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浪の下の宝剣~龍宮の章(後編)~

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浪の下の宝剣~龍宮の章(後編)~

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17.もう一人の功労者



「全て思惑通り、というわけなのだろうな」
(全てではない、思っていたよりもいい結果だ)
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)のキツイ口調に、コリマは憮然とした口調で答えた。
 場所は天御柱学院の校長室。この場には、紫月 唯斗とエクスとコリマの三人の姿があった。先ほど、唯斗が龍宮での事件の顛末を報告し終えたばかりだ。
「そこまで強く言う必要もないのではありませんか?」
「人質としてここに残されもすれば、嫌味の一つでも言いたくなる」
 唯斗がコリマから機密情報を受け取る条件は二つ、頼まれた任務をこなすこと。もう一つが、人質を残していくこと。
 莫大な量のエネルギーと、完璧ではないとはいえ外側から世界に干渉できる装置。どちらも、危険すぎる代物だ。その情報を悪用せぬように、枷を用いたコリマの判断に対してはそれらを見てきた唯斗には何も言うことができなかった。
 後者の装置の危険性はわからなかったが、二つの宝玉から噴出したエネルギーの量は余波でさえ恐ろしいものだった。そして、それだけのエネルギーを持ってしても足りない装置もまた、間違いなく危険な代物だ。
(勿体無いと思うか?)
「……平和利用できるのであれば、残してもよかったと思います」
 龍宮を作った人たちができたように、エネルギーとして利用できるだろうか。今なおシャンバラも地球も、完全な平和を手に入れたとは言い難い。
(いずれ、あれは回収する予定であった。しかし、まさか不慮の事故で損失してしまうとは、思いもしなかった)
 白々しい台詞だ。大根役者にも程がある。
 これがコリマの狙いだったのだろう。
 二つの宝玉は、例え武器として利用するつもりがなくても、争いの火種になる。ただでさえ、ここ最近の海京は物騒な状態だ。なるべく秘密裏に処理しておきたい案件だった。
 だが、表立って動くわけにもいかなかった。宝玉の存在は極秘ではあったが、いずれ利用するものとされており、学院が独断で行動すれば各所からお咎めが来るだろう。自ら火種になるのは、コリマの本意ではない。
「安徳天皇が脱走できたのも、全部準備しておいたのであろう」
 安徳天皇は管理者として龍宮への責任があった。宝玉の危険性は誰よりも知っていただろうし、先日の武装集団の目的も早いうちから見抜いていたのだろう。そして、責任を背負った彼女の行動は、二つの宝玉の破壊を狙うとコリマは読んでいた。
 コリマは彼女が行動を起こしやすいように、龍宮調査の方にも働きかけていくつもの嘘をでっちあげて日程を調節した。武装集団の行動すら、利用しうる材料の一つだ。
「一度に関係者が全員集まるように仕組んで、少しでも安徳天皇の安全を確保しようとしたわけですね」
(ポータカラ人であるパジャールは危険な存在だ。佐野実里だけでは不安があった)
 一部のポータラカ人はポータラカの掟を破り、外に飛び出したものがいる。パジャールもその一人だった。どうも三枝とパジャールの関係は利害のみだったらしく、その目的もバラバラだった。三枝は力として宝玉を望み、パジャールは装置を求めていた。
 思えば、船の格納庫を埋め尽くすナノマシンは、龍宮では足りない演算能力を補佐するために用意したものだったのだろう。武器や盾として用意したにしては、あまりにも量が多すぎる。
 そのパジャールは佐野実里が回収し、三枝は調査隊によって逮捕された。あとは、それぞれがうまく蹴りをつけるだろう。武装集団もほとんどが逮捕された。内容が内容のため、裁判になるかはわからない。
 日本政府も、今後は行動を控えるだろう。今の安徳天皇に、莫大な量のエネルギーの引換券としての価値は無い。海を沈める役割は、何も神社の中でなければいけないというわけではないのだ。
(ご苦労だった)
「今回は、ほとんど見ていただけです。何かをした、というわけではありません」
(見ているだけというのは、不安で辛いものだったろう。損な役回りになってしまったが、最悪の事態が発生した時に、報告に来る者が必要だった)
 結局のところ、コリマはこの校長室の椅子に座りながら、目的を全て達したことになる。
 今は彼の側にいるが、もし敵対したらどれだけ厄介だろうか。などとつまらない事を考えてみる。コリマは天御柱学院の校長として、生徒のために行動していたし、そしてこれからもそうするのだろう。
 始終味方ではないかもしれないが、彼の敵に回るという事はこの天御柱学院を敵に回したという事だ。少なくとも、近い未来にそんなことがありうるとは思えない。
(正式な形ではできないが、礼を言おう)
 校長室を出て、廊下を歩いていると窓の外から楽しそうな声が聞こえてきた。
 エクスと二人で窓の外に視線を向けると、プールが見えた。いつの間にか、プール開きされていたらしい。その中に、一人特別背丈の小さい女の子が見える。
「もう授業に出ておるのか」
「随分と楽しそうですね」
 安徳天皇はビート版に振り回されているようだ。海を鎮める立場だからといって、泳ぎが得意というわけではないようだ。



