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【新米少尉奮闘記】飛空艇の新たな一歩

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【新米少尉奮闘記】飛空艇の新たな一歩

リアクション

 なんとか旗艦への直接攻撃を乗り切り、また負傷者も出なかった様で、飛空艇の管制室にはホッとした雰囲気が流れていた。
「よし、このまま三船殿と合流、コンテナを回収しよう」
「そうだな」
 小暮の指示で、クローラ・テレスコピウムがコンテナを輸送しているはずの三船敬一達へ連絡を取る。
「すぐ合流できそうだ。受け入れの準備を」
 短い通信を終えたテレスコピウムの言葉に小暮が頷く。セリオス・ヒューレーと大岡永谷が再びコンテナを受け入れるために準備を始めた。
 程なくして、レーダーに味方機の反応が映る。三船達だ。
「オラーイ、オーライ!」
 箒で外に出たヒューレーが、接舷のナビゲートを行う。三船が操る飛空艇がゆっくりと旗艦へ近づいた、その時。
 突然の衝撃波が、一行を襲った。
 バランスを崩し、三船達の乗る飛空艇は旗艦から離れることを余儀なくされる。
「敵襲! 数は一!」
 そこへ一呼吸遅れて、管制室からの緊急通信が入る。

 コンテナの護衛をしていた面々も含め、その場にいた赤チームは旗艦とコンテナを守るように展開する。
「まさか、実戦では物資の積み込み中に襲われることはない、なんて思ってる訳ないよな?」
 現れたのは、朝霧 垂(あさぎり・しづり)の駆る機械仕掛けのドラゴン、ジェットドラゴンだ。
 手綱を採っているのは朝霧垂、その後には朝霧 栞(あさぎり・しおり)も跨っている。
「はぁっ!」
 気合い一閃、垂は威力を殺した真空波を放つ。物理的な攻撃力は持たないが、その衝撃は飛空艇のバランスを微妙に狂わせる。このままでは、精密さを求められる積み込み作業が行えない。
 垂はジェットドラゴンを加速させ、飛空艇へと接近する。
 コンテナ護衛に当たっていたレナ・ブランドや天津幻舟、世羅儀らが、それに叶白竜にヒューレーが展開して応戦する。とにかく旗艦から引き離す必要がある、とは思うのだが、垂の放つ衝撃波に加えて栞の放つブリザードに阻まれて思うように近付けない。
 と、栞が突如ジェットドラゴンの背に立ち上がった。そして、おおん、と吼える。
 すると、巨大な骨龍――ダークネスが虚空から姿を現した。赤チームの面々に、緊張が走る。
 が、出現したダークネスは、まず召喚主である栞目掛けて口を開いた。
 予想外の展開に赤チームの面々は一瞬呆然と成り行きを見守る。が、栞は自ら進んで骨龍の口の中へと身を躍らせた。すると、竜の姿がゆらりと揺らぐ。
 そして、再びその姿をハッキリとさせたときには、栞は半ばダークネスに融合したような形となっていた。顔と上半身は栞のそれだが、下半身と肘から先は龍の骨に覆われている。
「いっくよー!」
 おぞましい外見とは裏腹な無邪気な声でときの声を上げ、栞を取り込んだダークネスは、手にした巨大な死神の鎌を振りかざし、小暮達が乗る飛空艇の船首へぴたりと宛がった。まるで死神が生者の首を狩り取る時のように。
「にゃははは! 勝負に勝つには相手を制圧するのが基本なのだ!」
 なんつってな、と無邪気に笑いながら、くいっとデスサイズの刃の角度を変える。すると刃が僅かに飛空艇に接触し、衝撃が乗組員たちを襲う。
「クソッ……このままだと落とされるか……だけど、正面きって戦っても勝率は25.3パーセント……何か方法は……」
「少尉、対空ミサイルの使用許可を! 牽制くらいにはなります」
 火気管制を行っている大岡が小暮を振り向く。本来ならミサイルをゼロ距離で炸裂させるのは自殺行為以外の何物でもないが、今搭載しているのは演習用の模擬弾だ。一撃で相手を離脱させることは出来ないだろうが、その代わりゼロ距離爆破しても、こちらに被害は及ばないだろう。
「よし……ミサイル発射用意!」
 実戦で使えない作戦を採用するのは躊躇われたが、既に相手チームも模擬戦ならではの作戦を使用してきている。小暮は苦渋の決断を下す。
 手動で照準を合わせ、栞の機体をロックオンする。そして、次の瞬間ミサイルが発射された。
 自分の方へ向かって飛んでくる巨大な砲弾に、まともに喰らうことは不利と判断したか、栞は急ぎその場を離れる。が、追尾式のミサイルはそのまま栞の後を追う。
「なかなかやるじゃねえか!」
 しかしすかさず垂が、威力を持った真空波で砲弾を仕留める。
 模擬弾独特の情けない爆破音を響かせて、ミサイルは中空で四散した。
 戦線を離脱させることこそ叶わなかったが、しかしダークネスが飛空艇から離れればバルカンで狙える。希望の光が見え、小暮達は戦意を高揚させた。

