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夏合宿、ひょっこり

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夏合宿、ひょっこり

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    ★    ★    ★
 
「うむ、動物がいるなら、貴重なタンパク源が確保できそうなんだが……」
 森の中でパートナーたちでも食べられそうな無難な木の実や草を探していた佐野 和輝(さの・かずき)も、毒島大佐の食べ残しを見つけてやや勘違いをしていた。
「先にここを通った人間の足跡以外に痕跡がないと言うことは、鳥が落とした物か?」
 空を見あげると、佐野和輝は近くに獲物がいないかと見回してみた。
 すると、上空から大きな影が下りてくる。獲物かと身構えたが、それは東 朱鷺(あずま・とき)であった。
「ふう、危なく鳥と間違えて撃つところでしたよ」
 マシンピストルをホルスターにしまいなおして、佐野和輝が言った。
「勘弁してちょうだい。朱鷺っていう名前でも、鳥じゃないんだから」
 撃たれてはたまらないと、東朱鷺が言った。
「何か面白い物はありませんでしたか?」
 佐野和輝が訊ねる。
「とりたてては。ただ、この森は植生がめちゃくちゃよね。なんだか、果樹公園みたいに、適当に食料がごちゃ混ぜであるみたいだし」
「確かに、もともとおかしな島ですからね。もっとも、そんな島だからこそ、ここが選ばれたのでしょうけれど」
「まあ、そうでしょうね。なんだか、微妙に人工的ですもの。なんだか、へたをすると罠の一つぐらい……!」
「どうかしましたか?」
 ふいに地面にしゃがみ込んだ東朱鷺にむかって、佐野和輝が訊ねた。
「落とし穴ですね」
 地面を調べながら東朱鷺が言う。
「姑息な。こんな罠に俺たちが引っ掛かると思っているとは、見くびられたものです」
「こんな物があるのでは、森はあまり安全とは言えないみたいですね」
 少し考えてから、二人は申し合わせて海岸の方へと戻っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「薪、薪〜♪ 違った、丸太、丸太〜♪」
「ちょっと、りゅーき、もしかしてこのじょうきょーを楽しんでなあい?」
 鼻歌交じりに、手頃な木を日曜大工セットで切り倒していく曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)に、マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が突っ込んだ。
「そんなことはないですよぉ〜。でも、なんかちょっとアウトドアって言うかあ、探検っぽいですよねぇ」
「ああ、やっぱりわくわくしてるー」
 サバイバルナイフでロープになりそうな蔦を刈っていた手を休めて、マティエ・エニュールが溜め息をついた。
「だめだわ、私がしっかりしないと……、私が……」
 自分に言い聞かせるように、マティエ・エニュールがつぶやく。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよぉ。ガイドさんたちも、どこかそのへんに隠れているんじゃないですかぁ。だいたいー、動く島なんて、多分人工島か何かなんじゃ……」
「もう、そんな話はいいからあ、大事なのは今夜のごはんだよ。それから、明日のお船なんだよ。分かってる? 前みたいなのはやだからね」
「はいはい。船はどんなのがいいかなあ。潜水艦なんか格好いいかも……」
「そんなの作れるわけないでしょう! もっと真面目なやりなさーい!!」
 いっこうに真面目にならない曖浜瑠樹に、マティエ・エニュールの則天去私が炸裂した。
「あれ〜」
 あっけなく、切ったばかりの木ごと曖浜瑠樹が宙高く吹っ飛ばされた。
「おっとっと、危ないでございますよ」
 空を飛んでいたクナイ・アヤシが、ひょいと曖浜瑠樹を避ける。
「いったい何が……むっ」
 突然近くを銃弾が通りすぎて、クナイ・アヤシはあわてて高度を下げた。
「なんだか、危なっかしい物ばっかり飛んできますね。川上に急ぎましょう」
「ちっ、外したか。いや、鳥じゃなかったのかな。まあいいや」
 スナイパーライフルの銃口を下げると、泉椿がちょっと残念そうに言った。
「なんか騒がしいにゃ〜♪」
 丸太を担いだイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)が、突然落ちてきた木をひょいと避けた。
 曖浜瑠樹は、もっと手前に落ちたようだ。
「ちょうどいい木だにゃ〜。これも拾っていくにゃ〜」
 
