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WahnsinnigWelt…全てを求め永遠を欲する

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第1章 2人魔女に安息を・・・

 “裏切られたように見えて、よっぽどショックなんだな・・・”と、慰めるように黒い狼の白銀 昶(しろがね・あきら)オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の傍にそっと寄る。
「(泡さんがなぜ・・・ドッペルゲンガーと一緒に・・・?)」
 紅茶の入った温かいカップを手に気を落ち着けたものの、目の前に現れた2人は幻・・・それとも、ただの悪い夢だったのかと、思い込もうと顔を俯かせる。
 友と思っている相手がドッペルゲンガーを連れてきた真意が、どうしても分からず一時は怯えきった顔をしていた。
 魂を毟り奪われるかも・・・。
 それは不安や恐怖に心が侵食されてしまいそうになるほどの恐ろしさだった。
 2人のオメガを救うためとはいえ、かえって恐怖心を与えてしまった。
「やっぱり・・・。このまま放って、皆と行動するわけにもいかないわよね」
 ドッペルゲンガーのオメガを仲間に託して、館にいるオメガに全てを説明しにいこうか考える。
「新しい魂を得るんだもん、やっぱりあなた専用の名前の方が良いわよね?ドッペルゲンガーでもオメガでもなく、皆が呼ぶように“アルファ”で良いかな?」
「えぇ・・・。唯斗さんや紫音さんがくれた名前ですもの」
 彼らがくれた名だから、そう呼んでくれてかまわないとアルファは静かに頷く。
「本当は私の魂をあなたのために使いたいんだけど・・・。今、私がその条件に当てはまってるか分からないのよね」
「でも、もしかしたら。泡さんが・・・」
 十六夜 泡(いざよい・うたかた)を引き止めたいのか、彼女の裾を掴み見上げる。
「アルファ、私は少し離れるわ。でも、必ず戻ってくるから。絶対に無茶はしないって約束して、ね?」
 傍にいて欲しいというその手を握りそっと離し、アルファの元へ帰ってくると約束をする。
「―・・・分かりましたわ」
「じゃあ、行ってくるわね」
 友に向かって片手を振り薄暗い獣道へ入っていく。
「きっと戻ってくるから、私たちと待っていようね」
「ルカルカさん・・・」
「オメガさんがいつも笑って暮らせるようになるためなら、ルカたちはなんだって協力するわよ。もう、独りぼっちじゃないんだからね」
「ありがとう・・・ございます・・・・・・」
 心が凍えてしまいそうな、暗い世界から連れ出してくれようとするルカルカ・ルー(るかるか・るー)たちの温かさに、ぽろぽろと涙を流した。
「アルファちゃんの宿縁になりそうな相手が、この中にいるかしら?」
 オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)はハンカチでアルファの涙を拭いてやり、仲間たちの方へ振り返る。
「一生に一度、会えるかどうか・・・という、強い縁の相手ですの」
「オメガ殿が心から笑ってくれるなら、俺の魂など全部くれてやる。持ってゆけ!」
 救えるなら命果てようとも構わないと、夏侯 淵(かこう・えん)は胸にバシッと手を当てる。
「―・・・人は人でも、死んだことのない地球人の魂が必要なんですの」
「そうか・・・」
 彼の英霊の魂では適合出来ず、分けてやれない悔しさに、拳をぎゅっと握り締める。
「そのお優しいお気持ちだけ受け取っておきますわ」
「すまないな・・・。オメガ殿がここへ留まるための一部になれず・・・」
「いいえ。危険を承知で研究所へ潜入して、材料をとってきてくださるんですもの。とても感謝してますのよ」
「オメガ殿のためならば、これくらい当然のことだ」
 心配させないように、泣き止んだ彼女に微笑みかける。
「地球人・・・アリス・・・魔女・・・・・・。これに該当する人をアルファちゃんは知ってて言ってるのよね?」
「ごめんなさい、そこまでは分かりませんわ」
 宿縁というものは、一生に何度も会えるわけじゃなから、彼女自身にも相手が分からない。
「困ったわね。とりあえず、志願者の皆にサンプルをいただいておくわ」
「俺も志願するぜ」
「ご協力感謝するわ」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)へ両手を向けると、彼の身体から淡いオーラのような光が放出され、爪のサイズくらいの丸い球体状に集まる。
「ルカのもどうぞ」
「魔女の魂もいるんだよね?オイラのも使って!」
「俺たちの中に合う者がいるといいな」
 適合するか試しに、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)も提供しておく。
「後はアリスの魂だけね・・・」
 オルベールは小箱の中へ魂を保存し、残りをどう調達しようか考え込む。
「宿縁の相手が本当に分からないのか、アルファ」
「―・・・えぇ、ごめんなさい」
「いや、そう簡単に分かれば、あの城で作れたはずだしな・・・。睡蓮でもいいなら助かるんだがな」
 沈んだ顔をする彼女に謝ることはないというふうに言い、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)の魂が適合しないか聞く。
「そうですわね・・・今はまだちょっと分かりませんわ」
「ふむ・・・、そうか」
「皆さんもサンプルとして少し、オルベールさんに渡していますから・・・。私のも渡しておきましょうか?適合するかどうかわかりませんが」
「えぇ、お願いするわ!」
 少女の淡い桜色の魂を小箱に保管する。
「睡蓮さん、ありがとうございます」
「いえ・・・私もアルファさんが幸せに暮らせるなら、少しでも協力したいですから」
「フフッ、これでひとまず揃ったわね」
 オルベールは小箱をカバンの中にしまい込み、大切そうにぎゅっと抱える。



