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リアクション
8.龍宮調査隊
扉にはまってしまっている最後の防衛システムを引っこ抜くと、守衛室への道が開いた。
「ここが、この場所の防衛の要ですか」
興味深そうにエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がスタスタと中に入っていく。警戒心が微塵も無いが、あれだけ強ければそんなに心配もいらないのかな、なんてザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は思った。
パイルバンカーで龍宮に突入したザカコは、トレジャーセンスを発揮させてどんどん先に進んでいた。思ったよりは、近未来的な内部を進んでいく途中で、小型の防衛システムと戦闘を繰り広げていたエース・ラグランツらと遭遇してしまった。
そこまで何故かついてきていたエッツェルも渋々といった形で手を貸してくれて、なんとか敵の群れを片付けると、この先にあるという守衛室に向かったのだ。
仲間との合流できた彼らとは別に、エッツェルは奥の端末に興味を示した様子だった。ザカコも、なんとなしにそれに注目する。
「見た事もない文字ですね」
「文化圏が違えば、文字も違うのは当然でしょう」
そもそも、ここを利用していたのが誰かもよくわかっていないのだ。当然、ここに表示されている文字を解読できるわけもない。
ザカコはどう見ても興味津々といった様子のエッツェルが、余計な事をしないように忠告しようとしたが、既に時遅くもう端末を操作しはじめていた。
「……この文字、読めるんですか?」
「いえいえ、なんとなくこうかなと」
なんとなく、で迷う様子もなく操作を続行するエッツェル。すると、端末の画面が唐突に真っ赤になって、意味のわからない文字で二択を迫られていた。
読めないが、真っ赤というのが気にかかる。穏便なものではないだろうし、きっと警告のようなもので間違いないはずだ。
「ちょっと、不味いんじゃないですか」
なんて言っても聞く耳持たないエッツェルは、そのまま二択のどちらが是で否なのかもわからないのに、操作を続行する。すると、画面は元の画面に戻ってしまった。たぶん、ではあるが二択で否を選択したのだろう。だから、画面は元に戻ったのだ。
何か危ない事件がここで発生する危険が、さりげなく回避されたのかもしれない。
「ふむふむ、なるほどなるほど」
「もしかして、この文字本当は読めているんじゃないですか?」
「まさか、見た事も無い文字に少し驚いているのですよ。まだまだ、私の知らないものも多くあるものだと、ええ」
そんな事を言いながらも、端末の操作が再開される。今度は先ほどのような赤い文字が並ぶこともなく、ある程度触れたから満足したのかエッツェルは端末から手を離した。
「さて、ここにはもう用はありませんし、調査を続けましょうか」
「え?」
「やはり、言葉のわからない機械をいじってもダメですね。今ので都合よくロックのかかっている扉でも開いていたりすればいいんですが、そんな幸運にかけるよりも、人間の直感の方が今はずっと役に立ちますよ」
「……つまりそれは、自分に道案内をしろという事ですか?」
「平たく言えば、そうなるかもしれません。あなたも、この設備は探索の目的ではないのでしょう?」
ザカコの調査目的は、龍宮にお宝が本当にあるのかどうかだ。
この設備や防衛システムなど、そういったものも人によってはお宝だろうが、知識や生かせる立場が無いとただの危険物に過ぎない。一般の人にとって、お宝というものは金銀財宝の事であり、あの武装勢力もそれを目当てにしていたらしい。
ならば、それが無いと言い切れればある程度は今後の問題回避に繋がるだろう。人が危険な場所に足を踏み入れるのは、夢がそこにあるからだ。それを真っ向から否定するば、誰もそんな場所に向かおうとはしない。
まぁ、先述の通りここの技術などを狙うとなると話しは別になるが、それでも有象無象を追い払う為の手段にはなるだろう。大体、封印されている危険なものを復活させるのは、無知な人間と相場が決まっているものだ。
「さ、行きましょうか。私ももっと色々なものを観察したいのです。時間は有限ですよ?」
海底で光がとどかない施設でありながら、龍宮のシールド内部は春先のように過ごしやすい気温だった。もっとも、それを堪能する余裕などなく、襲い掛かってきた防衛システムに追われてあっという間に体は汗だくになってしまった。
「しかし、助けてもらってしまったが、こっちに来ても大丈夫だったのか?」
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)に尋ねる。
彼は、別の仲間とあのパイルバンカーではない方法でここに侵入するという話だった。
