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リアクション
第6章 巨大なアイツにリベンジ!
「コレットにザイルを借りてきたわよ。これは綾乃の分のボンベね」
「重かったよね?いつもありがとう、まいちゃん」
「なるべく綾乃はここにいたほうがいいかなって思ったのよ」
鉄道に詳しい綾乃が発掘進行を見ていてくれた方が助かるっていうのもあるけど、あまり離れたくなさそうだったから、私が取りに行ってあげたほうがいいかしら、と思ってのことだ。
簡易レール用の木材を出入口の近くにまとめた泰宏は、疲れた様子でぐーっと背伸びをする。
「はぁー・・・。やっと運び終わったな」
「やっちゃん、設置する道具がないよ。エリザベートちゃんに頼んでこようかな」
「普通の大工セットくらいは借りたいことだよな」
「泰宏、これでよかったら使ってくれ」
魔法学校の校長に頼みに行こうとする彼に一輝が声をかけ、日曜大工セットを渡す。
「え・・・いいのか?」
「魔列車を運び出すために、レールの設置をしようって言い出したのは俺だしな。工程の予定にもなかったことだし。今からレンタル品を手配するといっても、少し時間かかるだろうからな」、
車体を運搬してくれる者たちを待たせるわけにもいかないから、と彼に貸してあげた。
「それじゃあ借りとくか」
「俺は陸に戻るけど後で安全点検しにくるから、終わったら声をかけてくれ」
「まぁ、陸地まで作るわけじゃなし、洞窟の出口まで数キロもないからな。日暮れまでには、ひと段落ついていると思うぞ」
陸地へ戻っていく彼を見送ると、泰宏は簡易レール設置を手伝うレキたちに道具を配る。
「ちゃっちゃと作っちゃおう!でも、列車のレールって感じじゃないね?」
「一般的なレールじゃないけど、傷つけないように運ぶためのものだもの。枕木の上を滑らせやすいように、設計したんじゃないかしら?」
ハテナと不思議そうに首を傾げるレキに教えつつ、綾乃はコロコロと転がるローラー式に設置していく。
「海の中の洞窟から陸まで作るのは、何ヶ月もかかるのよね。さすがにそこまでは無理があるし、発掘した列車をイコンで陸まで運ぶ手配をして、引っ張り上げる方法の方が現実的なのよ」
「だから出口までっていうことなんだね?」
「そういうことになるわね。犬釘と軌条はどこかしら」
「これのこと?それっぽいのが、これしかなかったわ」
枕木を固定するための木製の軌条を綾乃に渡す。
「ありがとう、まいちゃん。本当はレールの内側に設置したりするけど・・・。枕木を回転させるために、外側につけるようになってるみたいね」
「えっと、枕木・・・だっけ?ネジ留め用っぽい穴があるね。そことレールに空いてる小さな穴に合わせればいいの?」
「たぶんそうね、透乃ちゃん」
「設計ミスってこともあるのか?こっちのは上手くはまらないぞ」
泰宏の方は枕木を締結装置で固定しようとするが、形が合わず隙間が出来てしまう。
「やっちゃん、別のやつを使ってみたら?」
「もらったメモに番号がふってあるから、それを見ながら作るしかないわね」
「ちょっと見せてくれ。―・・・20番のやつか」
舞香がぴらりと見せたメモを確認し、木材置き場から探す。
少しカーブのついた締結装置を枕木に当て犬釘で固定する。
「へー、これも木なのか?」
「使い終わって廃棄する時に、乾かして焚き火用にするか、崩して土に埋めるんじゃないの?私的には埋めるだけのほうがいいと思うけどね」
「木はエサにするヤツもいるだろうし、その土の栄養になるしな。(うぅ・・・陸でしっかり見られたせいか、目も合わせてくれないっ)」
相変わらず目を背けられているが気にしつつも、犬釘でそれを枕木に固定する。
「レキ!交換用のボンベ、持ってきたアルヨ〜」
「ありがとーチムチム!」
「発掘だけじゃなくって、そういうのも必要アルか?」
「もっと効率よく運ぶためにいるんだって」
工程予定になかったような、と首を傾げるチムチムに教える。
「引き摺っちゃうと、傷ついちゃうかもしれないからね」
「このローラーの上に乗せて運ぶってことアルネ」
「軽作業だから手伝ってる感じかな」
「水が染み込むと上がりにくくなるから、チムチムは戻るアルヨ」
「うん、わかったー!」
ボートに戻っていくチムチムを見送った彼女は設置作業へ戻る。
ローラー式レールの設置を始めてから数時間後・・・。
「はぁ〜・・・。なんとか完成したわね」
ひとまず運転車両分を運び出す分が完成し、疲れた様子で舞香たちは地面に座り込んで少しだけ休憩する。
「運転車両を運び出した後、その先の分も作るのかな?」
