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続々・悪意の仮面

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第十二幕 静香校長の実践メイド学★〜後編〜

 「仲裁はあなたの柄じゃないのは知ってますけど…楽しむのも程ほどにしてくださいよ?」
 『あいよ。それじゃ事が片付いたらまた連絡する』

時間は少し巻き戻る……。

泉 美緒(いずみ・みお)の件の終焉をアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)から報告を受け
非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は溜息と共に目の前の百合園の校舎を見上げる。

 「作戦ではもうちょっとスマートに行くはずだったんですけどね……」

作戦開始時にはいつも通りだった校舎はすっかり轟音と共に所々煙が上がったしりている。
それでも校舎から生徒が無作為に飛び出すようなパニックがないあたり、流石と言うべきだろう。

 「だが…それだけでもなのかもしれませんね」

元々この学園の成り立ち自体が道楽なのだ。
校長である桜井 静香(さくらい・しずか)を気に入ってこの世界に招くためにヴァイシャリー家の娘が作ったわけで
その校長を玩具がわりに遊べるのなら、これ位の騒動お釣がくるのかもしれない。
現に、マスコミはそれほど騒がないし、手元のTVのニュース速報でも、学園名称は伏せられている

先程はなにやら身代わりとばかりに金ぴかマッチョの大群が映し出されていた気もするが……。

 「いずれにしても、あとは校長の件だけです」

自らに言い聞かせるように、近遠は校舎を再び見上げるのだった。


 「…別に私は人助けをしに来たわけでは無いのだけどな。和輝」

その頃、校舎の一角の保健室では通信をしながら保険医が患者に包帯を巻いていた。
彼女リモン・ミュラー(りもん・みゅらー)はうんざりした顔でそのまま続ける。

 「ああそうそう、校長先生とやらの騒ぎのほかにも色々あったみたいだぞ。
  先程、腹の中野菜で一杯にしたバカが極秘で担ぎ込まれてきた。男だったから胃薬与えて外に飛ばしてやったがな。
  お前達がじたばたしてるから患者が増える一方だ、こちらの正体もバレかねんぞ?」

うんうん唸る患者を拳で黙らせ、窓を見ながら続ける。

 「で、どうなんだ手はずは?元もとの連中が不甲斐ないならボチボチ姿を見せたらよかろう?
  まぁモタモタするならそれでもいいさ、私は仮面を回収する対価でここで保険をしてるだけだ。
  対価が払えないなら、それ相応の物を払ってもらうだけだからな。
  おいおい……苛めてないよ、私は常に真実しか言ってない」

通話の相手が一方的に切ったらしく。面白そうに彼女は通信機をしまう。
そしてさも面白いといった風情で呟く

 「さっさと暴れろよ若造。お前の空賊としての名が泣くぞ……」
 「やっほ〜せんせ〜!」
 「すまぬ新しい怪我人を連れてきたのだが」
 「……やれやれ、君たちはユーリカとイグナだっけ?」
 「アルティアもいますわ、ここに」
 「何だって良いさ、まとめてつれて来い、診てやるから」

そうしてユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)
アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が次々につれてくる患者を診始めるのだった。



一方その頃、校舎の物陰で通信の主…佐野 和輝(さの・かずき)が苦悶の声を上げていた。

 「くっそ、リモンの奴…足元見やがって。こういう派手な騒ぎは計算外だっての!
  ………なんだよ?」

その顔は仮面に覆われ、姿も百合園の制服だがれっきとした男だし、仮面も偽物である。
そんな彼の姿を見て笑いを堪えているスノー・クライム(すのー・くらいむ)を睨み付ける。

 「いえ、久しぶりのあなたの女装だけでもレアなのに、その姿でうろたえるなんて……ねぇ」
 「でもどうするの〜?確かに追いかけっこ続いてるし、騒ぎは大きくなってるよめ?」

周りの様子を眺めながらアニス・パラス(あにす・ぱらす)も口を挟む。
彼女らの会話を受け、意を決したように和輝は宣言するのだった。

 「もちろん動くさ、友人の…桜井静香の仮面を最初に手に入れるのは俺達だからな!」


そんなそれぞれの場所で想いが交錯する中

ターゲットの静香校長は校舎を全力疾走していた。
元々運動神経があるわけじゃないのだが…厄介なのが大量の仮面をばら撒いている事だ。
偶発的に、そして戦闘の煽りを受けた者達がすぐに仮面の虜になり追撃する者を邪魔するのだ。