「え? じゃあすぐにお店を出さないの?」
 小鳥遊 美羽の言葉に、佐野実里はこくりと頷いた。
「まだ……納得できない。ラーメンの道は……険しい」
 ぐっと強い視線をする実里に対して、美羽だけではなく実里の退院祝いに集まった面々は、果たしてここまで意思の篭った瞳を彼女が龍宮で見せていただろうか、なんて思った。
 パジャールを構成しているナノマシンを奪い取る、などという離れ業をしてみせて倒れた実里は、医者の診断によると過労となるらしい。
 結局実里ではパジャールは扱えず、今も龍宮に放置しっぱなしだ。もっとも、潜水艦かガネットでもなければたどり着けない場所だし、誰も文句は言わないだろう。
「今日は……きてくれて、ありがとう。お礼に……ラーメンを奢るわ」
「退院したばっかでラーメン食う気かよ。この退院だって、三日前倒しなんだし、少しは体を大事にしろよ」
 日比谷 皐月は呆れ顔だ。
「パジャールとの接続さえ……切れば大丈夫だったの。ラーメンを食べない方が……ずっと体に悪い」
「ほんとかよ」
 実里のラーメンに対する愛は本物だ。そんな彼女からラーメンを取り上げたら、本当に病気になりそうだから怖い。
「ラーメンも悪くないが……」
 レン・オズワルドが振り返る。病院の駐車場に植えられた木には、少し気の早いセミが大声を出して鳴いていた。
「こんなに暑いんだ。冷やし中華にしないか」
「冷やし……中華?」


「……はぁ」
「またため息でござるか、あまりため息ばかりつくのはよくないでござるよ」
「だってさぁ、酷いじゃない。せっかく私がハッキングして、龍宮のシステム全部有効活用できるように下ごしらえしたのにさ、いきなり停電してそれから起動もしなくなったのよ」
「それは確かに無念ではあるとわかりまするが、しかしそう何度もため息を―――」
「そもそも、スペシアが通信してくるのが遅いから!」
「だから、シールドが解除された時が停電した時なのでござるよ。どうしようもなかったのでござる」
「でもでもだって! あのわけわかんないプログラムを、必死で解読してって、そのうえちゃーんと誰でも使えるように翻訳までしたのよ。そりゃ、機械的にやっただけだから、よくわかんな言葉になってるのもおおかったけどさ」
「そうは言っても、もう龍宮は動かないのでござるよ」
「だから悔しいんじゃない!」
「ではどうすればいいでござるか」
「……そこなのよねぇ。動かせたとしても、もうあそこにほとんど価値なんて残ってないのよ。防衛システムも駆逐されたし、観光名所にでもする?」
「行き来の手段がほとんど無いではござらんか」
「あの面積で自給自足できる食糧生産プラントとか、空気の清浄システムとか、確かに拾えば光そうなものあるけど……はぁ。あーもうっ、私の努力と達成感を返せー!」

担当マスターより

▼担当マスター

野田内 廻

▼マスターコメント

 お待たせしました、野田内廻です。
 グランドシナリオ+前後編と三つのお話となりましたが、いかがだったでしょうか。楽しんでもらえたらいいな、と個人的には思っております。
 ともあれ、これでシリーズは完結とあいなりました。なんとかここまでたどり着けて、ほっとしております。

 このシリーズを担当している間に、いつの間にか本格的な夏になってしまいましたね。最近よりも、六月の方が暑さがきびしかったようにも思いますが、まだ八月も前半なのでこれから夏らしくなるのかもしれません。
 夏らしい思い出を一つぐらいは作りたいなー。

 こうして完結できたのも、皆さんのアクションあってのことです。本当にありがとうございました。
 もしよろしければ、どれぐらい先かわからない次回のお話でお会いしましょう。

 ではでは