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リアクション
紳士はゆで卵がお好き?
ここは食堂。昼時間をとっくに過ぎて人は少ないものの、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、遅めの昼食を終えたところで金色の光に包まれた。
さゆみはターコイズブルーのバニースーツ、アデリーヌはエメラルドグリーンのバニーとなった。2人ともすらりとした長い手脚に、見事なまでにマッチしたバニー姿である。
さゆみの手には愛用のカルスノウトが握られ、アデリーヌの手には美容師用のはさみが握られている。二人はかけていた椅子からゆらりと立ち上がった。
「髪……を……切りたい……ぴょん」
そばにいた男子生徒が真っ先に被害にあった。なにが起きたかわからぬまま、カルスノウトの一閃で虎刈りにされていた。
「あら……その刈り方は美しくありませんですわぴょん」
アデリーヌがはさみを滑らせるや、生徒の髪は全て根元から刈り取られていた。
「ああああああああああ!!!!」
妖艶なバニー2人に丸刈りにされた男子生徒は、頭を抱えて駆け出していった。
「次は誰だぴょ〜ん!!」
食堂は騒然となった。
さゆみとアデリーヌは舞うように、互いに妖艶に微笑み合いながら、ひたすら衝動と本能の赴くままに髪を切る快感に溺れていた。髪を切るときの手応え、独特の感触……それらを思いつつ陶然とした表情を浮かる二人。荒っぽく刈るさゆみに対し、アデリーヌはスピーディでありながらも丁寧に、さゆみの刈り残しを手際よく処理して行く。
南部 豊和(なんぶ・とよかず)は図書館で東洋魔術の資料探しをしていた際、バニー化した愛美に追われて逃げ出した後、他の生徒から今回の事件対策本部(?)があると聞き、カフェテリアにやってきた。雅羅から事情を聞いた豊和は持ち歩いていたタロットを取り出し、占ってみることにした。
「占った結果は食堂ですね。木を隠すには木の中、卵を隠すには卵の中。
調理場の冷蔵庫の中って事ですね。探してみましょう
ところで一人だと心細いので、出来ればどなたかご一緒してほしいなぁ」
豊和の言葉に、カフェテリアで事件に遭遇し、雅羅らが音楽室から戻るまで待機していた神皇 魅華星(しんおう・みかほ)と杜守 柚(ともり・ゆず)、柚のパートナーである杜守 三月(ともり・みつき)が、同行を申し出た。神皇が嫣然と微笑む。
「襲ってくるバニーはアボミネーションで止めてしまいますわよ
配慮など不要ですけれどわたくしは慈悲深いのですわ!」
柚がニコニコしながら言う。
「私もみんなを元に戻すお手伝いをしたいと思います。
雅羅ちゃんは大切なお友達ですから」
三月が、雅羅の頭を軽くポン、と叩いて続ける。
「ボクも柚と協力してイースター・エッグを探すよ。
乗りかかった船だし、雅羅を元気付けたいし」
神皇は雅羅をじっと見つめ、考え込んでいた。
(イースターのウサギが雅羅の望みを叶える?
もしかしてわたくしと同じように雅羅にも何か闇の正体があったりするのかしら?)
「僕の占いはわりと当たるんですよ。大丈夫、きっと見つかりますよ」
豊和が言ってタロットカードをしまい、立ち上がった。4人は食堂へと向かった。
そのころ、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は周囲の大騒動とは全く、ひとかけらも関係なく、ゆで卵が食べたいとパートナーの医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)とともに食堂へ向かっていた。なにやらバニーガールが生徒の髪の毛を刈りまくっているようだが、ブラックマントで気配を消しておけば大丈夫、と考えたのである。食堂にいた生徒たちはすでに髪を刈られるか、逃げ出すかしており、さゆみとアデリーヌの2人以外食堂に人気はなくなっていた。房内は目を丸くしてバニー2人を見つめた。
「ほほぅ……バニーガールとは良いものじゃのぅ。
実に色っぽい」
髪のある生徒はもはや室内にいない。さゆみは突然、アデリーヌに向き直った。
「その綺麗な髪、私がもらったぴょーん!!」
「わたくしこそいだだきますわぴょーん!!」
突如始まった同士討ち。いくら気配を消しているとはいえ、食堂中を暴れまわるので、刃は鬼龍や房内のそばまで飛んでくる。房内は刃をさっと避けて叫ぶ。
「わ、わ、なんじゃ、刃物なんか持って!! わらわのとこにまで来て危ないではないか!!」
一方の貴仁は、ちらりと2人を見ただけで、厨房の奥へといってしまった。
「なんだか、騒がしいですね。
でも、俺はそんなことより、お腹が空いたのですよ。えーと、タマゴタマゴ」
豊和らが食堂に着いたとき、さゆみとアデリーンのすさまじい攻防戦が繰り広げられていた。
剣戟をアデリーンが美容バサミで弾き返すたび、金属音と共に火花がシャワーのように飛び散る。2人とも本気だ。紅い瞳はもう、互いの髪しか見えていない。
ブラックマントの効果範囲から外れているため目視できる状態の房内が、2人の間をちょこまかと逃げ回っている。それを見て取った柚と三月が食堂へ飛び込んでいった。自分たちや房内へ飛んでくる刃を、柚はホーリーメイスで弾き返すように受け流し、その隙に三月は房内の手を掴んで、超感覚で飛んでくる刃を避けながら、豊和のいる食堂の外へと房内を誘導した。
「これでは中に入れませんね。床を凍らせて滑らせたらいいかな?」
豊和が言った。
「おお、それならわらわも良いものを持っておるぞ」
房内が懐からエステ用のローションの大瓶を取り出した。神皇がアボミネーションで2人のバニーを怯ませた隙に、房内がローションを足元に撒き散らした。それを豊和の氷術が凍らせる。バニーの標準装備はピンヒールであるからひとたまりもない。二人は獲物を取り落とし、立ち上がろうともがきまわった挙句、壁に頭をぶつけてのびてしまった。
「怪我してないかな? ヒールしたほうがいい?」
柚の問いかけに三月が、
「その前に、手足を縛って、武器を遠ざけておこう」
バニー二人が片付き、卵を探そうと厨房の奥へ入ると、今まさに、貴仁が白地にクリーム色のひよこ模様のイースターエッグを、今まさに鍋に入れようとしているところであった。卵を探しにきた全員が、一斉に叫ぶ。
「ダメーーーーーーーーッ!!!!!!」
三月が貴仁の手からタマゴを奪い返し、一同はほっとため息をついた。貴仁がぼやく。
「……なんなんだよ、いったい」
豊和と、しぶる貴仁がさゆみとアデリーヌを背負い、皆はカフェテラスへ向かった。
残る卵は、あと2つ。
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