「あ、あのような方法だと事前にわかっていれば……あんなもの、頼まれても乗りはしなかったというのに……」
恨めしそうにロアを身ながら、ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)はうめいた。乗り物酔いで済むようなレベルではなかったパイルバンカーによって、だいぶ精神を蝕まれているらしい。
「色々あってな、佐野達とははぐれてしまったのだよ。幸い、敵とも分断される形になったが孤立しまって、合流できた事は私達にとってもありがたい話だ」
レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)とロアの二人は、実里と共に先行して龍宮に突入していた。途中までは共に行動していたが、防衛システムが中を徘徊するようになると、途端に実里達への攻撃が熾烈なものになった。
共に蹴散らしながら進んでいたが、運悪く降りてきた隔壁によって分断され孤立、その時にグラキエスから来た通信を頼りに合流に向かったのである。
「しかし、随分と苦労したみたいだな」
死に掛けのベルテハイトは、戦闘の結果ではなくパイルバンカーに振り回されて酔ってしまっているらしい。腕に自信があるグラキエスではあったが、既に戦闘不能でまともに動けない彼を抱えて群がる防衛システムを相手どるわけにもいかず、困ったところにロアらが合流してなんとか逃走に成功したのだ。
「うぅ……」
気持ち悪さと、自戒の念でベルテハイトがうめく。
「仕方ない、俺の血を吸え。それで少しはマシになるだろう」
グラキエスはベルテハイトを抱き寄せる。
「すみません」
小声でささやくと、ベルテハイトはグラキエスの首筋に牙を立てた。
「うわっ」
「おやおや、子供も居るのにそんなシーンを見せるのはどうかと思いますよ」
「ちょっと、僕は子供じゃないよ!」
周囲の探索と安全確認をしていたエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)とイルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)、それにアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が戻ってくるなり騒がしくする。
「それで、どうであった?」
「うむ。唐突に扉が開いたため罠かと思ったが、ここは純然たる倉庫のようだ。奥に、本館と繋がると思われる道を見つけた。ベルテハイトの体調が戻り次第、探索を続けることは可能であろう」
レヴィシュタールの問いに、アウレウスが答える。
「そうだ! それでね、こんなの見つけてきたんだよ」
エルデネストとの自分が大人か子供かの論争に負けそうなったイルベルリが、話題を切り替えるようにして少し大きな声を出す。
少し駆け足でロアのところまで持ってきたのは、何かが入った瓶だ。
「なんだ?」
「お茶の葉だよ。すごくいい匂いがしてたんだよ。他にも色々あって、ここはお茶とかをしまっておくための場所だったんじゃないかな。あ、それとね、お酒があるお部屋もあったんだよ」
彼らが身を潜めた場所は、本館から少しはなれた小さな建物だ。偶然前を通りかかった時に扉が開いたので、内部に潜り込んで追撃から逃れたのである。突然に扉が開いた事いは驚いたが、内部で調査をしている誰かの影響だと今では考えている。中を簡単に調べても、扉を開けた人は見当たらなかったからだ。
「酒か、この施設は自分と古いもののようだから、飲むことができるものなのかはわからないな」
と、グラキエス。
「でも、このお茶は大丈夫だよ。さっき味見したしね」
「味見……よく、そんな勇気あったな」
「私が止めるのも聞かずに……お子様のしつけはしっかりお願いします」
「だから僕は子供じゃないよ!」
「それはそれは……うちの羊が迷惑をかけてしまったようで、よく叱っておきますので」
「だーかーらー! もう、みんなして酷いよ。せっかく、ここでティータイムにしようって思ったのにさ」
「拗ねるなよ」
「お茶か、ベテルハイトの調子が戻るまで休むのも悪くは無いな。どれ、一つもらおうか」
グラキエスに頼まれて、イルベルリは元気にうんと返事をして準備にとりかかった。
エルデネストがグラキエスの顔を覗き込むが、特に何も言うことなく、ただ少し意味深な笑みを浮かべただけだった。
「それにしても、随分と騒がしいパーティになったもんだな」
実里と共に行動していた時は、目的が目的だったからだろうか、緊迫した空気が張り詰めていた。それに対して、今は随分と空気が弛緩しているように思う。
「お気に召しませんか?」
ロアに尋ねるレヴィシュタールに、首を振って答える。
「こっちの方が気楽でいいさ」
防衛システムに追われたりしながらも、突入した調査隊はそれぞれ八方に広がって龍宮の調査を進めていた。結構な大人数が、個人の意思でバラバラに行動せざるえないのは、時間制限の問題もあった。
