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リアクション
第4章「結界の守護者:鳥」
鳥型の魔法生物を追って行った者達は少し大きめな広間へと辿り着いていた。そこには大小様々な大きさの鳥が縦横無尽に飛び回っている。
「火術! 氷術! 雷術! 光術! ……あるぇ? おかしいな〜。なんだか効いてないみたいなんだよ〜」
「むぅぅ、あたしのも効かない。何で〜?」
そんな中、廿日 千結(はつか・ちゆ)と篁 雪乃(たかむら・ゆきの)は自身の扱える魔術を駆使して戦っていた。命中したはずの鳥達が一羽として落ちていないのを確認し、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が思案する。
「先ほどの私と同様か。これはどうしたものか……ん?」
冷静に現状に対処しようとしている者が多い中、レヴィシュタールは一羽の鳥をじっと見ているロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)に気付いた。
(こ奴……何か打開策を見つけたのか?)
「……」
じゅる。
そんな音が聞こえた気がした。
(……まさか、腹が減っているだけではなかろうな)
そんな不安を余所にロアが弓を構える。直線的な動きをしている一羽に狙いを定めると、そのまま綺麗に射落とした。
「攻撃が効いた……!? 一体何が――」
「レヴィシュタール」
「む、どうした?」
「鳥の回収、宜しく。特に美味そうな奴を」
「貴様、やはり腹が減っているだけか!」
文句を言いながらもパートナーの為に落ちた鳥の下へと向かうレヴィシュタール。だが彼が着くよりも早く、鳥の姿は空気中に溶けるように消えていった。
「消えた……? やっぱりただの鳥じゃなくて、魔法生物だからかな」
「鳥の姿をしているのはあくまで外見だけって事なんでしょうか。隼斗くん、この子達に命があるかは分かりますか?」
「どうだろう。試してみるよ」
火村 加夜(ひむら・かや)の疑問を確かめる為に篁 隼斗が降下する一羽の鳥の前に立ち塞がる。鳥に命があるならビーストマスターである隼斗に反応し、場合によっては上位の相手と認識して怯むはずだ。
だが、鳥はそのまま隼斗へと突撃してきた。ギリギリの所でそれをかわすが、鳥から伝わって来る物は魔力ばかりで生命の鼓動は感じられない。
「加夜ちゃんの言う通り外見だけで、本質は魔力の塊みたいだね」
「そうですか……良かったです。魔法生物とは言っても、命を奪う事には抵抗がありますから」
微かに安堵する加夜。とは言え、攻撃が効かないという現象を何とかしないと完全に安心は出来ない事に変わりは無い。先ほどのロアの一撃だけが通ったからには何らかの抜け道があるのだろうが。
「千結や雪乃ちゃん、レヴィシュタールさんの魔法が効かないだけなら話は分かるけど、さっきは槍やショットガンなんかも効果が無いみたいだったからな……でも、泣き言を言う訳にもいかない。やれる事は試してみよう」
今度は無限 大吾(むげん・だいご)が通常よりも強化された大口径のハンドガン、インフィニットヴァリスタを構える。
「こいつは手数よりも威力を重視した銃だから、向こうの不思議な防御を突き破れるかも知れない――行くぞ!」
引き鉄を引き、一発の銃弾が鳥の中でも大きめの個体に命中する。その攻撃は鳥の身体を突き破り、先ほどの弓矢同様に撃ち落した。落とされた鳥はやはり魔力の塵へと霧散していく。
「これも効果ありか。となると有効な攻撃は『飛び道具による物理攻撃』か?」
「それではショットガンが無効化された説明がつかないな……あれはゴム弾だったから、一定の威力も加味されるのだろうか」
葉月 ショウ(はづき・しょう)と冴弥 永夜(さえわたり・とおや)が分析をする。仮に威力を持った銃や弓の攻撃のみが有効なら、この場にいる者達ならある程度は有利に立ち回れるはずだ。
「なら引き付ける役がいれば楽になる……飛ぶ相手なら私に任せて。ユーベル……」
「分かってますわ、リネン。あたしも新しく覚えた呪文で援護に回ります……お気をつけて」
リネン・エルフト(りねん・えるふと)がユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)から光条兵器、魔剣ユーベルキャリバーを受け取り、空中に飛び立とうとする。ブーツの踵部分からヴァルキリーの物に似た小さな翼を展開させる彼女の横に、人工の翼を背負ったショウが並んだ。
「俺も行こう。空があいつらだけの物じゃ無いって事を教えてやらないとな」
「……分かった、葉月。一緒に」
「あぁ」
二人が飛び立つ。そんな彼女達を見送りながら、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)がこの場にいる者達への加護を祈っていた。
