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リアクション
第二章:ドラゴンスレイヤー
「ようやく勇者たちが旅立ったか。さて、次の準備は、と……」
ヴァーチャル空間を漂いながら、勇者たちの冒険の様子を見守っている者がいました。
この世界へ、人物ではなくプログラムとして飛ばされたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)です。
彼は、ダンジョンマスターとしてこの地に降り立ちました。
世界を俯瞰しながら、ダンジョンを作成しゲームを進行させていくのです。
その存在は、まさにゲーム世界における神と言っていいでしょう。
彼の腹一つで、勇者たちの運命は決まってしまうのです。
楽しんでもらえるも恨まれるのも、彼次第というわけです。
「ドラゴンの迷宮か……。よし、めちゃくちゃ難しくしてやろう。デストラップ満載で、強いモンスターもいっぱい出るし。勇者たち絶対ヒィヒィ言うぜ、くっくっく……」
こうして、彼は世界をくみ上げていきます。
勇者たちは生き残ることが出来るのでしょうか……。
「とは言え、殺伐としているだけのダンジョンなんて面白くないもんネ〜。ここはワタシがイジらせてもらってるヨ」
ドラゴンの迷宮を製作管理しているのはアキラだけではありません。
ゆる族のアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)もその一人です。
「お姫様を堕落させてやるのダ。ここから帰りたくないようにしてやるヨ〜」
彼女は、お姫様の囚われている牢をやたらと豪華に改造してしまいました。
大型テレビや露天風呂など洞窟の中とは思えない設備を惜しげもなく設置し、欲しいものがあれば電話一本で届けてくれるサービスまで提供しています。
空調も行き届いており快適。もはや、牢というよりも高級ホテルのスイートルームです。
そして、知ってか知らずか、そんな罠(?)にかかったお姫様が一人。
そう、ここは勇者たちが向かうドラゴンの迷宮。
ここで激しい戦闘が繰り広げられるはずですが……。
「あ〜、居心地いいわぁ。なあ、もう面倒だからここで一緒に住もうぜ」
ふかふかのソファーに身を沈めながら満足げな笑みを浮かべるのは、この世界にお姫様として飛ばされた柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)です。
彼女は、ドラゴンを捕獲するためにこの洞窟に赴き、そして残念ながら返り討ちにあってしまいました。どんな苦難の牢獄生活が待っているかと思いきや、この待遇です。
「とりあえず、そこのドラゴン。三時になったからおやつ持ってきて。そうしたら、ちょっとだけふわふわのベッドで寝かしてあげてもいいからさ」
「……どうして、俺がこんなことをする羽目に」
ぶつぶつ文句を言いながら、律儀におやつの準備をするのは、ドラゴン役の真田 幸村(さなだ・ゆきむら)です。
ドラゴンとは言うものの人型のようです。穏やかそうな風貌の青年に、背中からドラゴンっぽい翼が除かせているだけの姿。
これが、王国を脅かす恐ろしいドラゴンなのでしょうか?
「ちなみに、ベッドで寝たいから用意しているわけじゃないぞ。そのうるさい口を塞ぐためだ」
「おっと、嫌がりながらも身体は素直なもんだぜ、この“嫁”は。天井のしみでも数えていろ」
「……なんだ、天井のしみって?」
「ほら、よく言うだろ。『天井のしみを数えているうちに終わるよ、へっへっへ……』」
「見たところ、天井にしみなどなさそうだが」
「……む、本当だ。これは困ったぞ。早く天井にしみをつけるのだ。一緒に数えられないじゃないか」
「つけろって、こんなピカピカに磨き上げられた天井を汚すのは。第一他人様のものだろ、この部屋」
「じゃあ、そっちの洞窟の部屋と交換……って、汚っ! 掃除してよ、天井のしみだけ残してね」
「本当に何しに来たんだ、おまえ? 頼むから帰ってくれ……」
静かにひっそりと暮らしたいのに、なんでこんな騒ぎが起こるんだ、と幸村は頭を抱えます。
その時です。
幸村の表情が厳しいものへと変わりました。
向こうから、明かりと人の話し声が聞こえてきます。
「また来たか、侵入者が……」
「……え、ちょっと。どこへ行くの?」
「……姫様は知らないほうがいい」
そう言うと、幸村はおやつのよういもそこそこに暗闇の奥へと姿を消していきます。