 そこへ。

「ふたりとも、どーいーてーっ!」
 女性の高い声が響き渡り、上空から巨大な影が降下してきた。
 朝野 未沙(あさの・みさ)が駆るワイバーン、ヤクトだ。腕利きの機工士である朝野の手が随所に入っている所為で、生物なのかイコンなのかパッと見では判断がつかないが、元は歴としたワイバーンだ。腹と思われる位置に、青のステッカーが見える。
 その足には、コンテナが一つしっかりと掴まれている。
 どいて、という声に危険を感じた朝霧垂、栞は急いでその場を離れた。同時に、飛空艇の周辺を固めていた赤チームの面々も各々待避する。
 小暮もまた飛空艇を回避させようと指示を出すが、積み込み作業の為に制止していた所為で、加速が間に合わない。
「どこまで飛空艇を修復出来たか、見せて貰うわ!」
 ニヤリ、と笑うと、朝野は飛空艇の上空から急降下してくる。
 擦れ違いざま、ヤクトは掴んでいたコンテナを離した。
 ぱっと離されたコンテナは、重力に従ってそのまま落下する。その先には――小暮達の乗る飛空艇。
 一同が呆然と見守る中――

 ドォ……と重たい音を立てて、コンテナは飛空艇の真上から、船体を直撃してから地面へと落ちた。

 その衝撃はかなりのもので、飛空艇は瞬間、大きくバランスを崩す。
「落ち着いて、エンジン出力を上げて!」
 エマージェンシーコールが鳴り響く管制室内に、小暮の声が響き渡る。
 指示に従い、大岡とテレスコピウム、高嶋らは機体の姿勢制御を最優先にしてなんとか舵を取り戻そうとする。
 機関室でもまた、エンジン出力を上げた事でトラブルが発生しないよう、慌ただしく機工士達が飛び回る。
「水温計の上昇を確認!」
「エアインテーク解放!」
 エンジンの出力が上がると、やはり冷却系に負担が掛かり始める。しかしすかさず、新しく取り付けた吸気口のシャッターを解放してやる。
「水温安定」
「念のため予備回路用意して!」
 機器をモニタリングしているエールヴァント・フォルケンが各機器の状況をまとめ、湊川亮一、トマス・ファーニナルらの機工士が的確な対処を行う。
 エンジンの出力はかなり上がっているが、トラブルの兆候は見られない。
「このまま、持ってくれよ……」
 アルフ・シュライアが祈るように呟いた。
 時間にすればほんの数分だが、機関室担当チームにとっては、何時間とも感じられるほどの時間が過ぎた。

「機体、安定しました!」

 機内に小暮の声が響き、エンジンの出力が下げられる。
 一同の顔にほっと安堵が浮かんだ。
 その時。