    ★    ★    ★
 
「いろいろと騒がしいようだなあ。みんな適当に木を切っているのかな」
「うん……、そう、みたい」
 紫色のビキニを着た漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、樹月 刀真(きづき・とうま)に答えた。今回の合宿には、いろいろと色違いの水着を用意して精一杯おしゃれしている。
「こういうことは、スマートに手早くやらないといけないんだがなあ。その点、俺たちは、夏合宿のベテランだからな」
 同意を求めるように、樹月刀真が軽く漆髪月夜にウインクした。
「ベテラン……」
 ちょっと、以前の合宿のことを思い出して、漆髪月夜が顔を赤らめた。
ガラ空きだ!
 その隙を突いて、樹月刀真が光条兵器を取り出そうと漆髪月夜に手をのばした。
 むんず。
 その手は、光条兵器を漆髪月夜の身体の中から取り出すのではなく、みごとにブラをつかんで引っぺがしていた。
そんな、なんて……、そこ、違う……。刀真のエッチ!」
 すかさず、漆髪月夜がカウンター気味に樹月刀真にボディブローを叩き込んだ。
「グッ……。じ、事故だ……」
「事故発生率が多すぎる……」
 両手を腰に当てて、漆髪月夜が樹月刀真を睨みつけた。
「まったく、あのころはまだ恥じらいがあって可愛かったのに。とりあえず、胸隠せ、胸。」
 返事の代わりに、漆髪月夜が強烈なアッパーカットを樹月刀真に炸裂させた。
「ぐはあっ」
 吹っ飛んだ樹月刀真の手から離れたブラがひらひらと舞い落ちてくるのを、漆髪月夜がバシッとつかみ取る。
「さあ、早く木を切る!」
 自分で黒の剣を取り出すと、漆髪月夜がそれを樹月刀真に突きつけた。
 
    ★    ★    ★
 
「あ〜ああ〜」
「こら、遊んでばかりいないで、なんとかせい」
 蔦を使ってターザンごっこに夢中なアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)にむかって、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が怒鳴った。
「あ〜ああ〜」
「こらっ! ヨンまで……。まったく」
 アキラ・セイルーンの後ろに同じようにターザンごっこで続くヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)をみて、さすがにルシェイメア・フローズンが怒る。
「だって、この状況を生き抜くのが訓練なんだろう。間違っちゃいないはずだぜ」
「思いっきり間違ってるわ!!」
 大きな枝の上にストンと降り立ったアキラ・セイルーンに、ルシェイメア・フローズンが思いっきり突っ込んだ。
「あ〜ああ……あらららららら!?」
 同じ枝に立とうとしたヨン・ナイフィードがバランスを崩して落ちそうになる。
「大丈夫か、ジェーン」
 さっとヨン・ナイフィードの手をつかんで、アキラ・セイルーンが枝の上に引っぱりあげた。もともと精霊なので空は飛べるので、ふわりと浮きあがって枝にストンと着地する。
「さあ、今度はツリーハウスを作って、そこを秘密基地にするぞ」
「はい」
「こら、いいかげんにせい。そんなことじゃ、評価は最低じゃぞ。少なくとも、食べ物ぐらいは確保せい。わしは、お腹が空いたのじゃ!」
 ちょっと地団駄を踏みながら、ルシェイメア・フローズンが叫んだ。
「仕方ないなあ、よし、今度は木から木へ果物を取って回るぞ。ついてこい、ヨン」
「はーい」
「こらー、わしをおいていくなあ〜」