「……ちょっと……待ってよ。何なのよ、どうしてマジになってるの……?」
氷藍は、彼女が知っているいつもの幸村とは違う様子に、いくばくかの不安と驚きを隠せませんでした。
さて、その少し前の話です。
村を旅立った勇者たちよりも一足先に竜の洞窟を探索している冒険者がいました。
お城から抜け出してきたお姫様の赤羽 美央(あかばね・みお)です。
お姫様といっても、ドラゴンに捕らえられている姫ではなく、別の国の王女のようです。
彼女は、修行のためにこの竜の洞窟へとやってきたのですが、迷宮が複雑な上に、モンスターが強すぎます。
ダンジョンメーカー、アキラの改心の難解ダンジョンが炸裂している模様です。
ゲームの中の世界なので、いつものように身体が動きません。ステータスも残念なことになっていそうです。
「うわ、また同じところに戻ってきちゃいました。もう方向感覚もわからなくなってきてるんですけど。HP、MPも、かなりヤバイことになってますし」
ちょっと挫けそうです。こんなことならお城でヌクヌク暮らしていればよかったとも、思わないでもありません。
「迷宮やステータスの方はいかようにでもなりますが。……もし、その……気持ち的に冒険に区切りをつけたいのでしたら、いつでも対応可能でございますよ」
迷宮の地図を書きながら答えてきたのは、ミオの同行者の魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)です。
城を抜け出して冒険を続けるお姫様のお目付け役なのですが、その分準備も万端です。
「それって、お城に帰れってことですか?」
「ここで中断してお帰りになっても、何も恥ずかしくはございませんし、どなたも悪く申しますまい。昔から見切り千両と言いましてな……」
「却下」
ミオは短く言って、すぐに気を取り直します。
「一人で寂しいわけでもないですし、冒険がイヤになったわけでもないですから」
そう一人ごちた時でした。
向こうの角から獣のうなり声が聞こえてくるのがわかりました。
続いてズシンズシンという足音と共に、巨大な影が姿を現します。
「グルルルル……、ギシャーッッ!」
咆哮と共に、美央に真っ黒いドラゴンが襲いかかってきます!
「えっ!? ちょっと、これがそうなのですか!? まだ勇者さまとも合流していませんのに!」
圧倒的迫力と存在感。
爆音をかき鳴らしながら、ブラックドラゴンは火炎を吐き散らしてきます。こちらが身構えるより先に攻撃してきます。
「!」
「ミオ様、早く魔鎧の装着を!」
サイレントスノーは言いますが、間に合いません。
思わず、脳裏に走馬灯が凄い勢いでよぎります。
これは、死んだ――!?
と……。
ズバシャァァッッ! という斬撃で炎がかき消されます。
「大丈夫。こいつ見かけだけでザコだから!」
不意に、横合いから割って入ってきた人物がいました。
ミオたちをかばう格好になりながらも、ブラックドラゴンをあっさりと斬り伏したのは、同じく迷宮に入り込んでいた如月 玲奈(きさらぎ・れいな)でした。
「噂のドラゴンを倒しにきたんだけど。どうやら、こいつは違うみたいね」
言いつつも、玲奈はブラックドラゴンにとどめを刺します。
ズズーンと地響きを立てて、ドラゴンは倒れました。
ミオはペコリと頭を下げます。
「あ、ありがとうございました。私はミオです。トーイ国の王女で」
「ああ、いいって別に。王女とかあんまり興味ないから」
「貴女が勇者さまって訳じゃないですよね?」
「う〜ん、勇者より先にドラゴンを倒したいな……」
どうやら玲奈の頭の中はドラゴンでいっぱいのようです。
とりあえず勇者と合流すればドラゴンにも会えるだろうという憶測の元、共に行動をすることにします。
「しかし、このダンジョンはひどいな。難解すぎる」
「貴女もそう感じてたんですか。……ちょっと安心しました。特に私の頭が悪いわけじゃなかったみたいで」
「まあ、ぼちぼち行こうよ……ん、なにあれ?」
玲奈は通路の向こうから微かに光が漏れているのを見つけ近寄っていきます。
「何しに来た、人間どもよ。お引取り願おうか」
闇の奥からドラゴン役の真田 幸村(さなだ・ゆきむら)が姿を現します。闘気に満ち溢れ魔力のオーラを身にまとっています。
「出たね、ドラゴン」
玲奈は身構えます。
「勇者たちがやってくるより先に、始めるよ!」
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