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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

     ◆

「わかった。此処で食い止めればいいんだな」
 電話をしている無限 大吾(むげん・だいご)は、結論をそう纏めた。傍らではセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)が、瓦礫に腰掛けながらその様子をただただ黙って見守っている。
 二人が居るのは、ラナロックが進行するルート上、事実上最終防衛ラインと言って遜色ないものだ。ラナロックがやって来るだろうルートを正面に構え、大吾は周囲を確認した。自分の背後は穴がいているシャッターがあり、セイルが座っているところが、ラナロックの目的地。如何にそれを守るかが、彼等の急務であった。
「任せろ。俺たちで出来るところまでしっかり止めるさ」
 電話を切った彼は、パートナーへと声をかける。
「此処を通過するんですよね………それを私たちで止めろ、と――」
「あぁ……可愛そうな人だよな。ラナロックさんも。なんだってそんな暴走なんか………」
 彼が以降口を閉ざしたのは、そのラナロックが自分達の前に姿を見せたからに他ならない。
「来ましたね………」
「頼んだぞ、セイル」
 亡霊がやって来る。一歩、また一歩と、片腕のもぎ取れた亡霊がやって来る。と、セイルの持っていた雰囲気が一変し、彼女は突如として笑い始めた。
「やりあおうぜ! 虫けらがっ、早くこいよ!! 殺戮と狂乱のデスダンスを一緒に踊ろうぜ!! 最高の饗宴さ! アッハハハハハ!!」
 神薙を一度振るい、加速ブースターを点火してセイルは一気にラナロックとの縮めた。速度は圧倒的にセイルが上回り、そして彼女はそれを構え手の反対側へと薙いだ。
「いきなしおっちぬんじゃねぇぞ、虫けら」
 それを無言でしゃがんで回避するラナロックはしかし何を言うわけでもない。
「ふん、手応えはありそうだなぁ……………良いぜ、最っ高だぁ!!」
 更に速度を上げてセイルが神薙を振り回す。太刀筋にパターンはなく、更に速度があるため受け止める事は不可能に近い。それでもラナロックは何も言わない。顔は変わらず、何も言わず、攻撃をしようとしない。
「なんだよなんだよ!! 何もして来ねぇってなぁどういう了見なんだよ、あぁ!?」
「なら、攻撃すれば良いのね。 キヒッ、キシシシシシっ!!」
 ホルスターから銃を抜いた彼女が、歪な笑い声を上げながら銃口を無理矢理にセイルへと向ける。彼女の攻撃の隙間を縫って、攻撃と攻撃の合間の空間に、残された左腕を割り込ませて引き金を引く。弾丸がセイルへ向けて飛んでいくが、彼女はそれを寸前のところでかわし、後ろへと下がる。
「急にノッてきたな、どうしたのさ」
「自分でわかるわけがないわぁ、聞かれても答えられないのよぉおお? クヒッ!」
 二人のやり取りを見ながら、大吾は憐れみにも似た目をラナロックへ向ける。
「彼女、もう限界なのかもしれない。そうだろうな、体はボロボロ、右腕はない上に――多分ここに来るまで連戦続き。彼女じゃなくてたって、多分指一本動かすのも限界だろうに」
 そしてそれをどうにかする方法を彼は知っている。
「セイル、早く彼女を――彼女を倒してやってくれ!!」
「わぁってるよっ! んなことっ! ったく、大吾も無理言うな…………」
 大吾へと向いていた彼女はしかし、ラナロックが動き出したのを確認し、身構えた。亡霊が揺らめきながら、うっすら笑顔を浮かべる。
「何ニヤついてんだ、とっととくたばれよ虫けらがぁ!!」
 加速ブースターが再び灯り、彼女は神薙を振り回しながらにラナロックへ接近した。到達する瞬間に神薙を構え直し、それを降り下ろす。
「これで終いだ。じゃあな――虫けらぁ」
 刃の部分がラナロックの頭へ降り下ろされたとき、彼女は一歩踏み込み、それを残っている方の腕で受け止めた。既に銃はしまっている。
「な、放せよっ!!! なに勝手に持ってんだよ」
「…………………………………」
「放せって――言ってんだろうがぁあああ!!!!!!」
 叫び声と共にブースターを噴射させたセイルは、掴まれたままの神薙を出鱈目に振り回し始めた。片腕でしかそれを持っていない為、ラナロックは地面から浮き、大吾の元へと飛んでいく。
「わっ! ちょ、こっち投げてどうすんだっ!」
 構えていたシールドを両手で持って首をすくめ、腰を落として衝撃を耐える大吾。鈍い音共に衝撃が彼の両手から体全体へと駆け巡り、よろつきながらもそこでラナロックを止める。
