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リアクション
一方の観察者、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は別の意味で目の前の戦いを見守るしかなかった。
時間と主観が移動し、話は少し前に立ち戻る。
そこは先程とは打って変った情念の戦場……。
通り魔を追って行った後藤 又兵衛(ごとう・またべえ)が案の定帰ってこない。
熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)から話を聞いた天禰 薫(あまね・かおる)は急ぎ知人の柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)
彼女のお供の真田 幸村(さなだ・ゆきむら)、徳川 家康(とくがわ・いえやす)と共に捜索を開始。
途中出会った結和から、仮面騒ぎの事情を知り、アキュートと連絡を取りながら共に探していたのである。
そして二手に分かれていた氷藍から見つかったと連絡があり、薫達は急いで駆けつけたのだった。
「いた!又兵衛なのだっ」
仮面をつけて彷徨う又兵衛を見つける薫と孝高、そしてお供の天禰 ピカ(あまね・ぴか)は走り出す。
又兵衛のすぐ近くに、氷藍と家康の姿も確認できた。
「氷藍さんと家康さんなのだ!」
「おい、家康と言えば「大坂の陣」に関わっているだろ?大丈夫なのか?」
「え、でも又兵衛、家康さんの事「そいつ誰、知らない」って言っていたような…と、とにかく急ごう!」
「ぴきゅう!」
「瑞樹、和麻、フィリス、ナンそれで又兵衛か
…うむむ、なんでこうも俺の知り合い達がこんなに暴れ回ってるんだ」
氷藍がぼやいている所に薫達がたどり着く。孝高が【芭蕉扇】を取り出し、構える。
「悪いな、うちの馬鹿が迷惑をかけて!」
詫びながら又兵衛を止めるべく駆ける。
だがそこに容赦の無い又兵衛の槍が突き出され、ぎりぎりで【芭蕉扇】で抑えて防御する。
「又兵衛。お前、何をしたいんだ!」
「…倒さなきゃ、やられるんだよ…」
鍔迫り合いのような至近距離の対峙の中、孝高は又兵衛に呼びかける。
対する又兵衛は何やらブツブツと誰にも無く言っている風情だ。
「は?お前、何を言って―?」
「あいつを倒さなきゃ、豊臣は滅ぶんだ!」
「こいつ……仮面を外せば落ち着く筈…ならそうさせてもう!」
芭蕉扇で又兵衛の槍をはらい
氷藍や家康、ピカに下がるよう促しながら孝高は芭蕉扇を扇いだ。
その風にはしびれ粉を乗せてある。途端又兵衛の身体が鈍さを増した。
又兵衛にしびれ粉が効いた事を確信した孝高は、続けて芭蕉扇を振るい、残りのしびれ粉は全て吹き流す。
「ピカ!」
「ぴきゅっ…ぴきゅう!」
ピカがはヒト型に姿を変え、薫にそっくりな姿で又兵衛に向かって駆ける。
たんっと地面を蹴って跳ぶと、ピカは、又兵衛の頭に踵落としをお見舞いした!
「ぴっ――きゅう!」
「くそっ、あんた、そんな技も出来るって言うのかい…!」
追い討ちをかけるかのように、回し蹴りを繰り出すピカに、又兵衛は舌打ちしながら、槍を突き出した。
「ぴきゅっ!」
ピカは、ぽんっ!とわたげうさぎの姿に戻り、又兵衛の槍を回避した。
感情を昂ぶらせ!又兵衛は叫ぶ!
「徳川を倒さなきゃ、豊臣はやられるんだ!!」
その叫びを聞き孝高は悟る、又兵衛の記憶が混乱している事を。
仮面をつけた時
又兵衛の中で悪意が溢れ出るだけでなく、一つの記憶が蘇っていた。
目覚めてからずっと頭の中にはあるとわかっていながら思い出せなかった記憶。
それは今の生を受ける前の己が記憶。
大坂の陣で、自分達を打ち破り豊臣家を滅ぼした存在の名を。
「徳川家康」と言う名前と、その存在を。
そういう意味では、氷藍達に助けを求めたのは失態だったといえる。
しかし、それぞれ過去を持ちながら改めて現在に生を受けた存在
転生ではない異端の生を受けた彼らにとって、記憶の綻びが戻るのは時間の問題
誰もが家康の様に過去と今とで割り切れるものではなく
その葛藤は氷藍のパートナーにも言えることだった。
ずっと続く殺意を受けて家康は飄々と又兵衛と対峙する。
「ほほう何じゃ、亡霊が騒いでおるのか?
…後藤か、氷藍には聞いておったが彼奴まで転生しているとは思わなんだ」
孝高を引き離し自分に攻撃を向ける又兵衛の槍を【銃舞】でいなしながら家康はひとりごちる。
「まあ良い、相手をしてやる。
恨み言の一つや二つ…ゆっくりと聞いてやるとしようかのぅ」
「ちょ!?家康!」
氷藍の抗議に眼もあわせず、武器を構えなおして家康は続ける。
「一騎打ち、受けて立つとしよう…いざ」
そのまま場所を移動する又兵衛と家康。氷藍も急いで後を追いかける。
「ぴきゅう!」
「か!薫さんうしろっ!!」
一方残った結和がピカの言葉にハッとして薫に向かって叫んだ!