 「ああもう!はらっても散らしてもキリがない!静香の馬鹿ぁ!」

よって追跡している小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も決定的に追い詰められないでいる。
その苛立ちに美羽が声を上げる。

だがそこに状況整理と生徒の誘導をしていた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)から通信が入る。

 『美羽さん、大講堂までのルートを組み立てました!そこまでがんばって追いかけてください!』
 「わかった!……でもなんでまた大講堂?」

美羽の問いかけに歩の方も不明瞭な体で答える。

 『さぁ……とにかく先生側からの提案なので何があるのか?』
 「よくわかんないけど、このままじゃラチがあかないしねっ!いくよコハク!」
 「わかりました」

とにかく作戦を実行するために二人は別々のルートを目指すことにした。


一方、半泣きで逃げてる静香も違和感を感じていた。
がむしゃらに逃げてるようで、逃げるルートが狭まっている気がしたのだ。
複製仮面で急ごしらえの手下を作り妨害をしたところで道を作ってくれるわけではない。
所々、封鎖されていたり。あからさまなトラップ魔術が敷かれていたり。

 「ひょっとして、ボク誘導されてる?」

そう思った時には時は既に遅かったのかも知れない。目の前に見慣れた光景が広がったからだ。

 「……大講堂?戻ってきちゃった!?」
 「そういう事。何だかんだいっても、仮面ですら君の本質は変えられないみたいだ」

突然の声に驚いて先ほどまで自分のいた教壇を見てみると。
そこには仮面姿の百合園の制服姿があった、つけている仮面は明らかに自分の複製だ、なのに……

 「気がついた?これ前に使ったレプリカの改造なんだよ」

そう言って仮面をわずかにずらす、その顔を見て静香の顔が仮面越しにも驚くのがわかった。

 「佐野…和輝、さん?」
 「一応、久しぶりと言っておくよ、桜井。大胆なイメチャンをしたじゃないか……とはいえ、正直似合ってないぞ」

つかの間の素顔を再び仮面で隠し、和輝が悪戯っぽい口調で言葉を続けた。

 「俺が手伝ってやるから前の桜井に戻れ」

静香の声にならない叫びとともに、周囲の扉から仮面に操られた生徒が和輝に襲い掛かる。
それを待ってましたとばかりに教壇の下からアニスが飛び出し魔法を放つ!

 「雷注意だよ〜♪」

可愛らしい声とは裏腹に【雷術】が和輝と静香の周りだけ除いて勢い良く炸裂し。
砕ける仮面もろとも生徒たちが吹っ飛んだ。

 「和輝の古い友人だというから、校長は少し手加減して置かないといけないけど……」

再び襲い掛かる残りの生徒の前に、今度は和輝の目の前に現れたスノーが立ち塞がる。

 「完全な赤の他人なら容赦はしないの、ごめんね」

そういい終わらないうちに【ヴァーチャースピア】の切っ先と和輝の両手の銃が閃いた。


 「…これ?どういう事ですか?」
 「わ〜い!人がゴミのようです〜☆」

後を追って飛び込んだ美羽とコハクと共に誘導を終えた歩
そして紅護 理依(こうご・りい)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)も講堂にたどり着く。
目の前に広がる人が舞い上がる光景に歩が驚き、ヴァーナーがはしゃいだ声を出す。

 「何だかわからないけど!コハク!」
 「はい!」

美羽の言葉でてコハクが隙を狙って静香にワイヤークローを放つ。
とっさに仮面の生徒を操って立てにしようとする静香だが……。

 「邪魔しちゃめ〜〜〜〜〜っ!!ですよぉ!」

…とヴァーナーの放った【咆哮】で生徒の動きが止まり、ワイヤーが静香の体を絡めとる。
 
 「ごめんなさい、泣かれると良心が痛むので……」

…と続けざまに理依が放った【ヒプノシス】が逃げようとした静香を完全に眠らせ無力化した。
そこに高く足を振り上げた美羽の声が高らかに響き渡る

 「これで!おわりだよっ!」
 「ああああああ!馬鹿馬鹿!アニス!!」
 「はいは〜い!所により、ヒョウがふりま〜す♪」

美羽の言葉で彼女が仮面破壊を狙って【真空波】を放つ事を知り、あせった和輝がアニスに呼びかけ魔法が放たれるのと
美羽の足から決定的な攻撃が放たれ、激しく土煙が起こるのが一緒だった。