「そこまで引っ張って引きずるわけにもいかないからね」
邪魔にならないよう日曜大工セットの中に、道具を片付けているレキに舞香が言う。
「あぁ、そうだ。一輝たちを呼びに行くんだったな」
他の作業員はくたくたに疲れている様子を見て、私が行ってきたほうがよさそうだな、と泰宏は陸へ4人を呼びに向かった。
一輝とコレットたちが洞窟にたどりつくと、太陽が徐々に沈みかかっている。
「水中対応が可能なイコンがいないようだから、このまま引っ張り上げるか。残りのザイルで足りればいいけど」
3トン半・一杯にくくりつけたザイルの端を、車体を結んでいる前の方のザイルにひっかけ、しっかりと固定する。
「俺の方も準備完了です。引き上げの合図はどうしましょうね・・・」
「あれ?もう夕方だけど、作業交代しないのか?」
海中からどうやって合図を送ってもらうか、考えているレリウスに閃崎 静麻(せんざき・しずま)が彼の肩をぽんと軽く叩く。
「今、ちょうど運転車両を引き上げるところなんですよ」
「客車は?」
「そっちはまだですね」
「海から陸や空に、どうやって連絡取るか準備はしているのか?」
「銃型HCで連絡を取り合おうと考えてあるけど・・・」
「ここは海だから水中じゃ故障するな」
引き上げ担当のローザに、それで連絡を取ろうとする一輝に静麻はふるふると首を左右に振る。
「今から連絡方法のアイデアを出すとなると、少し時間が必要ですね」
「ついでだし、ライトで引き上げるタイミングを伝えてあげようか?」
困り顔をして他に手段がないか考え込むレリウスに、俺が手伝おうか?と言う。
「はい、お願いします!」
「1回点滅させたら、レリウスはイコンのロープで・・・コレットの方はザイルで引っ張ってくれ。空から引き上げる人には、2回点滅させて知らせる感じだな。後は、明りを照らしながら指示を送るか・・・」
「ボクたちも何か手伝う?」
「先に行ってニャ〜ンズを引き付けていてくれ」
「すっごく可愛い生き物がいるのよね?わーい、楽しみ〜」
閃崎 魅音(せんざき・みおん)はかわいいもふもふに早く触ってみたいと洞窟の中へ行き、ちびっこいのがいないか、きょろきょろと辺りを探し回る。
「ネコみたいな生き物が泳いでるわね。もしかしてアレかしら?」
水につかるのが嫌な神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)だが、可愛い生き物がパラミタ内海にいると聞きつけてやってきた。
「ねこじゃらしで遊んであげるわ。ほらほら〜、おいでー」
ロープにじゃれようとするニャ〜ンズに、ねこじゃらしをパタパタと振る。
シュ・・・シュッ!
海のちびっこギャングは爛々と目を輝かせ、ふわふわとしたヒレでねこじゃらしを捕らえようとする。
地面に屈んでそれを腕の後ろへ隠すと・・・。
みにゃぁ〜!!
ニャ〜ンズは幼い仔猫に似た声音で鳴き、“どこに玩具隠したの〜?”という眼差しでリオを見上げる。
「フフフ、可愛いわね♪遊んで欲しい?さぁて、どうしようかしらね」
玩具を隠したままニッと微笑んで話しかけ、みゃあみゃあ鳴く姿を眺める。
「あら、イタズラしに行く気なの?だーい好きな玩具がここにあるわよ、こっちへいらっしゃい♪」
諦めて別の玩具を探しに行こうとするニャ〜ンズの気を惹こうと、コンコンと壁を叩いてねこじゃらしを振る。
ゆらゆらと揺れるザイルで遊ぼうとするちびギャングが、いっせいにパッとリオの方へ振り返る。
尾ビレをふりふりと揺らし、おもちゃはっけんにゃ〜♪というふうに、いっせいに飛びかかる。
「んーもう・・・、壊しちゃうなんて酷いわ」
何匹もじゃれついたら仕方ないことだが、ねこじゃらしは一瞬にしてボロボロにされてしまった。
持ち手までくた〜ん・・・と折れ曲がっている。
「こんなことがあろうかと、まだいっぱい持ってるのよ♪」
どこから取り出したのか、スッ・・・と2本目をニャ〜ンズの目の前にちらつかせる。
「サメなのに柔らかいのね?仔猫だからしかしら」
遊びに夢中になっている小さな生き物の隙をつき、柔らかな頬にムニムニと指で摘む。
「大きなニャ〜ンズもふわふわなの?」
「さ〜、どうかしらね」
「背中に乗せてくれたりする?」
「乗った人はいるみたいよ。ほらー、こっちよーおいでおいでねこサメちゃん」
魅音に返事を返しながらも、ちびっこたちに構ってあげるのに忙しいらしく、じゃれつく子に視線をロックオンしっぱなしだ。
「リオばかりずるーい。む〜っ、ボクも遊びたいのに!」
「そう怒るなって。そっちにいっぱいいるぞ」