異変を感じた薫が、とっさに振り向き、朱雀宿しを構える。
止めた槍の先には襲い掛かった幸村の槍姿があった。
「ゆ、幸村さんっ!?どうして…!?」
「天禰!大丈夫か!?」
「だ、大丈夫っ。孝高、ピカと先に行って!」
「だが…!」
「我っ、幸村さんとお話してみる!大丈夫だから!」
「…わかった、気をつけろよ!」
薫を信じ、孝高とピカは又兵衛たちの後を追う。
どうしたらいいかオロオロしている結和に薫が声をかけた。
「ちょっとこちらの事情なのだ。任せてほしい、結和!」
そう言って薫は、幸村と太刀打ちしながら話を続ける。
無言で槍を繰り出す幸村からは感情が正確な読み取れない。
「幸村さん、どうして我なのだ?」
「【パートナーロスト】…それを使って又兵衛を止める、死んでくれるか?」
「でも!それならおかしいのだ!仮に我達に刃を向けるとしたら
幸村さんほどの人なら、一瞬で倒せるのだ、我なんて」
一歩後退し、朱雀宿しを構え直しながら、薫は問う。
「何か事情があるのだ…?」
「俺にも、俺の本意は分からぬ…」
虚ろな瞳で幸村が答える。その瞳に苦悩の色が浮かぶ
【アイアンフィスト】による容赦ない攻撃を受けながら薫の目はそれを見逃さない。
「だがこれが俺だ、俺なんだ…俺が俺である為には…!
嫌だ…終わりたくない、だからお前達を…契約者を…っ」
彼の苦悩に薫が答える。それは怯えでもなく。
共に歩みたい…という意思、そのままに彼に問いかける
「我を殺そうとするのはわかるけれど……それは本当にあなたの本意なのだ?」
「お…おれは……俺はぁぁぁぁぁ!!」
咆哮と共に槍を持って跳躍する!
もう限界だと、止めるために結和が飛び出そうとした時、遠くから轟音が聞こえ、皆が振り向いた。
そこには凄まじい勢いで疾走する、巨大なロードローラー【轢キ潰ス者】
上には気絶した家康と又兵衛が荷物のように積み重なり
それに跨っている鬼の形相…いや、鬼の面をつけ
【鬼神力】で大人の姿になった氷藍の姿があった。
さて、時間をまた少し戻すとしよう。
氷藍や孝高とピカが辿り着いた時には又兵衛と家康の一騎打ちは苛烈を極めていた。
又兵衛の槍を刀で応戦しながら、容赦なく家康は【クロスファイア】で追撃する
「大層な殺意だな、後藤の…たしかにアレは難儀な戦であった」
「それは勝者の驕りだ!」
又兵衛の追撃を銃で牽制し、家康の言葉は続く
「だがすでに終わったことじゃ。今の生には関係なかろう?だから同情はせぬ、謝罪などもな」
「おい家康それは…!」
【爆炎波】で銃撃を行うのを又兵衛が切り抜け、槍を切り払うようにしてまた家康が距離を取る。
「剣に生きた武将にそんなものは不要であろう?完膚なきまでに叩き伏せるのみ…」
完全に剣に生き、剣に死ぬ…昔の有り様に戻っている二人に舌打ちする。
やはり今の生を受けても縛られ続けるのか?我々は…
そう二人の思念に孝高すら飲まれそうになった時
不意に一帯に盛大な大砲の音が鳴り響き、後ろを向いた孝高とピカの顔が蒼白になった。
「どいつもこいつも言いたいこと言って暴れおって…そんなに勝敗を決めたいか?あ?
ならここはちゃんと止めてやらんとな、主人そして友人としてだ」
そこには大砲…【轟咆器・天上天下無双】を抱え【轢キ潰ス者】に乗った氷藍がいた。
「俺の目的は仮面の破壊でな、これなら一石二鳥。流石にお前の仮面も壊れるだろう?のう又兵衛?
あ、ついでに鬼神力でも使っとこうか、近接戦闘になったら厄介だし」
眼の据わった氷藍が鬼の仮面を被る。見る見る体が変化して行くのを見て
柄にも無く孝高とピカは震えるしかなく、成り行きを見ている。
「仮面と暴力には仮面と暴力…これでおあいこだ…という訳でだ、轢き潰す!」
爆音と共にロードローラーがうなりをあげて疾走する。
それで全てが終わりだった。
過去の確執も仮面の妄執も全て巻き込み、今を生きる二人の武将の英霊は星になったのである……。
……で、そんな怒り収まらぬ氷藍が当たり一帯を走り回り。
さんざん暴れた後、戻ってきて今に至る
『あ…あわわわわわわわわわわわ』
結和も薫も……幸村もなすすべが無く鬼の接近を受け入れるのみ。
「人が目を離したらなにやっとんじゃ幸村ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
抱えた氷藍の大砲が火を吹く
かくして…ここにもう一人過去にとらわれた英霊が星になった。
後に結和がアキュートに報告をしながら涙混じりに言ったという。
『今を大事に生きることが一番の平和なんですね……』と
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