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リアクション
第十一幕 仮面のアイドル〜後編〜
「ちょ!危な…何だよ今の!?」
目の前を通り過ぎた馬鹿でっかいロードローラーを慌てて回避しながら若松 未散(わかまつ・みちる)は逃走していた足を止めた。
今ので追ってきた何者かとの距離が逃げ切れ無いほど近づいたと確信したからだ。
だが、今までの追いかけっこで大体の目星が付いた。
「この足の速さ、足音には覚えがあるよ。ホントよく会うね、ルカ…それにダリル」
その言葉に背後の物陰からルカルカ・ルー(るかるか・るー)そしてダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が姿を見せる。
ちょうど追いついたハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)と茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)も二人の姿を確認する。
特にハルはダリルの姿を見つけてわなわなと拳を振るわせた。
「ダリル・カイザック!やっぱり」
「奇遇だな、ハル・オールストローム。まるで前の仮面の時の再現のようじゃないか?」
「以前のようにはいきません!未散くんは私が!」
「自分も仮面に負け、再び彼女を仮面の虜にさせておいてよく言うな」
ハルを一瞥もせず、ダリルは未散に向き合う
「悪いが俺にとってはリベンジだ。前回は俺が不覚にもあ…あのような手段で混乱してしまったが。
今回はそうはいかない、思い切り行かせてもらう!いいなルカ!」
「……なに?リア充」
「……なっ?」
決意と共にパートナーに呼びかけるダリルとはうってかわって、クールなルカがジト眼で見返す。
「べっつに〜?彼女持ちがずいぶん張り切ってるからさ?報告すべき?」
「女性には優しくするべきだろう!それに彼女は妹みたいなものだ……まぁ役得だったのは認める」
「正直じゃん?ハプニングキスでこうも変わるなんてね〜☆」
顔を真っ赤にするダリルを背にしてハルが衿栖に微笑みかける。
「とはいえ、未散も大切な友人、このままには出来ないわ。
S@MPのルカ、同じ芸能界の先輩として、手伝うわ。衿栖」
「はい!」
「好き勝手なこと言うなお前らああああああ!!」
衿栖達の様子を見て未散が激昂し、衿栖達に踊りかかった。
だが激しい戦い…とはいえ、何故か変わらない劣勢の流れに焦りを感じる未散。
当然といえば当然である。
一度彼女が仮面に操られたのを助けた経験がそれぞれにある。
つまり、行動パターンはすでに把握済みということだ。
言ってみれば、子供が再び派手にかんしゃくを起こしたような物で
一度経験したものなら冷静になれば、対処法などいくらでもあるのである。
故に簡単に確保し、仮面をはがすことは可能だった。
だが、アイドルとして、パートナーの衿栖には、ずっとひとつの疑念があった。
(「なぜ、未散さんは再び仮面をつけてしまったのだろう?」)
もちろん、今までも仮面をハプニングでつけた例は死ぬほどある。
しかし失敗も仕事に影響する環境にあるアイドルが、又同じ失敗を繰り返すことなんてあるのだろうか?
パートナーをよく知るから、パートナーだからそんな単純な失敗はしない。
衿栖はそう思い、追跡しながらハルにそのことを打ち明けていたのである。
(「何か不安なことがあったの?未散さん?」)
ルカの【薙刀】で距離を離され。
【ダッシュローラー】のスピードをダリルの【ゴッドスピード】で相殺され、目の前で未散が追い詰められている。
元々近接戦闘系の彼女だ、遠距離に長けたルカとダリルと本気なら相性が悪い。
ハルも今回は中距離からの銃撃に専念してる。
唯一の【風術】による遠距離からの攻撃もルカの同等の攻撃で相殺される。
戦術がわかっているからこその相殺、弱らせて消耗させての鎮圧。シャンバラならではの攻撃。
このままいけば捕まえて仮面を取れる…取ったら終わり…だけど。
衿栖は見てしまった。聞いてしまった。
仮面の隙間から雫が落ちるのを、苦しむような彼女の声を。
「なんで…なんで…わかってくれないんだよ…頑張らないと…ライバルに負けるんだよ…」
ダリルの【トゥルーグリット】に翻弄され体力が削られる
もはや手を動かす気力も尽きた彼女に、続けざまのダリルの仮面を狙った光条兵器が迫る!
