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リアクション
源からの伝達が入る少し前、被空船内部でもセレンフィリティ・シャーレットがこちらへと向かってくるドラゴンを発見した。
「ドラゴン一匹、ワイバーン数匹確認! 距離まだあるよ!」
その声に、船内が色めきだつ。小暮は急ぎ通信回線を開くと、周辺を飛ぶ護衛船の面々へと警戒シグナルを飛ばす。
「来たか……総員警戒態勢、戦闘準備!」
小暮の指示を受けて、シャーレットは見張っていた窓を離れ、滑り込むように砲座に座ると、船に搭載されている武装をコントロール下に置く。
また、飛空艇の外で展開している護衛船にも、緊張が走る。既に一行の視界にはドラゴンのものと思われる影が見えている。
「敵はレッサードラゴン一匹、ワイバーン六匹」
源からの情報を、小暮が伝える。それを受けていち早く飛び出したのは、相沢 洋(あいざわ・ひろし)と乃木坂 みと(のぎさか・みと)の乗るサンタのトナカイだ。
戦場にはひたすら不釣り合いなその可愛らしい外見とは裏腹に、相沢のパワードスーツと乃木坂の魔力砲撃という、相当な火力を乗せている。
「ドラゴンか、銃弾が効かん。トナカイの操縦を変わる! 魔術で打ち落とせ! 敵を船に近付けるな!」
「ドラゴンを確認しました。魔導砲撃を開始します」
野木坂の持つ転経杖が魔力を帯びて光り始める。
ドラゴンが射程距離に入る。みとは杖を振りかざすと、唱えておいた氷術を――
「一同へ通達、ドラゴンを傷つけるな!」
放とうとした瞬間、通信機から小暮の声が響いた。集中が乱れ、乃木坂の手元から魔術の光が消える。
「どういう事ですか、少尉」
相沢が不服そうな声で通信に返答する。敵意を露わに襲ってくる相手を傷つけないことなどできないだろう。
「そのドラゴンは、僕らが縄張りを荒らしていると勘違いしているようです。飛行ルートを変更、離脱します。飛空艇が攻撃されることのないよう、ドラゴンの気を逸らすことに集中してください。無傷でとは行かないかもしれませんが、闖入者は僕らです。間違っても殺傷することはないように」
甘い、と相沢は呟いたが、命令であれば従うしかない。
「みと、聞いたとおりだ。殺傷することなく、ドラゴンを飛空艇から遠ざけるぞ」
「了解です」
それであれば、相沢の扱う機関銃の方がドラゴンを傷つけることがないので向いている。乃木坂と相沢はポジションを交代する。
相沢の操る機関銃が火を吹くと、ドラゴンはすぐにそちらを振り仰いで吼えた。
連れているワイバーン達も、その声に従って相沢の方をその視界に捉える。
レッサードラゴン一匹に、ワイバーンが六匹、傷つけないように相手にするには些か数が多い。
とそこへ、小型飛空艇オイレに乗った大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)と、その隣を光る箒で飛ぶ讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)の二人が、相沢達とドラゴンたちの間に割って入る。
「ちっこいのの足止めなら任しといてや!」
準備はばっちり、と言わんばかりに笑って、大久保は予め編んでおいた登山用のザイルの片方の端を持つ。そしてもう片方の端を讃岐院に持たせると、ネット様に編まれたザイルが二人の間に渡される格好になる。
そしてそれを広げたまま、二人はワイバーンに向かい、綺麗に並んで飛んでいく。
するとワイバーンの一匹が、それを怪しがったか二人に向かって進路を変えた。掛かった、と大久保はニヤリと笑う。
そのまままっすぐ、二人はワイバーンに向かってまっすぐ飛ぶ。そして擦れ違いざま、渡したザイルをぱっと離した。
編まれている登山用ザイルに翼を取られたワイバーンは、そのまま暫く藻掻いていたがやがて推進力を失って地面へと落ちていく。
そのまま地面に叩きつけられてしまうと死んでしまう可能性もある。
「傷つけるなとは、厄介だの」
讃岐院は溜息を吐きながら、サイコキネシスを発動する。質量があるのでワイバーンを空中で制止させるという訳には行かないが、落下の速度をすこし緩めてやるくらいは出来る。落ちたワイバーンは、ふんわりと地面に受け止められた。
「悪いが、飛空艇を傷つけさせる訳にはいかぬのでな」
ザイルに翼を絡め取られて藻掻くワイバーンの横に降り立った讃岐院が、ザイルを地面に固定する。これで暫くは動けないだろう。
出来たぞ、と空を振り仰ぐと、大久保がぐっと親指を上げて讃岐院の方へと示す。
と、その背後からドラゴンの咆吼が響く。
あぶない、と讃岐院が叫ぶと同時に、大久保の手元から氷術の光が飛んだ。間一髪、ファイアブレスを氷術で打ち消す。
そこへ、黒い翼を背負ったグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が大久保とドラゴンの間へ割り込む。
エンドロアがフッと笑うと、その身体からおぞましい気配が立ち上り、ドラゴンへと襲いかかる。幻覚に包まれたドラゴンは、瞬間我を失い、明後日の方向を向いて吼えた。
