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リアクション
イルミンスールの森にマシンガンの銃声が響く。
見れば、鏖殺寺院の信徒たちが逃げるイグナ・スプリントに向かって発砲している。
だがイグナは逃げているのではなかった。
「ついて来い……!」
木の幹に姿を隠したイグナがそうつぶやく。
彼女は近遠の作戦通りに敵を拠点近くへと誘い込んでいた。
そうとうも知らず、敵は女ひとりと侮ってその後を追いかけていく。
マシンガンの射撃間隔のわずかな隙をつき、イグナは木の影から飛び出した。
「来ましたわね」
巨木の影からそっと様子をうかがっていたユーリカ・アスゲージは、イグナがこちらに向かってくるのを見てそうつぶやいた。
そして彼女は両目を閉じると呪文を唱え始める。
すると、ユーリカの体から輝く凍気が立ち上りはじめた。
そんな彼女の目の前をイグナが駆け抜けていく。
「今ですわ!」
ユーリカが閉じていた目を見開いて、両手を地面に叩きつけた。
すると彼女の生み出した凍気がその手を伝って一気に地面を走る。
そして雨露を多く含んだ森の大地は、その凍気に触れて一瞬で凍りついた。
突然足元に現れた氷に、イグナを追いかけていた鏖殺寺院の信徒たちは足を滑らせ転倒してしまう。
「次はアルティアの出番でございます」
そんな声と共に、今度はアルティア・シールアムが姿を現し、神もおののくかというほどの歌声を周囲に響かせ始める。
これは堪らない、と敵は両耳を塞いで武器を取り落とした。
「さあ、貴公ら――今度はこちらから行かせてもらうぞ!」
と、先ほどまで敵に背中を見せていたイグナが、高周波ブレードを構えて男たちの後ろに立ち塞がる。
ここからが戦乙女である彼女の本領発揮だった。
「どこ見てるの?」
イグナたちとは別の場所で鏖殺寺院やヴァリアントモンスターたちを引きつけているルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)は、酷薄な笑みを浮かべながら棒手裏剣を投げつける。
隠形の術で姿を消し、死角から現れては次々に敵を屠っていくルイーゼ。
そんな姿の見えない敵に、鏖殺寺院の信徒はだんだんと恐怖に支配されていった。
「怖いの? でもあたしって悪い子には容赦しないタイプなのよね」
耳に息がかかる位置でルイーゼの声が響く。
敵は短い悲鳴を上げて後ろを振り向こうとした――だが、その体が動かない。
「残念、しびれ粉」
ルイーゼはそう言うと、敵の背中に棒手裏剣を突き立てた。
血煙を上げて倒れる鏖殺寺院。
ふぅっ、と息を吐いてルイーゼは長い黒髪をかき上げる。
彼女は契約者ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)を地下アジトへ潜入させるために囮を買って出た。
そのためにはまだまだ戦わなくてはいけない。
視線を横に流して敵を探すルイーゼ。
唸るヴァリアントモンスターたちを見つけると、鬼のような目つきで相手を睨み返して再び武器を手に取った。
◇
「なんだ!?」
「敵襲だ!」
アジト内部。
外で起こった爆発はアジトの中にも聞こえていた。
騒がしくなるアジト内では、出て行けるものは次々と外に向かって走っていく。
と、そんなアジト内に天を貫かくかのような立派なモヒカン頭をしているヴェルデ・グラントの姿があった。
「おいっ、手ぶらで外の奴らと殺りあうつもりかよ? こいつを持ってきな、俺の特注品だ!」
ヴェルデは拳銃やらマシンガンを外に向かって出ていこうとしている鏖殺寺院の信徒たちに向かって放り投げる。
敵はそれを受け取るとヴェルデに礼を言って通路を走っていった。
「なに、礼はいらないぜ」
ヴェルデはニヤリと笑うと、その場から姿を消す。
「くまーっ」
「うわっ!」
と、ヴェルデから武器を受け取った面々は、頭に喪悲漢をのせた子ぐまと出食わした。
驚かせやがって、そう言って敵のひとりが銃口を子ぐまに向けてトリガーを引いた。
するとどうだろう。
銃はいきなり暴発を起こし、敵は自滅した。
「言っただろう? それは俺の特注品だって」
ヴェルデの声が背後から響く。
振り返ればそこには不敵な笑みを浮かべたヴェルデが立っていた。
そうなってから初めて、ヴェルデが味方ではなく敵であるということに鏖殺寺院の面々は気がついた。
「残念、気づくのが少し遅かったな」
そう言うとヴェルデは何かのスイッチを取り出して、それを押した。
すると敵が持っていた銃が次々と暴発を起こし、相手は倒れ込んでいく。
トラッパーとして高い能力を持つ彼が作り出した暴発銃は、その効果を遺憾なく発揮して敵を倒した。
「くまーっ!」
ヴェルデのペットである子ぐまはご主人様の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄っていく。
「よしよし、いい子だぜ。よくやってくれた」
ヴェルデはそう言いながら子ぐまの頭を撫でる。
潜入工作員として活躍する彼は、最近目撃されていた怪しい人物を探っている途中、イルミンスールの生徒たちが捕まる場面を目撃していた。
そして内部への潜入を試み、見た目の悪さもあってかそれはなんなく成功していたのだった。
「さあ、最後の仕事だ。こいつを外の奴らに渡してくれ」
そういうとヴェルデは一枚の紙切れを子ぐまにくわえさせた。その紙には下手くそな絵でアジト内部の絵と彼が仕掛けたトラップの位置が描かれている。
だが紙をくわえた子ぐまは、ご主人様を心配そうな目つきで見つめて動こうとしない。
「安心しろって――俺は死んだりしねぇよ。それにまだ仕掛けたいトラップがあるんだ」
快活な笑顔を浮かべ、ヴェルデはそう言い切ると、子ぐまの前から姿を消した。
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