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リアクション
□■第二章■□
ヒラニプラ郊外にある、広いことだけが取り柄の演習場。
そこが、模擬戦の会場として指定されていた。
演習場の東西には滑走路があり、二チームでの空中戦訓練ができるようになっている。主に空中戦用の演習場なので、地面には殆ど何もない。多少の隆起はあるものの、だだっぴろい荒れ地が広がっているばかりだ。
「あ、そこは立ち入り禁止だぜ」
その、東側の滑走路では、橘 カオル(たちばな・かおる)が模擬戦の準備に追われていた。
今回の模擬戦には、他校の生徒の参加が認められている。とは言ってもやはり他校の人間に入られては困る部分も有るわけで、勿論鍵は掛けてあるけれど、周知徹底は怠れない。
今日は手伝いの手が少ない。そのため今日の仕切を行う李 梅琳(り・めいりん)から淡々と、東側滑走路は任せたわよ、と言われてしまった。
休日は甘い時間を過ごす恋人同士の二人だが、任務は任務。橘は、任せて貰ったという信頼に応えようと涙を呑んだ。
東側には、小暮の相手役となる青チームの面々が集まっている。その一人一人……というか、搭乗する機体一台一台に、目印となる青のステッカーを貼らせたり、整列を促したり、立ち入りおよび飛行禁止区域を確認したりと、仕事は山積みだ。
時間までに仕事を終えねばと走り回る橘の、腰に下げたトランシーバーから李の声が呼びかける。
――カオル、そちらの準備は出来た?
「ステッカーの配布は完了、貼り付け確認と離陸準備はもう少しだ」
――こちらはほぼ準備完了よ。急いでね。
「だって、人数が違うだろ……いや、解ってる解ってる、急ぐよ」
思わず喉元まで出かかった愚痴を飲み込んで、橘はちょっと名残惜しげに通信を切る。そして、ずらっと並んだ戦闘機タイプのイコンや大型の生物、そして旗艦となる大型飛空艇、それからその横に並べられた小型飛空艇その他諸々の空飛ぶ乗り物に、キチンとステッカーが貼られているか、離陸の準備が出来ているかの確認に飛び回る。
一方、西側の滑走路には赤チームが集結していた。が、東側に比べてなんというか、些か閑散としている。
そんな中で。
「ちょっ、何ですかこの戦力差!?」
思わず小暮は演習の準備中であるのも忘れて、叫んだ。
その手の中にあるのは、今日の演習への参加者および参加する機体の一覧表。青チーム赤チームに色分けされたそれの、人の名前が載っている方は良い。どちらの陣営もおよそ二十人前後だ。
が、問題は参加機体。大型の機体は、機械・生物合わせて8機が登録されている。
そのうち、赤く塗られているのは小暮の載る飛空艇ひとつ。
残りの7機は、全て真っ青に塗りつぶされている。
「こんな戦力差聞いてない……はは、勝率はざっと3パーセントってとこか、無茶にも程がある……」
目の前に突きつけられた現実に、小暮は思わず苦笑というか失笑というか、もう笑うしか出来ずに肩を振るわせながらブツブツ呟く。
しかし、李はそんな小暮の様子など気にする素振りもない。
「どんな状況でも任務は任務。まさか、実戦でも常に全く同じ戦力の相手とだけ戦闘出来るなんて思ってないわよね?」
淡々と言うと、作戦会議を開始するように告げて、何処かへ歩いて行ってしまう。
小暮は深い溜息と共に、赤チームの面々の元へと歩き出した。
その背中をチラッと振り返った李が、「流石にちょっとやりすぎちゃったかしら」と呟いたのは、彼女だけの秘密である。
「非常に――厳しい戦いです」
開口一番、小暮は告げた。
小暮の回りに集まった赤チームの面々は、その重たい口調に何か嫌なモノを感じて顔を見合わせる。
「こちらの戦力はこの飛空艇一機……それに、あとは皆さんが搭乗する、小型飛空艇やその他の乗り物です。それに対し、相手のチームには大型の戦闘機型イコン、大型飛空艇、ワイバーンなどが、七機」
小暮の告げた数字に、一同の目が点になる。それから、絶句するもの、笑い出すもの、明らかに不快の表情を浮かべるものと、反応は様々ながら、一様に「無理だー!!」という感想を体で表現する。
「しかし! どのような……どんなに絶望的な状況であっても……任務は任務、やり遂げない訳には行きません。勝率は3パーセント程度でしょう、しかし、勝たなければならないのです、なんとしても!」
