百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

リアクション公開中!

【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ 【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

リアクション

 さて、マリカのノロケ話が始まりそうだったところから逃げ出した亜璃珠は、見知った顔の元へと歩み寄っていた。
「ごきげんよう、シャロ。お隣良いかしら?」
 ぽん、と亜璃珠が叩いたのは、シャーロットの肩だった。
 先ほど声を掛けるのを諦めたシャーロットは、突然後から肩を叩かれてきゃあ、と声を上げる。
「うふふ、可愛い声だこと。お久しぶりね、シャロ」
「あ……崩城さん……脅かさないで下さい」
 ゆっくり会話をしたことはないとはいえ、お互い知らない仲ではない。
 シャーロットはすぅはぁと呼吸を整えてから改めて笑った。
「どうぞ、丁度どなたかとお話したかったところです」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 ちゃっかり自分の分のケーキを持ってきていた亜璃珠は、そのままシャーロットの隣に腰を下ろす。相変わらず、妙に距離が近い。
「なかなかゆっくりお話出来る機会がなくて、残念に思ってましたのよ」
 すぅ、と自然な仕草で手を伸ばすと、亜璃珠は当たり前のようにシャーロットの手を取って、そっと両手で包み込む。え、え、え、とどぎまぎするシャーロットの様子に満足そうに笑うと、ずいっと距離を詰める。
「ねえシャロ、貴方も確か、吸血鬼とパートナー契約されているのよね? 吸血鬼的には、血を吸われるってどういう感覚なのかしら?」
「えええあの、どういうって、その、私は……」
 確かに自分のパートナーには吸血鬼が居るけれど。質問の意図が見えないのと、必要以上に近付けられた亜璃珠の顔がシャーロットの判断力を奪うものだから、適当な答えが見付けられない。
 そうしているうちに。
「ちょっと、吸ってみてもいいかしら?」
「ええええええっ?!」
 クスクスと楽しそうに笑いながら言う亜璃珠に、シャーロットは目を回す。
 ちょっと待ってぇえ、と言ういとまもなく、あれよあれよと亜璃珠はドレスの裾を翻して立ち上がると、シャーロットの背後に回った。そして、つ、と唇で首筋に触れる。
「あの、ほ、本気で、えええぇえっ!?」
 ふっくらと柔らかい唇が首筋に宛がわれる感触に、ぞ、と背筋が粟立つ。
 そのまま位置を確かめるように何度か角度を変えて触れられると、いよいよくらくらしてきて、目を開けて居られない。
「あぅ……やぁ……」
「ふふ……いただきまぁす」
 甘い声で宣言すると、亜璃珠はかぷりとシャーロットの肩口に噛み付いて見せた。
 犬歯が触れる痛みがあって、舌が触れた箇所からぞわりとした感触が全身に広がる。
「んんっ……!」
 きつく眼を瞑って、すぐに襲ってくるであろう失血感に耐えようと身構える。けれど、亜璃珠は暫く甘噛みの感触を楽むだけ楽しんで、そのまま唇を離した。
 吸われるものだと思っていたシャーロットは、肩すかしを喰らったようにキョトンとする。……いや、別の何かは吸われた気がするけれど。
「可愛いのねぇ……ごちそうさま」
 シャーロットはえ、え、と、笑っている亜璃珠の口元を凝視する。
 血は、付いていない。
「うふふ、ほんの冗談よ」
 ちょっとからかってみただけよ、と笑いながら、亜璃珠は自分の椅子へと戻る。
「なっ……か、からかわないで下さい……っ!」
 真っ赤になっているシャーロットが可愛いくて、もう少し遊んでみようかな、と邪なことを考えていると。

「そろそろぉ、ラストオーダーですぅ」

 ルーシェリアが、伝票片手に二人の元へやってきた。
 あら、もうそんな時間なの、と腕時計を見遣る亜璃珠とは対照的に、シャーロットは心なしかホッとしたような表情を浮かべた。
「あ、亜璃珠様、あの、もうお時間です……!」
 すると、勇気を振り絞っているのがよく解る様子で、二人の傍にやってきたマリカが亜璃珠に声を掛けた。
「そうね……残念だわ。またね、シャロ」
 名残惜しそうではあったけれど、腕時計が示す時間には逆らえなかったのだろう。亜璃珠は渋々立ち上がると、軽くシャーロットに手を振って、踵を返した。もちろん、会計はマリカが既に済ませている。
 一部始終目撃、というか見せつけられていたというか、してしまったマリカの目が泳いでいるのを、同情するような申し訳なくなるような気持ちで見送りながら、シャーロットはルーシェリアに、ミルクティー、おかわり、と告げた。

 ウェイトレス達がラストオーダーを聞いて回っているのに気づき、ウィングは時計に目を遣った。
「おや……すっかりのんびりしてしまったな」
「あら大変、こんな時間ですね」
 二人は慌てて立ち上がると、お代を机の上に置いて荷物を持つ。
「明日からまた、よろしくな」
「はいっ」
 柔らかい表情を浮かべるウィングに、ジーナはにっこり笑って頷くと、二人は並んで公園を後にした。

 会計を済ませた永谷のお財布は、すっかり空っぽになってしまっていた。
 でも。
「トト、今日はありがとー!」
 幸せそうな福の顔を見ていると、やっぱり今日連れてきて正解だったと思える。
 ……毎日は無理だけど。
「福には、戦場でも、それ以外でも、本当に世話になってるからな。そのお礼だよ。ありがとう、福」
 ニッコリと笑うと、福はちょっぴり照れくさそうに頭を掻くまねごとをした。
「トトとも、ずいぶん長いつき合いになったもんねぇ。これからもよろしくね、トト」
「ああ、こちらこそ、よろしく」
 日頃はなかなか口に出せない思いを、素直に伝え合って。
 それから二人は、手を繋いでのんびりと家路につくのだった。

 最後にミルクティーを注文したシャーロットが、まだちょっとおぼつかない足取りで帰途に着いて。
 机と椅子をたたみ、荷物は全部ワゴンに積んだ。
「今日はどうもありがとう。これ、バイト代ね」
「ありがとうございますぅ。とっても楽しかったですぅ」
 マスターからバイト代の入った袋を受け取ったルーシェリアは、ぺこりと頭をさげると、今まで待っていたアルトリアと二人、連れだって帰って行く。
「さーて、私たちも帰りましょ」
「ええ、そうね」
 最後まで残ったマスターとスタッフ達も、全てのチェックを終えると、それぞれの方角へ帰って行く。


 明日からまた始まる、日常へと。