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リアクション
14
「違う! 『鍵』はこれだよ!」
これまた高々と『鍵』を掲げたのは、ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)だ。
大丈夫かしら、あんな鍵で。バレたら困ったことにならないかしら、とトリア・クーシア(とりあ・くーしあ)はハラハラしていた。
それはまさしく鍵だった。ただしユーリの部屋の。
この世界に来れば魔法使いになれると勘違いしていたユーリは、昼間の戦闘でまんまと遅れを取った。これはそのリベンジだ。もうちょっと近づいたら、
「【子守歌】で眠らせてやるんだ」
と思っていた。
しかし、『鍵』が偽物だとバレたら。それにもし失くしたら、どうやって部屋に入るのかしら、とトリアは心配だった。
ネイラはむむむ、とユーリの持つ鍵を睨んでいた。「鍵」がどんなものであるか、ネイラは知らない。イブリスもだ。唯一知るはずのエレインは、春太の尺八を見ても、ユーリの鍵を見ても動揺していない。つまり、彼女の反応は役に立たない。
そっとメニエス・レイン(めにえす・れいん)が後ろから近付いてきて、ネイラに耳打ちした。
「あれは家の鍵よ」
「何!?」
「お互いにちゃんとした取引にするために、まずは交換するものが本物かどうか確かめる必要があるわ」
と、メニエスはエレインたちに言った。
「だ、だったら、メイザースさんを出しなよ!」
鍵をメイド服のポケットにきちんとしまい、ユーリは怒鳴り返した。
「いかにも」
と、イブリスが指を鳴らす。
全能の書 『アールマハト』(ぜんのうのしょ・あーるまはと)、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)、イリス・クェイン(いりす・くぇいん)に囲まれるようにして、黒いローブを着た魔術師が進み出た。
イリスがフードを外す。それは目隠しをされ、猿轡をはめられたメイザースだった。
「メイ……」
エレインがきゅっと唇を噛み締める。
「これでいいかしら?」
「その前にお尋ねしたいことがあります」
南部 豊和(なんぶ・とよかず)がレミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)と共に前へ出た。
「何故封印を解こうとするのですか? あなたたちの望みは、一体なんだって言うんですか?」
「この現し世を別の色で塗り替え、深淵たる闇へ導く」
「『世界を作り変え、正しき世界へと作り変える』と申しています」
エレインより早く反応したネイラは、ちょっと後ろを向いて小さくガッツポーズをした。
「それが正しいと、あなたは言うんですね? そんなの、おかしいです。もしそれが正しいことだとしても、そのために他の誰かが不幸になるのなら、そんな正しさ要りません!」
豊和はクォータースタッフを強く握り締めた。誰かの大切なものが奪われ、失われることなど、あってはならない。「皆が笑顔になれなきゃ、何の意味もないんです!」
「異界の勇者よ、世界の理は貴様らの与り知らぬ漆黒の塊」
「『異界の勇者よ、この世界のことはお前たちに関わりのないことだ』と申されています」
「そんなことありません!」
「この世界のことは関わりないかもしれませんが、高知県民さんの雇用費は徴収したいと思います」
そう言い放ってその場に躍り出たのは、朱濱 ゆうこ(あけはま・ゆうこ)だ。
イブリスとネイラは怪訝な顔をした。豊和も呆気に取られた。
「お忘れですか? 昼間、あなたのヒゲを狙った者です」
ゆうこはイブリスのヒゲを狙うため、高知県民を召喚した。敢え無く敗れたのだが、
「その雇用費を頂きたいと思います」
「……そんな物をやる必要はないと思いますが、まあ」
ネイラはゆうこに銀の塊を握らせた。
「これでいいですか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
ゆうこはぺこりと頭を下げた。
「それじゃあ、あっちへ行っていてください」
思ったよりすんなりと徴収できた。あのネイラと言う人物はいい人のようだ。もしかしたら自分に恋したのかもしれない。
「それは困りました……」
このまま戦いになれば、ネイラも死ぬかもしれない。彼のことは何とも思っていないが、自分を好いてくれる人が惨たらしい死を迎え、その弔いのために喪服を着るのは――ちょっといいかもしれないが――御免だった。
「しばらくお待ちを!」
「退け」
ゆうこの額にイブリスの手の平が当てられた。
目の前が真っ赤になって――、
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