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リアクション
「どうぞ」
エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が用意した紅茶をアゾートが受け取る。
アゾート達は、今入り口まで戻り一休みをしていた。『休める時にはしっかり休みましょう』と『エイボンの書』に提案されたのだ。
「ありがとう」
「いえいえ、休める時に休んでくださいね」
アゾートが礼を言うと、『エイボンの書』は笑みを浮かべて答えた。
「えーっと……次はこっちか……あー忙しい忙しい……」
その後ろでは、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が忙しそうに駆け回っていた。彼の傍には、何人もの瀕死者や負傷者の姿がある。
「けど……まさかここまで難しいとは……」
眉間に皺を寄せ、アゾートが呟いた。
この瀕死者、というのは全てマンドレイク採取に失敗した者達であった。
・ケース1
「というわけで、出番よジャック」
「……待て、何が『というわけで』だ」
見つけたマンドレイクを前に、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)とジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)が、抜き方について言い争っていた。
「だって、マンドレイクの抜き方って『犬に引っこ抜かせる』なんでしょ?」
「オレは犬じゃねえよ!」
「わかってるって。オオカミなんでしょ? でもオオカミってイヌ科の動物じゃない」
「あのな……確かにオオカミに関しちゃ間違っちゃいない。けどな、オレはゆる族だ」
「外見がオオカミなら大丈夫だ、問題ない」
大真面目な表情で玲奈が言う。
「大丈夫じゃねぇ、問題だ! 大体その方法って犬犠牲になってるじゃねーかよ!」
「チッ……気づいていたか」
「お前恐ろしい奴だな……! そんなのより、もっといい方法を頼む」
「仕方ないわねぇ……」
玲奈がごそごそと、荷物からスコップを取り出した。
「これで周囲を掘り起こすのよ、マンドレイクに傷つけないようにね」
「……まあ、さっきのよりマシか」
そう言うと、ジャックは慎重にマンドレイクの周囲を掘り始めた。少しずつ、土が掘り起こされていく。
「じゃあ頑張ってね」
「待てコラ」
あと少しで根が現れようとした時、その隙を見て離れようとした玲奈をジャックが捕まえた。
「何逃げようとしてるのかなぁ?」
「に、逃げようとなんてしてないわ! 応援しようと思ってたのよ!」
「逃げる気満々じゃねーか!」
尚も逃げようとする玲奈をジャックが追う。
その時、ジャックの足がスコップに当たった。当たったスコップは、土を掘り返し――マンドレイクが地面から露出した。
「「あ」」
二人が気づいた時は既に遅く、逃げようとする前に悲鳴が耳に入っていた。
・ケース2
「つまりは、逆転の発想だ」
武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)が言った。
「マンドレイクは引っこ抜くと悲鳴を上げる……ならば抜かなければいい……準備は出来ているか?」
「イエス、マイマスター。麻酔薬の散布は完了してます」
ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)が幸祐に言う。
彼らの策は、まずマンドレイクに麻酔薬を散布し、意識をなくす。その後に土ごとマンドレイクを採取し、大根等のように大型の洗浄機でついた土を洗い落とす、というものであった。
既に魔法薬科からは洗浄機の使用許可を得ている為、後はイルミンスールまでマンドレイクを持ち帰るだけだ。
一本のマンドレイクを見つけた彼らはその策を実行し、既に麻酔薬を散布し終えていた。
「よし、時間は経っているな……掘り起こせ」
「イエス、マイマスター」
幸祐の言葉にブリュンヒルデは頷き、マンドレイク周囲の土を掘り起こし始めた。
そして暫くすると、
「作業、完了しました」
ブリュンヒルデが土のついたマンドレイクを、幸祐に見せた。
「ご苦労……先人達は抜く事に拘るから問題を深刻化させている。発想を変えることが大事なのだ」
笑みを浮かべつつ、幸祐が言った瞬間、ぼろりと自重に耐え切れなくなった土がマンドレイクから剥がれ落ち、根が露出する。
――ここで、麻酔薬という物について説明する。
麻酔薬という物は、簡単に言うと人や動物の神経や大脳皮質に作用し、その機能を抑制させ感覚や意識を無くす効果がある。
ちなみに、マンドレイクは自我があり、動き回ることもあるがあくまでも植物である。
つまり、麻酔薬の効果は無いわけで、
「■■■■■■■■ーーーー!!」
意識を失っていなかったマンドレイクは空気に触れ、悲鳴を上げた。
・ケース3
「……出てきませんねぇ」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、マンドレイクを見つつ首を傾げた。
彼の場合は『抜いたら危険』である為、『外を出歩いている所を捕獲する』と考えていた。
偶々埋まっていたマンドレイクを発見した彼は、まず周囲の土を掘り、その中に持参した日本酒を流し込んだ。
「酔っ払って出てきたら面白いんですけどねぇ」
そう呟くが、マンドレイクの反応は全く無い。
「……ふむ、仕方ありませんね」
彼は酔わす方法を諦めると、目を閉じ呪文を唱え始めた。
唱える呪文は【火術】。熱さで地面から炙り出そう、という考えであった。
火が周囲を包み、熱がマンドレイクを襲う。だが一向にマンドレイクは出てくる事は無かった。
むしろ火で葉が焦げたりしている状態になってしまい、
「……これじゃ使えないかな」
「……ですよねぇ」
ザカコは確認してもらったアゾートに謝罪するという結果になってしまった。
「ふぅ……あ、私にも一つくれるかい?」
「ええ、お疲れ様です」
やりきったように息を吐き、額の汗を拭いつつ涼介が『エイボンの書』からお茶を受け取る。
「……とりあえず、みんな命に別状は無いよ。ただ安静にする必要があるけどね」
涼介の言葉に、アゾートがほっと息を吐いた。
「しかし、中々難しいもんなんだねぇ……私も採取を手伝おうと思ったけど、こっちに専念したほうがよさそうだね」
「うん、そうしてもらえるとありがたいかな。方法も良くわからないし……パラ実生達も居るから」
「そういえば、アゾート様も襲撃を受けたそうで……大丈夫ですの?」
「うん、ボクは平気だよ」
「ふむ……わかった。私はサポートに専念するよ……ああ、そうそう」
涼介が何かを思い出したように言った。
「確か、マンドレイクは葉に毒があるとかいう話があったから気をつけて」
「……それ、もっと早く言って欲しかったな」
「涼介様……」
アゾートと『エイボンの書』にジト目で睨まれ、慌てて涼介は弁明する。
「い、いやいや、今思い出したから……それに何人か触ったみたいだけど、素手で触るくらいなら問題ないみたいだよ?」
「そうですか……」
「ああ、ここに居たのか」
アゾートを見つけたウェルチが駆け寄ってくる。
「他の人も確認したみたいだけど、ここ周辺にはもうマンドレイクは無いみたいだよ」
ウェルチの言葉に、アゾートが渋い顔になる。
「……やむを得ない、か」
そして諦めたように溜息を吐く。
「危険はあるけど、奥へ進もう。自生している場所はもうそこしかないと思う」
「そうだね、それじゃボクはそのことをみんなに伝えてくるよ」
「うん、お願い」
――その後、休憩を終えた彼らは奥地へと向かう準備を始めた。
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