「こっち準備おっけーだよ」
 クマラは怪しまれた時のために、暗がりへ逃走しやすい色のブラックのローブに着替えて変装した。
「城から逃げた魔女たちに、オイラのこと十天君に話ちゃってるはずだし」
 顔にグレーのサングラスをかけ、ブラックのツインテールのウィッグの上に被った、三角帽子の丸いつばをくいっと下げる。
「クマラは敵だと知られていなくても、その場にいたから伝わってるんだろうな」
「念には念をって感じかな、エース」
「なぁ、クマラ。魔女ってこんな感じか?」
「うーん・・・」
 魔鎧となったアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)の上に、ダークグリーンのローブを着た紫音を見上げる。
「髪は一応、灰色のショートのウィッグを被ったんだけどさ」
「なんか背が大きいんだよね・・・。あの城で魔女に変装している人も、監視がついていたみたいだし。魔女以外はもっと警戒されそうだからね」
「いやー・・・こればっかりはなぁ」
「このブーツを履いていったらどうどすかぁ〜?」
 紫音の身長をごまかそうと、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が目立たない色のブーツを渡す。
「風花、これ歩きづらくないか」
 足の甲の上がぶかぶかすぎて、まともに歩けない。
「隙間に綿を敷き詰めておけば大丈夫どすぇ〜」
「シークレットブーツを履いてるように見せかけるってことか。ん、よし。これでピッタリだな」
 偽シークレットブーツに綿を敷き詰め、ファスナーを上げる。
「150cmよりちょっと高いけど。私くらいなら、ちょっとくらい気にならないはずよ」
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)たちに顔を知られている師王 アスカ(しおう・あすか)は、両目に青色のカラーコンタクトをつけ、黒色の髪をカラースプレーで白髪に染めた。
「魔女っていっても、女だけじゃないものね〜」
 木陰で着替えて男装し、絵画のテクニックの応用で、顔に特殊メイクする。
「どう?これで男に見えるかしら」
「ちょっとアスカ!普通のメイクは嫌がるのに・・・。どうして美容特殊メイクなんて覚えたのよ。まったく・・・、酷いじゃないの」
「フッフッフ♪これは芸術なの、だからおっけーなのよぉ〜」
「普通のメイクは芸術じゃないのよ、―・・・ぐすんっ」
 女の子らしいメイクを覚えてもらえず、オルベールはしょぼんと座り込み地面にのの字を書く。
「口調は鴉のを真似たらいいかしらね〜」
「ふむ、その方がいいだろうな」
 ブラックコートからベルフラマントを羽織り、潜入準備を終えた淵が頷く。
「なぁ、ミニス」
 ふてくされてそっぽを向く魔女に話しかけるが、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の方を振り向こうとしない。
「アンタだよ魔女さん。好きに呼べって言ってたろ?」
 彼女の肩をトンッと叩いて呼ぶ。
「何よ・・・センスのない名前ね」
「―・・・気に入らないのか?」
「別に、どうでもいいわ。で・・・、何?」
「紫音が少し話したいらしい」
「え〜何よ」
「一緒に研究所へ来てくれないか?」
「はっ?あんた正気なの!?」
 地雷を踏みたいのか、というふうにキッと彼を睨みつける。
「ハツネたちとは会ったことないんだろ」
「だからって他の魔女には私、顔を知られているのよ」
「あ〜そこまで考えていなかったぜ・・・。じゃあこうしよう、俺が肩車してやる。上からロングコートでも着てれば、たぶん・・・ばれないはずだ!なぁ〜頼むよ、この通りだ、頼む!」
「ん〜〜もぅ、地雷を踏んでも知らないわよ!」 
 根負けした魔女は顔にサングラスをかけて、赤い髪のウィッグを被って変装し、ついていってやることにした。
「よぉしっ。作戦開始だね♪」
 太極器の材料を探すべくクマラたちは、魔女たちが警備している研究所へ向かう。