「ほら、こっちだ!」
エンドロアはパートナーのゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)と共にそのままドラゴンを引きつけ、みんなの元から引きはがす。
「よし、そのままグラキエス殿達、ドラゴンの足止めを。レリウス殿、念のため同行してください。残りはワイバーンの足止めをお願いします!」
ドラゴンが少し離れたのを確認した小暮からの通信が入る。
それを受け、手名付けたレッサーワイバーンに乗った清泉 北都(いずみ・ほくと)とクナイ・アヤシ(くない・あやし)は、手綱を取って自分たちの乗るワイバーンの首を、相手の方へと向ける。
「よし、行くよ。作戦通りよろしくね」
ワイバーンとの距離を有る程度詰めた所で、清泉は宮廷用飛行翼を広げると、そのままふわりと空に舞う。
そして速度を上げて、ワイバーンの前へと躍り出た。突然進路を塞がれる格好となり、ワイバーンは苛立った様子で清泉を睨む。
清泉は軽やかに翼をはためかせると、そのままワイバーンの背中へと回り込む。が、ワイバーンもすかさず身体を旋回させる。ドラゴンよりも身体が小さい分、小回りが利く。
それでも、清泉の方が瞬間早い。
ワイバーンが清泉へ改めて視線を定めると同時に、構えた黄昏の星輝銃をたん、たん、と連射する。左右から同時に弾が回り込み、ワイバーンの退路を断つ。
退路を断たれたワイバーンは、突然左右の翼を強くはためかせた。放たれた銃弾が、風に煽られて失速する。
しかし清泉はふ、と笑った。その視線の先には、ワイバーンを挟んだ向こう側から、必殺のロケットパンチを放ったパートナー、アヤシの姿。
アヤシの放った二発のロケットパンチは、ワイバーンの起こした突風をかいくぐるようにして肉薄する。一度羽ばたき、羽が下がりきっている為再び風を起こすことが出来ない。
翼の付け根にそれが強かにぶつかると、ワイバーンはギャア、と悲鳴を上げた。
よし、と清泉とアヤシは視線を合わせてフッと笑う。作戦成功だ。
すかさず清泉は方向転換して、アヤシの操るワイバーンの背へと戻る。落ちないようぴたりとアヤシの背にくっついて、反撃に備える。
ワイバーンが吼える。来る、とアヤシは手綱を握りしめ、レッサーワイバーンを離脱させようとする。
が、そこへもう一匹のワイバーンがアヤシ達の進路を塞ごうとするように立ち塞がった。
「しまった……!」
アヤシの顔に焦りが浮かぶ。
と、そこへ無数の銃弾が降り注いだ。レビテートとロケットシューズを併用して空を舞う、三船 敬一(みふね・けいいち)による弾幕だ。
銃弾の一発一発は、ワイバーンの厚い皮膚に弾かれてダメージは与えられない。が、しかし人間が豆鉄砲を喰らうくらいには痛いのだろう、ワイバーンは不快そうに身を捩る。
が、三船の方も自動小銃を連射した反動でバランスを崩す。そこへひょう、と風を切る音がして、三船のパートナー、コンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)がレッサーワイバーンを駆って飛んできた。
その背中に三船を乗せると、素早く離脱する。
ドラガセスがランスバレストの一撃を喰らわせる事が出来れば、ワイバーンの撃墜など容易いことだ。しかし、「足止め」となると強力なスキルは使えない。
飛空艇が進路を変えるまで、銃撃の軽いダメージで気を逸らせるのが最適だろう。
「援護する! こいつの気を飛空艇から逸らすぞ!」
三船が清泉に向かい叫ぶと、清泉はわかりました、と頷いて返す。そして四人と二匹のレッサーワイバーンは、入れ替わり立ち替わり、相手のワイバーンの周囲を飛びながら致命傷を与えない程度の銃撃を繰り返す。
またこちらでは、小型飛空艇に乗ったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がその他のワイバーン三匹にヒプノシスを掛けて回っている。
「発掘も修復も大変だったのだ、晴れ舞台の邪魔はさせん」
傷つけないよう通達が出回っているので、直接攻撃することは避けている。が、容赦はしていない。
ヒプノシスを受けたワイバーンは、すぐに眠り込んでしまうということはないまでも動きが鈍る。
そこへ、レッサーワイバーンを駆るセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が雷術の一撃を放つ。直撃しないように狙ったいかずちはドラゴンの翼を掠めて落ちた。
翼へのダメージは、飛行能力を低下させる。
「よっしゃ!」
狙い通り、とヒューレーが小さくガッツポーズを取る横では、ジェットドラゴンを操る東 朱鷺(あずま・とき)が氷術で同じようにワイバーンの翼を封じている。
「この調子で持ちこたえましょう!」
ヒプノシスを浴び、翼を傷つけられ、ワイバーンの攻撃力はだいぶ低下している。しかし油断は出来ない。
ヒューレーは東の言葉に頷いて、二人は油断なくワイバーンの周囲を旋回する。
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