 『おはよう桜井。悪夢から覚めたみたいだな』

……そんな言葉をかけられた気がして、静香は目を覚ました。
うすぼんやりとした意識の中、見れば土煙の中何か走ってくる音がする。

 「元の静香せんせーだぁ!!」
 「ヴァーナーさ……はぁぅぅぅぅ!?」

姿を見せるなりダイブして抱きついてきたヴァーナー・ヴォネガットの勢いで
そのまま後頭部を地面に強打しそうになる。

 「やっぱり涙目でいるそっちの方が、かわいくて大スキですよ〜!」
 「はいはいそこまでにしなよヴァーナーさん。また混乱してしまうよ!」

……とヴァーナーのキスの洗礼を連続で受けるなか、紅護 理依や小鳥遊 美羽が姿を現す。

久しいはずだが先程まで見ていたような目の前の面々の記憶に暫く翻弄され
ようやく静香は今までの自分の記憶を取り戻した。

 「あ、ああああああ、ぼ、ぼぼぼぼぼくボク、あのその……えっと!」

みるみる赤面と共に涙が珠のように溢れ、言葉もろくに出ない静香のクチに蒼空学園の緑髪の友達は
そっと人差し指を当てる。

 「大丈夫だよ。みんなわかってるから。
  まぁ、迷惑かけた分、お詫びとして、学食のケーキと紅茶をごちそうからね」
 「美羽さん」

七瀬 歩もそっと傍に歩み寄り、話しながら静香が起きるのを手伝い始める。

 「今回の事は『白百合会』で全力でフォローしてますから、何かお祭り騒ぎとかそんな感じで何とかなると思います。
  無茶な場合は…そうですね、お詫び代わりに846プロの方にでも頑張って貰いましょう」
 「すみません」
 「でも、ちょっと強気な静香さんも新鮮でカッコ良かったですよー」

記録したかった…といいかけて、歩はとっさに口を噤む。
講堂の奥の方で嬉々としている宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の姿を見かけたからだ。
まぁ……向こうもいろいろわかってるから、悪用などはしないだろう。

 「はいはい、皆さんそこまでですわ。ご協力ありがとうございました」

唐突にパンパンという拍手と共にラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が姿を現したのに皆が気づく。

 「予想外の事態でしたが。皆様の力で被害も少なく済みました。
  さぁここに長居をしても生徒の注目を浴びるだけですから、場所を変えましょう。
  他校の方や卒業生の皆様もご協力して下さってます。まずはお茶……事後処理はその後という事で♪」

見れば奥に騎沙良 詩穂(きさら・しほ)高務 野々(たかつかさ・のの)の姿も見える。
美羽達も手をとり、静香と大講堂を後にするのだった。

そんな中、騒動を見ていた生徒が足を止める。
桐生 円(きりゅう・まどか)は一部始終の中、何気ない行動を見逃さなかった。
ラズィーヤが祥子の姿を見つけ、祥子もその視線に気がつき、二人が楽しそうに微笑み合うのを。

 「……ボクもちょっとお茶しに行ってみるかな〜。後で個人的に」


 「……了解しました。では作戦は全て終了したということで」

近遠も騒動終了の連絡を受け、ほっと肩をなでおろす。
本当に今回は今まで以上に大騒動だった。
仮面の存在が知られれば知られるほど、そして人の欲望が顕在化する分だけ
欲望を持つものは集まってくるのかもしれない。

それは、個人的には興味があることだが大きな騒ぎになるのは勘弁願いたいのが本音である。

 「ご苦労さん。まぁ向こうもお茶の時間って言ってるし、こちらも祝杯といこうや」
 「……もうすでに飲んでる人が言わないでください」

傍らにいる帰還したアキュートを睨みながら、それでもちょっと笑ってその意思には同意する。
とりあえず、自分のパートナー達が戻ってきたら、労う事はしようと。
そんな中、アキュートは何か悩んでいる高峰 結和(たかみね・ゆうわ)に気がついた。

 「何だよ腑におちねぇ顔して…悩みだったら聞くぜ?神父として」
 「元…という話でしょう、結構です……ただ」

深々と首をかしげながら結和はつぶやく。

 「何か……もうひとつだけ忘れてる気がするんです……なんだろう?」