新月の夜に性能が落ちるシールドのため、この時間を過ぎて滞在してしまうと出られなくなってしまうのだ。そのため、いずれシールドをより安全に突破できるようになるかもしれないが、今は急いで手広く大雑把にでも調査は進めないといけない。最低でも、見取り図ぐらいは作っておきたいところだ。
しかしさすがは古代文明の超科学といったところで、力技では突破できなさそうな分厚い扉に遮られた部屋も多くあった。あったのだが、なぜかある時を境にしてそれらの扉があっさりと開いていくようになった。
その開いた扉の中の一つに、瓜生 コウ(うりゅう・こう)と叶 白竜(よう・ぱいろん)と世 羅儀(せい・らぎ)の三人は足を踏み入れていた。
「工場だな」
「ここで防衛システムを組み立ててるってわけか」
「全自動で次から次へと、どうりで倒しても倒しても数が減らないわけですね」
たどり着いた大広間には、工業用の機械が並び、ベルトコンベアの上を見た事のある部品が流れていく。龍宮では、誰かが指揮するまでもなく防衛システムが組み立てられているようだ。
「……しかし、資材だって無限にあるわけじゃないだろうし、よくも今でも稼動してるな」
手早く機械的に防衛システムが組み上がっていく様子は、それを相手にした身である羅儀にとってはあまりいい光景には見えないのだろう。
「ここで生産を行っているのであれば、ここを停止させれば今後は防衛システムの妨害を受けることが無くなるかもしれませんね」
生身となれば話は別だが、個々の性能は量産されているイコンには及ばない防衛システムの最大の長所は、数が多い事だ。その利点を奪えれば、今後の調査に大きく貢献できるだろう。
「工場探検か、オレとしてはもっと貴重な情報とかがあるといいんだけど、確かにアレの相手を毎回すんのも大変だもんな」
コウも白竜の案にのり、早速この中を調べてまわった。
最初に何か見つけたのは白竜だった。この工場の制御を行っているであろう小部屋を発見し、さっそく羅儀を呼び寄せる。だが、ここでも文字の壁が二人を遮った。
「読めませんね……」
「こうなったら、トライアンドエラーでなんとかするしかないだろ」
「……気は進みませんが、ぼんやり眺めて時間を労するわけにいきませんし、触れてみますか」
さっそく装置に色々と触れてみる。何が表示されているのかわからないから、操作して何が変化したかもわからない。そんな行き当たりばったりとすら言えないものだったが、幸運が舞い降りたのか工場の機械が突然ストップした。
「よっしゃ」
「どういう理由で止まったのか不安ですが、とりあえずは成功ですか」
不安は残るものの、これでこの工場の機能は停止した。
今後は防衛システムに頭を悩ませる必要もなくなるだろう。まだ時間は残っているし、調査も道半ばではあるが、一つ仕事を終えた気分がしてきた。
だが、そんな気分もコウに呼び出されて向かった先で消えうせた。
「機晶姫ってのは、女の子の姿の方が安定しやすいって話だったよな」
機晶石の力で動く機械を、総称して機晶姫と呼ぶ。中には、非人間型のものも少なく無いが、暴走をする可能性を減らすためには少女の姿をさせるのがいいとされている。
この龍宮の防衛システムもまた、機晶石の力で動いている。だが、非少女型でありながら量産され稼動しているのは単純に、ここの技術力が高いからだとなんとなくみんな思っていた。
だが、実情は違っていた。
「形こそは女の子の姿だけどな、あれたぶん目も耳も生きてないぞ」
文字通り、ガラス玉の目はものを見る機能があるとは思えない。口もぴったりと閉じていて、開く事はできないだろう。
そんな女の子の形をしたマネキンが、ずらりと並んでいるのだ。百近くはあるだろうか、当然こんなものが無意味にこの工場に並ぶわけがない。
「現実的にいえば、結局アレが機晶姫であるのは変わらないし、それを安定して量産するための装置なんだろうけど……人間の形をしたもんが、こう並んでんのはあまりいいもんじゃないな」
少女の形の人形の中に機晶石を入れて安定させて、そのうえで鎧として防衛システムを被せる。暴走の危険を回避しつつ、同じ性能かつ長期稼動をこなせる機晶姫の利用としてはまずまずの方法だろう。
「だとしても、オレはここを使ってた奴らは好きにはなれないな」
「私もです」
羅儀に白竜も同意する。
「色々考えるのも悪くは無いが、これ以上ここに滞在する意味はないな。さっさと移動しようか」
コウが二人を促して、この場をあとにする。時間に押されてなおかつ荷物もそこまで持ち運べない現状、今できる事はほとんどない。今後の調査の時に何かできるように、この場所についてはちゃんと報告しておくしかないだろう。
何も見えていないはずの、ガラス玉の視線がまとわりついている錯覚を覚えながら、三人はこの場をあとにした。
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