「これで終わりだ。彼女を救う!」
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
刹那、そこで時が止まる
ダリルの剣は未散の目の前で止まっていた。
もちろん、目の前に彼女に抱きついた衿栖がいるのも理由だが、それで情けをかける性質じゃない。
彼の前にハルが立ち、剣の柄を受け止めていたのだ。
長年彼女らに付き従ったマネージャーの勘、そしてここまで来るときの衿栖との会話で察しての行動だった。
「な、何をそんな!?止めなくてもこの剣は人を傷つけたりしない!」
「そういう事じゃないんです、それで終わらせたらいけないんです!」
「え…衿栖?」
動けない未散を地面に座らせ、自分も座りながら衿栖はポシェットに手を入れる。
そこには手紙の束があった。
「これ、衿栖さんがいなくなった後にもらったんです。私達あてのファンレターですよ」
一枚一枚をの手に渡して衿栖は続ける。
「……みんなから、輝さんから聞いてました。
仮面のことや、いろんな事で衿栖さんが悩んでいるって。失敗を取り戻さないといけない。
もっと頑張らないと、上に立てないって。
そんな中、急に百合園でイベントがあったから。焦ってたんですよね?でも……」
会話を続けながら遠くを見る衿栖。
そこには後を追いかけてきたレイカ・スオウ(れいか・すおう)と茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)の姿があった。
「応援してくれる人はどんな時でもいます。そして見守ってくれて…そうしてお友達も増えていって。
そんな人達と手を取り合えば、私達は頑張れます!それがアイドルでしょう?」
そう言って、衿栖はパートナーの仮面をそっと外す。
そこには滅多に見られない、涙で顔をくしゃくしゃにした衿栖の顔があった。
「わ、私…わた……ごめ……さい」
嗚咽で言葉も出ない未散をそっと抱きしめて、衿栖は優しく囁いた。
「気は済みましたか?ゆっくり休んで、明日からがんばりましょう?
そうすれば私達トップアイドルになれますから!」
「がんばったのにねぇ〜?ま、うまく収まったから良かったんじゃない?」
その光景を見ながら、ルカがニコニコしてダリルを見上げる。
憮然としたダリルというのも面白いかもしれない。
それなりに頑張っていた者としては全てを帳消しなどころか、攻撃を止められるあたり
前回以上に気まずい物があり、そうそう笑ってOKなんて出来るはすも無い。
出来るはずも無いが……。
溜息とともに、ダリルも表情を崩した。
「まぁ……終わりよければ、全てよしだ」
「……案外そうでもないかもしれませんぞ!」
和やかな雰囲気はハルの突然の言葉でかき消される。
「騒ぎを見てなんか人が集まってきました。このままでは注目の的でございます!」
「うわわわわわ、なんかTV局までいるよ!?対応早くない?」
ハルの言葉に周りを見渡したルカも慌て始める。
当然といえば当然である。この騒ぎだけ見ればまだ大したことが無いのだが。
この数時間で街全体が大きな騒動に巻き込まれているのである。
ましてや先程すぐ側を尋常じゃない大きさのロードローラーも走っていた様だし…。
ひとつの騒ぎを見た野次馬が、別の騒ぎを聞きつけ急いで向かうのも無理の無いことだ。
「今こそ俺の出番だな!」
そう言うとダリルは未散をさっさと抱え上げ走り出す。
「彼女は俺が飛空艇で連れて行く、お前達も逃げろ!」
「ちょっと!何をするんですかダリル・カイザック!マネージャーとしてその行為は!」
「未散を犯罪に走らせるな、お前だけに任せてはおけん!」
「え?ちょっと?ええ??」
戸惑う未散に微笑みながらダリルは囁く
「落ち着いたら家に帰してやるから心配するな」
「ああもう何あれ!パートナー置いて行くなんて!それなんてリア充よ!?
いいのあなたも!?パートナー持って行かれて?」
「まぁ…あの人には迷惑かけたみたいですから。今日の所はいいんじゃないですか?
罰ゲームです☆」
二人の様子を見てルカが叫びながら衿栖が笑い返す。
それをみたルカが溜息をつく…がすぐに元に戻って顔を上げた。
「ま、パートナーのフォローもルカの役目か!
いいわ、連中の陽動はまかされた!みんなも早く非難非難!」
マントで隠密スキルを発動させながら最後にルカが衿栖に叫ぶ。
「勝負はステージでつけましょ!じゃ」
その言葉に頷きながら衿栖もハルと共に
こっちだと慌てるレイカと朱里のもとに走り出すのだった。
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