簡易レールをデッキブラシでコレットに・・・というよりも、そのブラシの動きを真ん丸な目で追っているニャ〜ンズを静麻が指差す。
「静麻お兄ちゃん、こっちの子もちっちゃいね!お掃除の邪魔しちゃいけないよ、ボクと一緒に遊ぼうね」
さっそく気を惹こうと魅音はコロリンとボールを転がす。
その中に入っている鈴がチャラチャラと鳴り、音に反応したちびっこは、ぴくっと耳を動かしてそれをチラリと見る。
「取っておいでーっ」
ぽーんと小さなボールを放り投げた瞬間、ニャ〜ンズは尾ビレをぶんぶんと振って泳ぎ、ぺしぺしとヒレで叩き転がして遊ぶ。
転がして遊んでいる子もいれば、口に咥えて彼女のところへ持ってくる子もいる。
ぽとんと目の前に落として“なげてほしいにゃ”という顔をして見上げる。
「おりこーね。投げてあげるから持ってきて」
水中会話用の光波を受け取れているか分からないが、ちびっこにそう話しかけて投げてやる。
「こんな楽しいお仕事なら、いつでも大歓迎ね!」
みゅーうみゅみゅ、と無邪気にはしゃぐ姿に、魅音までニャ〜ンズの虜になってしまう。
海のギャングたちの対処してくれていますし、この隙に列車を引き上げましょうと、レリウスは陸へ上げる。
「機体から外れていないか、点検しにいってきますね」
解けないか機体に足をかけて力いっぱい引っ張り、クェイルにちゃんと固定できているか点検する。
「しっかり固定出来ていますね」
「私の方も大丈夫ですわ!」
ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)も念のため途中でザイルが抜けないかチェックする。
「引き上げるお手伝いをお願い出来ますか?」
ジャイアントピヨに乗っているアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)に声をかける。
「ピヨは胴体に巻きつけるしかないな。登山用ザイルがあるんだっけ?どこにあるのかな?」
「車体にくくりつけてあるはずですが、その先の方はまだ置きっぱなしかもしれませんね」
「うーん、取りに行くか」
「きっと誰か持ってきてくれるから、待ってみましょう?」
ナイスバディに囲まれてなかなか戻ってこないんじゃないかと思い、ヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど) が浜辺に立ちはだかる。
「なっ、何でそんなに私を見つめるんですか・・・」
大胆でセクシーな水着姿の自分を眺められ、恥ずかしくなったヨンはリンゴ色に頬が真っ赤になる。
ボインに負けるものかと胸元を強調させように、大きなリボンをつけて、細い足を見せるためのビキニスタイルに決めた。
ちゃんとくびれていますよ!と分かってもらうために、腰の辺りは丸見えだ。
「おー。すげーかあいいよ」
「そうですか・・・?でもっ、ちょっと恥ずかしいような気がしますけど・・・」
じろじろと見られるのも照れてしまいます!と、彼を直視出来なくなり顔を俯かせる。
ほわ〜んと幸せな気分になっていると・・・。
「これ、忘れてるわよ」
ザイルの端っこを手に陸に戻った祥子がアキラに渡す。
「ん、おー!ありがとう」
「海から持ってくるの大変でしたよね?」
「でも、透乃にも手伝ってもらったから・・・」
「(アキラさんったらまた!!)」
祥子が“問題なかったわ”と言い終わる前に、アキラのだらしない表情を直視した少女は顔を顰める。
彼の視線の先には放送ギリギリな鎧貝を着ている透乃がいる。
幸せな顔から般若の形相へ一変させたヨンは、プイッと後ろを向きゆっくりと離れる。
「どこにいくんだ?」
アキラは今から自分の身に起こることを知らず、激怒している彼女に声をかける。
無論、少女は返事を返さず無言のまま離れ・・・。
「(天罰をくらわしてあげます!)」
そう心の中で叫ぶと、猛ダッシュでアキラの背へ迫る。
「―・・・ヨン?なんか、すっごい怖い顔してこっちに・・・っ。げふぅうううっ!!?」
ドォンッと背を押され、魔性のボインに目が眩んだ罰で、海に突き落とされてしまう。
「ヨンちゃんご機嫌斜めだね?」
「気にしないでください、ただのお仕置きですから!」
何が原因なのか分からない彼女から目を逸らし、げほげほと咽ているアキラを睨みつける。
「ヨン、なにすんだーっ」
「知りません」
プンッと顔を背けるとアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)を連れて発掘現場へ行ってしまった。
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