 なんだか半分投げ槍な態度で、夏侯 淵(かこう・えん)が言った。
「似てるな」
 夏侯淵の頭をなでながらカルキノス・シュトロエンデが言った。
「うっさい、ゲーム対策だ。それに、俺はワサビは抜かないぜ。もう、てんこ盛りで入ってるんだぜ!」
 夏侯淵が言い返している間に、ルカルカ・ルーが集計をまとめる。
「俺は、コハダ、エビ、ヅケ、穴子、玉子焼きな」
 最後に、朝霧栞が、自分のチョイスを披露した。
「この選択は、白身ばかりとか、甲殻類オンリーとか、ありえない寿司ネタとかではなくて、栄養学上の理論に基づいた……」
「あー、ごちゃごちゃうるさいから、早く集計しちゃって」
 蘊蓄を述べようとする朝霧栞を黙らせて、朝霧垂がルカルカ・ルーに言った。
「じゃ、発表するねー。一位は四点で、ルカルカでーす」
 まさかの自分自身の表彰に、一部からブーイングがあがる。
「まあ、あれだけ、でたらめなチョイスをする奴らが負けても当然だ。とはいえ、俺がトップでないのは納得がいかん」
 みんなをなだめつつも、ダリル・ガイザックが不満そうに言った。
「なお、同率一位のダリルは、高いネタばかり頼んだので負けとなりましたー」
 ルカルカ・ルーの言葉に納得がいかない様子のダリル・ガイザックに、非常識ーとか似非ブルジョワーとか、どこからか声が飛んだ。多分、ライゼ・エンブだろう。
「なお、最下位のサービス係は、0点で栞だよ」
「が〜ん!」
 勝つ気満々だった朝霧栞が、呆然と立ちすくむ。
御奉仕タイムといくか
 朝霧垂が、ポンポンと朝霧栞の肩を叩いた。
「では、商品の配布と共に、おめでとう会に突入するよー!」
 ルカルカ・ルーの進行と共に、特上寿司と並寿司が運ばれてきた。
「早く配ってね」
「ううっ……」
 ライゼ・エンブにせっつかれて、サービス係となった朝霧栞が唸りながら寿司を配っていった。
「さあ、歌って、歌って」
 朝霧垂が、遠野歌菜を急かした。今日の目的の一つは、遠野歌菜の歌のお披露目なのだ。一同から拍手がわき起こる。
「それじゃ、『虹色の夢』歌います! 届け、私の歌……!
 遠野歌菜が、カラオケのマイクを取って歌いだした。
 
蒼い蒼い空に浮かぶ
 七色に光る あの架け橋へ
 
 ドキドキとわくわく
 少しの不安とありったけの勇気
 振り翳して進もう
 
 夢色のあの場所へ
 私、全速力で加速 あの蒼へ