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夏合宿、ひょっこり

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夏合宿、ひょっこり

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海岸

 
 
 海岸では、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)たちがバーベキューの準備をしているところであった。
「ほう、よくもこんなに豊富な食材を集めることが出来たものです」
 その場にならべられた食材を見て、高月玄秀が感心した。
 それにしても、どう見ても、そこらのスーパーで買ってきたような肉や野菜がある。もしかして、この島にはコンビニか何かが隠されているのだろうか。
「ちゃう、ちゃう」
「むっ」
 何か、絶妙のタイミングで、高月玄秀が連れてきたイチャウチャウが鳴いた。なんかむかつく。
「いりませんね、これ。どうぞもらってください。いい食材ですよ」
「えっ?」
「では」
 突然現れて、イチャウチャウを押しつけられたクロセル・ラインツァートがちょっと呆然として立ちすくんだ。
「こ、これを食えと言うんですか……。だ、誰がさばきます!?」
 思わず、バーベキュー仲間を振り返ったが、誰もが視線を逸らす。
「ええっと……」
 仕方なく包丁を手に取ったものの、さすがにためらわれる。という以前に、これは食用なのか?
「ちゃうちゃう!?」
 さすがに殺気を感じとったイチャウチャウの二匹が、だきあって震えだした。次の瞬間、二匹で手と手を取り合って逃げだした。
「ああ、逃げちゃいましたね。もったいない」
 ちょっとほっとしながら、クロセル・ラインツァートがわざとらしく言った。
 
    ★    ★    ★
 
「まったく、グリちゃんったら、何をやっているんだか……」
 空飛ぶ魔法↑↑で上空から周囲を見回していた秋月葵が、海岸で遊んでいるイングリット・ローゼンベルグを見下ろして軽く溜め息をついた。
 水着を着たイングリット・ローゼンベルグは、集めた木材で作りあげたちっちゃな筏にビニールシートの帆を上げて浅瀬で疾走させていた。
「手下共、準備はよいかにゃ〜。海賊船イングリット号、出航にゃー!」
 紐を銜えて筏を引っぱっているDSペンギンたちにむかって、イングリット・ローゼンベルグが命令を下す。
「脱出用の筏を作るはずなのに、水遊び用の筏を作ってどうするんだもん」
 あんな小さな筏では、ろくに食料も詰めないだろうし、せいぜい乗れても二人だけだ。
「おやおや、こちらはずいぶんとにぎやかなようでございま……うっ、またですか!!」
 空を飛びながら戻ってきたクナイ・アヤシであったが、再び狙撃されて、さすがに一目散に地上に逃げ降りた。同様に、秋月葵も狙われて、あわてて地面に避難する。
「残念、逃げられましたか。でっかい鳥さんが二羽だったので、みんなでたっぷり食べられると思いましたのに。仕方ありません。メインは魚にしましょう」
 魔道銃をしまうと、葉月可憐は機晶爆弾を片手に海へとむかった。
 
    ★    ★    ★
 
「きっと、あの山に登れば脱出の手がかりがつかめるはずだ。フラグを立てるなら、あそこしかないはず」
 少し息を切らせながら、紅護 理依(こうご・りい)が山を目指して進んでいた。結構急な斜面が続くので、体力的に息が切れる。
「それにしても、本当に無人島なんだろうなあ。逆に、人がいないってことは、危険な動物とかが住んでたらどうするつもりなんだ。まさか、それを倒すのも試験だなんて言わないだろうなあ」
 ちょっとそれは勘弁してほしいと、紅護理依が周囲を見回した。気持ちは豪傑でも、身体はそうはいかない。
「ちゃう〜ん、ちゃう〜ん!」
 変なことを考えるときというのは、得てして、本当にそうなってしまうことが多いものである。
 森の中から、突然、二足歩行の犬のような奇妙な生き物が二匹、ぺったりとだきあいながら突進してきた。その姿は、まるで薔薇の花を口に銜えて、しっかりと握り合った手をのばしてフラメンコを突進しているバカップルのようである。
「なんだ、あの気持ち悪い生き物は。しっしっ、こっちくんな!!」
 あわてて紅護理依が逃げようとするが、人なつこいのか、こいつには勝てると勘違いしたのか、イチャウチャウはスピードを上げて紅護理依に突っ込んできた。
「走れ、稲妻ですわ!」
 まさに襲いかかられようとしたとき、突然迸った雷光がイチャウチャウに命中した。ぶすぶすと白煙をあげてイチャウチャウが感電する。
「耐えたというのですの?」
「ちゃう〜ん、ちゃう〜ん!」
 轟雷閃を放った八塚くららが第二撃を構えるのを見て、イチャウチャウが逃げだしていった。
「ふう、助かったぜ」
「大丈夫ですかあ? まったく、動物がいるかもと思ったら、あんな野生のイチャウチャウがいるだなんて……」
 ほっと一息つく紅護理依に、八塚くららが声をかけた。
 
    ★    ★    ★
 
「やっぱり、なんだか、おかしくないですかこの島……」
 ここに来るまでの船の航路や、現在の太陽の位置から現在地を計算しようとしていた佐野和輝だったが、どうにも計算が合わないので半ば放り出しかけていた。
「あのね、あのね、さっきからずっと、このお島、ふらふら踊ってるんだよ。だから、方向がいつも変わってるの」
 アニス・パラスが、そんな佐野和輝の疑問を晴らすかのような言葉を口にした。
「アニスの方向感覚は信じるにたりますね」
 スノー・クライムが、小さくうなずいた。
「やはり、この島は動いているということですか」
 佐野和輝は確信したが、それに対する対抗策を考え出さなければ意味がない。
 何か役にたつ物はないかとトレジャーセンスを駆使しても、方向性がまったくつかめない。具体的に何が宝なのか限定できていないので、この島全体が反応を返してしまっているようだ。これでは、ほとんど意味がない。現在目指している山の頂上をさしてくれるかとも思ったのだが、そこを含めてこの島全体がお宝としか感じないのだった。
「ちょっと疲れたー。暑いのー」
 これから山を目指そうという段で、アニス・パラスがちょっと駄々をこねた。小さな山とはいえ、それゆえに傾斜がきつい。
「少し休みましょう。アニスには無理ですから」
 スノー・クライムの言を入れて、佐野和輝は休息をとることにした。
「ねえ、これ脱いでいい?」
「日焼けして後で皮がむけちゃうからだめよ」
「ちぇー」
 羽織っていたシャツを脱ごうとしてスノー・クライムに怒られたアニス・パラスが頬をふくらませた。
「ふんふん、いいことを聞いた。今のことは本当なんだね?」
 ベルフラマントで身を隠して佐野和輝たちの様子をうかがっていたフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)が、そばに生えていた草に、人の心、草の心で訊ねた。
 うんと、草が花を振って答える。
「それで、あの山に秘密があるのかい」
 また、草たちがフィーア・四条にうなずいた。
「ようし、そうと分かれば先回りだ」
 ゆっくりと休んでいる佐野和輝たちを後にして、フィーア・四条は山の頂上を目指した。