「我らが主、女神イナンナよ……今こそ加護を! ――特にリネンとユーベルとオレ好みの女の子へ重点的に」
最後に小声で私欲を混ぜる。果たしてフェイミィのある意味純粋な願いはイナンナへと届いたのであろうか。
「恐らくこの呪文も直接的な効果は期待出来ないでしょう……ですが、先ほどの皆さんの魔法。あれらはダメージは無いものの衝撃自体は伝わっているようでした。ならこれも同じように援護としての効果はあるはず……!」
ユーベルが一羽の鳥に天のいかづちを落とす。落雷を受けた鳥はやはりダメージを受けないが、電撃により大きく高度を下げ始めた。そのチャンスを逃さず、蘇芳 秋人(すおう・あきと)が銃を構えて照準を合わせる。
「よし、しっかり狙って……蕾、誘導補正を頼むっ」
「分かりました……サポートします」
蘇芳 蕾(すおう・つぼみ)が秋人の照準をより精密な物にする。それは後ろから手を添える形での支援で、そうなると当然――
「って、近い近い! くっつき過ぎだって!」
「この方が……感覚を共有出来ますから……」
「でも当たってる! 何か柔らかい物が当たってるよ! そんな所まで真似して、張り合わなくてもいいから!」
「……別に、義姉様に嫉妬してる訳じゃありません」
そんなやり取りをしながらも秋人が鳥を狙い撃つ。蕾のサイコキネシスによる誘導を受けたそれは寸分違わず命中したが、蕾はそのまま秋人に抱き付くように手を添え続けていた。
(私は、私として秋人様を支える……模造品なんかじゃ……無い)
「これで、目くらましに……!」
加夜が光術を放ち、鳥を牽制する。そこに上空にいるショウが至近距離から銃を撃ち、撃墜した。更に小回りの利く小柄な鳥を次々と撃ち落としていく。
「よし、このまま狙い撃つ」
地上との役割分担で異なる大きさの鳥達をどんどん減らして行く中、一羽の鳥が回り込み、ショウへと接近した。それを察知したリネンが援護に入る。
「やらせないわ……これで……!」
「隙を突けると思ったら、大間違いだ!」
ユーベルキャリバーを構えたリネンと、接近戦対策に無光剣を隠し持っていたショウが同時に鳥を一閃する。二人の攻撃は両翼を切り裂き、飛ぶ手段を失った鳥は地面に叩きつけられてそのまま消滅した。
「……どういう事……? 剣は効果が無いと思ったのに……」
「分からないな……永夜! 今ので何か分かったか?」
「攻撃が通る条件……共通点か。イレギオさんはどう思う?」
ショウが下で見ていた永夜に問いかけ、永夜が更にイレギオ・ファードヴァルド(いれぎお・ふぁーどばるど)へと尋ねる。
「有効だったのはドゥーエ、無限、蘇芳、エルフト、葉月か。そして逆に無効だったのは………………もしや、条件は『地球人』か?」
「そういう事か。なら俺の攻撃も有効なはずだな」
推測を確かな物にする為に永夜が銃で鳥へと攻撃する。すると予想通り、銃弾は鳥を貫いて明確なダメージを与えた。
「イレギオさん、見ての通りだ」
「うむ。これで役割が明確化したな。ならば迷う事は無い。私達の魔法で敵を一箇所に集めてくれよう。その代わり、仕上げは任せたぞ」
「えぇ。じゃあ皆、一気に勝負を決めるとしようか」
永夜の言葉を皮切りに全員が動き出す。まずは魔法使い達による敵の牽制だ。
「ふむ……なるほどな」
「締めは皆さんに譲り、あたし達はそれを支えましょう」
「うん! これで足止めするんだから!」
レヴィシュタール、ユーベル、雪乃がイレギオと一緒に雷や炎といった魔法を放ち、鳥の進路を妨害する。雷が命中して高度を落とした敵に対しては、フェイミィが大剣で大きく弾き飛ばして行った。
「足手まといになる訳にはいかねぇからな。そら、仲間の所に飛んで行け!」
徐々に一箇所に誘導されたのを見て千結が奈落の鉄鎖、加夜がヒプノシスを使ってそこから逃げ出しそうな鳥を抑え込む。
「これで動きを封じるんだよ〜」
「後は皆さんにお任せします!」
纏まりつつある鳥達。止めとばかりに残りの地球人達がそれぞれの得物で狙いを付けた。
「秋人様……あちらです」
「だ、だから当たって……! と、とにかくこれで焼き鳥にしてやる!」
「本当に焼き鳥になれば良かったんだけどな……」
「まぁこの依頼が終わったら食べに行くといいさ。何なら美味しい焼き鳥の店を紹介するぞ」
相変わらず蕾の密着を受ける秋人と、ロア、大吾が地上から鳥を狙う。
「私も銃に切り替える……終わらせるわ」
「集中砲火。これなら決まりだな」
空中からはリネンとショウが。更に秋人達とは別の位置に弓を構えた隼斗が立ち、隣の永夜が全体に呼びかける。
「冴弥さん!」
「あぁ、行くぞ皆……ファイア!」
永夜の号令で三方向から銃が火を噴き、矢が放たれる。逃げ場を失った残り僅かな鳥達は、攻撃を受けて全てがただの魔力へと姿を変え、消滅していくのであった――
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