「……………ラナロックさん………?」
 恐る恐る顔をシールドから出して、地面に崩れ落ちているラナロックへと目をやる彼は、瞳を開けたまま痙攣を起こしている彼女の姿を見るや、慌ててシールドを手放し、彼女を抱き上げる。
「ラナロックさん! しっかりするんだ!!! セイル、やり過ぎだぞ…………!」
「え、いや……………その、ごめんなさい………」
 元の口調に戻っていたセイルが二人のもとへ歩いてきたと、である。
「ケッヒッヒッヒッヒっ! っい、っきキヒッ!!!!」
 沈黙のままに大吾に抱えらえていたラナロックが動き出す。引き付けの様な笑い声をあげ、恐ろしい速度で持って大吾の背面を取るや、左腕を首に巻き付け、銃を握って彼の首もとにそれを突きつける。
「大吾!!」
「セイル……………待ってくれ」
 一瞬は驚いた様子を浮かべた彼だが、しかしすぐさま、悲しそうな、辛そうな表情を浮かべて再び神薙を構えるセイルを制止した。
「どうしたんですか……」
「ラナロックさん、気を――多分気を失ってる」
 彼の体には、必然ラナロックが密着していて、そしてそれが故に、彼女が未だに痙攣を起こしている事に気付く。
「でも、じゃあどうすれば――」
「頭を抱えろ、少し痛いぞ!」
 背後、彼が此処に入ってくるときに自分で開けた穴から声がすると、大吾の体に何らかの衝撃が伝わって、言われるがままに頭を抱えたままの状態で前へと吹き飛ぶ。
「大吾、大丈夫ですか!」
「ゴホッゴホッ!……………なんとかな。それより今のは――」
 居間まで自分がいた場所を見ると、そこにはコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の姿があった。後ろには馬 超(ば・ちょう)ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が順々に穴を潜って、彼等のいる空間へと入ってきている。
「手荒な真似をしてすまない、ただ、君の身が危ないと思ってな」
「ハーティオン、倒す敵はアイツか」
「我々はまず静観、との事なので、危害を加えるつもりはありませんよ。そうでしょう? 『手記』」
「如何にも。此方も考えがある故、な」
 よろよろと立ち上がる大吾は、しかし応援が来たことにより胸を撫で下ろす。
「すみませんでした、大吾」
「仕方ないだろ。ああしなきゃセイルがあぶなかったんだ」
 大吾に近寄り頭を下げるセイルを、彼は咎める事なく笑顔を浮かべ、未だにガクガクと体を痙攣させているラナロックへと目をやった。と、そこで彼女の震えが止まる。のっそりと立ち上がって首を傾げた彼女は、きょろきょろと辺りを見渡してから、なにと言うこともなく再び足を進めた。コア、馬超、ラムズ、手記の立っている方向へと。
「来るぞ!」
「知っている、いくぞ!」
 勢いよく地面を蹴り、手にする槍の先端をラナロックへと向けた。
「すまんが此処で止まってくれ」
「………………………………」
 と、口を閉ざしたまま、彼女は決して足を止めることなく、その歩調を変えるでもなく、一定の速度で前進し、彼の槍が当たる寸前でそれを握った。
「私のときと同じだ――あの後、もし何もしてなかったら――」
 槍を持ったところで、馬超の突進のスピードを完全に殺すことは出来ない。故にラナロックは後方に押し込まれて行った。
「無害? 何もしないのか?」
「いや、まだわからんぞ? 何やら企みがあるやもしれん。狂人とはそういうものじゃ。出し惜しみではなく、そこまで思考が回らん。回るとするならば、一拍以上の遅れがあるか、そうでなければしただの『物』じゃ」
 ジリジリと押されているラナロックも、押している馬超も、なんとも涼しげな顔をしている。
「やり過ぎるなよ、馬超! くれぐれも――」
「ハーティオン――」
 涼しげな顔で、馬超はコアへと返事を返す。
「それは出来ない相談だ」
「な、何だとっ!?」
「ほぅ………」
 大吾が思わず耳を疑い、手記は何やら興味深げにそれを見ていた。
「この女――強い」
 優勢の筈の馬超がそう呟き、更に彼女を壁際へと押しやった。
「余裕そうですよ? でも」
「後ろに下がって体勢を立て直せば、馬超の攻撃であっけなく幕引き、でしょうね」
 ラムズが首を傾げ、セイルは淡々と結末を告げる。が、馬超はそこから動かない。彼女を壁際まで追いやった彼は、更に彼女を壁際にまで押しやるだけで、離れて体勢を立て直すことも、違う攻撃をするでもなく、ただただ無慈悲にラナロックへと槍を進めた。
「止めろ馬超! それでは彼女が死んで――」
「違う、俺ではない」
 彼の言葉に、一同は息を呑んだ。