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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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   5

 午後九時。
 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は、携帯電話を衣の下のポケットに突っ込んだ。
 二人が捕まったのは予想外だったけど、饗団の情報を集めて伝えさえすれば、後は好き勝手にしていいってことよね――シオンはそう判断した。
 まずはこの本部がどこにあるか、である。
 思ったより広い。一つの屋敷というわけではなさそうだ。そもそも、転送の術で飛ばされてきたので、場所は分かりようがない。ということが、判明した。どうしようかなーと呑気に考えていたら、饗団の魔術師に両脇をがっちり固められた。
「……何か用?」
「あんたを拘束する」
と言ったのは、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)だ。
「はあ?」
 グラルダと彼女のパートナー、シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は、魔法協会で防衛任務に就いていた。それが饗団の襲撃後、半ば自ら無理矢理とも押しかけとも言える形で捕虜となった。
 本来なら牢獄にいるはずである。いや、ちょっと前までは確かにいた。
 グラルダは左手を耳元に持って行った。
「どちらへ電話?」
「まあ、ちょっと?」
「客分の身分で外に電話なんて、疑ってくださいと言っているようなものよ。テレパシーか何かで連絡しているんだろうけど」
「……ツカサってバカねー」
 携帯電話でのカモフラージュは、司の案だ。
「ま、しょーがないわね」
 言うなり、シオンの周囲に冷気が巻き起こった。そして姿が消えた。
 魔術師たちは戸惑い、慌ててシオンを探したが、見当たらない。
「フラワシと何らかのアイテムでしょうね。霧が出ていましたから。離れたところで元に戻っているでしょうから、探索は饗団の魔術師に任せましょう」
と、シィシャが言った。
 グラルダは牢内から、協会の警備や戦略について事細かく記した報告書を提出した。既にシオンから似たような――しかも映像を――受け取っていた饗団は必要ないと断った。
 グラルダは、そいつはスパイだ、偽の情報だと訴え確認に来たのだが――シオンが携帯電話で話をしていたのは、タイミングが良かった。
 これで多少の信頼は得られはずだ。彼女たちもまた、スパイかもしれないという疑いは残るが。
「協会の体制は気に入らないわ。何が何でも『鍵』をあそこから引きずり出してやるわ!」
と、熱弁を振るったのも束の間、人質と「鍵」の交換をすると聞いて、グラルダは唖然とした。
「はぁ!? そんな要求、協会が呑むわけないでしょ! バッカじゃないの!? てかバカなの?」
 怒りの余り、イブリスへ直談判しようとしたが、ネイラに止められた。
「イブリス様は魔力を温存するため、お休みしております」
「だったらあんたでもいい! 敵陣に大将自ら乗り込んでいったり、卑怯なんだか堂々なのか分からない取引といい、斜め上すぎる!」
「……斜め上というのは、どういう」
 シィシャはグラルダをネイラから引き離した。
「此度の取引。饗団側には人質というアドバンテージがありますが、相手は協会です。堅物の会長が、幹部とはいえ一人の人間と鍵とを天秤に架けると考えておいででしょうか。もし、すんなりと鍵が手に入るとだけの考えならば、何か策を講じるべきです。――と、後ろのグラルダが申しておりますので。勿論、無策であることは無いかと思いますが」
「策はあります。――とイブリス様はおっしゃっておいでです」
「あなたはご存じないと?」
「知っていても、私はそれを話せる立場ではありませんよ」
 ネイラは苦笑し、それにしても、とシィシャの後ろに目をやった。
「あなたも大変なようですね」
「そうでもありません」
 ギャーギャー喚くグラルダを華麗に無視し、シィシャは眉一つ動かさずに淡々と答えた。


 ちょうどその頃、怪我をした魔術師を連れ、ジガン・シールダーズとザムド・ヒュッケバインが本部へとやってきた。仲間を保護してくれたことから、存外、素直に信じてくれたようだが、中に入る前にシオンを探すよう言われた。
「仕方ねえな」
とジガンたちは下っ端とシオンを探しに引き返したが、やがて一人で戻ってくると、こう言った。
「あいつ強えぜ……やられちまった……」
 もちろん、ザムドを鎧として着た上で、あらゆる技を駆使したのだが、セイバーである彼は、相当苦労したらしい。
「痛……?」
とザムドが呟いていた。