半ばやけくそが混じっている気がしなくもないが、小暮がそう、力強く宣言すると、一同の顔に決意が浮かぶ。
そうだ、多少の戦力差が何だ。不利な状況からの逆転劇こそやりがいがあるというもの。何としても勝利してみせる、と赤チームの面々は気持ちを強く一つにする。
「分散しては不利です。コンテナを回収する際は別行動をせず、ひとかたまりになって一つずつ確実に回収しましょう」
小暮の言葉に、コンテナ回収に当たる予定の面々が重々しく頷く。
「小暮少尉、これを」
そう言いながら小暮にお守り様のものを渡したのは、大岡 永谷(おおおか・とと)だ。
「禁猟区で作ったお守りです。旗艦への強襲が無いとは言い切れない、用心するに越したことはありません」
「ありがとうございます」
差し出された小袋を受け取り、ぎゅっと握りしめる。
守られる立場である、ということを自覚するようで、自然と背筋が伸びた。
「では、離陸の準備を開始します!」
号令を掛けると、赤チーム一同はてきぱきとした動きで飛空艇へ、或いは自分が用意した乗り物へと乗り込んでいく。
飛空艇へ乗り込むメンバーは、半数強が機関室へ、残り数名が管制室へと別れた。
機関室では、エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)とアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)が中心となって、各機器にモニタリング用のパソコンを接続する。
冷却システムは強化したとはいえ、実際に動かしてみるまでは何が起こるか解らない。
エンジンのメンテナンスを行う湊川亮一やトマス・ファーニナルら、専門の機工士たちの指示を受けながら、フォルケンはシュライアと協力して配線、データ収集の準備を進めていく。
一方東側滑走路では、青チームが橘の元集められていた。
「と言うわけで、こちらのチームの旗艦――あ、本来は指揮を取る艦って意味で、今回は落とされたら負けになる機体のことな。旗艦は、この艦にお願いすることになったんで、宜しくお願いします」
そう言って橘が目で示すのは、武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)の所有する大型飛空艇、飛空巡洋戦艦グナイゼナウ。参加者が用意してくれたイコンその他大型機体の中で、唯一の「大型飛空艇」だ。
「イルミンスール魔法学校の、武崎幸祐です」
橘に促され、武崎が一歩前に出る。
「旗艦を任せる以上、有る程度の采配は武崎さんに執って貰うことになると思います。ただ、武崎さんも、万が一不慮の事態が起こった際は、メイリン……李大尉や、俺をはじめ教導団の人間の指示に従って下さい。もちろん、他の皆さんも」
青チームにはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)大尉も参加していますから、と橘が視線だけでシュミットを捜すと、輪を見守るように一歩引いたところに立っていたシュミットが前に出て、武崎をはじめ、一同を見渡して会釈する。
「クレア・シュミットだ。階級は大尉だが、あくまでも今回の仕切りは李大尉に任せている。私は前線に出るつもりだが、チームの作戦には従わせて貰う。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
武崎が一同を代表するように答える。
「早速ですが、小型飛空艇、その他の小型の乗り物で行動する部隊を、偵察、回収、護衛、攻撃とチームに分けることを提案したい」
そしてそのまま、武崎がリーダーシップを発揮して、青チームの編成を決めていく。
が、青チームは参加する機体が多い分、また校外生が赤チームよりも多い分、役割分担で難航した。
「班に分けることは賛成だけど、旗艦を攻撃する人と相手のコンテナ回収を妨害する人はしっかり別れた方が良いと思う」
「戦闘機タイプのイコンはどこを担当するべきだろうか」
「ワイバーンとか、大型の動物はどうする?」
様々な意見が出、侃々諤々の議論の末、最終的に、偵察、コンテナ回収と相手の妨害、敵旗艦の襲撃、と三つの班に分かれる事で決着し、各々担当する機体へと乗り込んだ。
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