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イルミンスールの怪物

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イルミンスールの怪物

リアクション

 遺跡の跡地に作られた不気味な地下アジト。
 その内部にある牢獄に、捕らえられたイルミンスールの生徒たちの姿があった。
 鉄格子で仕切られた向こうには、数人の生徒が壁にもたれかかり、無気力に下を見つめている。
 魔術に長けたイルミンスールの生徒なら、鉄格子で仕切られているだけのこんな牢屋などいとも簡単に抜け出してしまいそうだったが、今回はそうもいかない。
 武器は取り上げられ、腕には手錠がかけられてしまっている。
 しかも、牢獄の中には見たこともない魔術式が君の悪い文字でびっしりと書かれており、イルミンスールの生徒の精神に大きな影響を与えていた。
 めまいや吐き気を訴える生徒もいたが、看守たちはそれを無視し続けている。

「大丈夫ですか?」

 そんな冷たい看守たちとは反対に、ぐったりとうなだれる生徒を気遣う女生徒がひとりいた。
 彼女の名前は永倉八重。奈津の幼なじみだ。
 自分も辛かったが、彼女はきっと奈津が助けに来てくれると信じているので、気持ちは折れていない。
 周りの生徒を励ましつつ、脱出のチャンスが来るその時を伺っていた。

「きっとイルミンスールのみんなが助けに来てくれます。だからそれまで私たちもがんばりましょう!」
「永倉さんの言うとおりなのです」

 土方 伊織(ひじかた・いおり)が声をあげ、八重の言葉にうなずいた。

「”ぴんち”は”ちゃんす”とよく言うのです。だからその”ちゃんす”が来るまでがんばるのです」

 八重と伊織の声に弱気になっていた他の生徒たちが顔を上げる。
 そんな生徒たちにふたりは笑顔を向けるのだった。

「ぬあー! ダメだ、集中できん!」

 と、イライラした様子の犬養 進一(いぬかい・しんいち)が声を荒らげる。
 彼は先ほどから、壁に書かれた魔術式を打ち消す対抗術式を考えようとしているのだが、見ているだけで神経を逆撫でするミミズがのたくったような文字のせいで上手く思考が纏まらなかった。

「くそーっ、図書館引きこもりの俺の集中力を以てしても気が散るとは! 落ち着け、落ち着くんだ、俺!」

 自分を落ち着けようと深呼吸を開始した進一の横に、伊織のパートナー馬謖 幼常(ばしょく・ようじょう)がやってきて目を細める。

「ふむっ、これは見たこともない術式だ。対抗手段を見つけ出すのは難しいだろうな」
「諦めるのはまだ早いのです」
「なんだ伊織、貴公なら対抗手段を見つけだせるというのか?」
「わかりませんけど……やってみるのです」

 むむむっ、と難しい顔つきになって伊織が壁に書かれた魔術式を解読しようと試みる。
 イルミンスール魔法学校で様々な魔術について一生懸命に勉強をしている伊織は、この分野においてはかなり博識だ。
 だが、教科書に載っているような記術法とはかなり異なる独創的な記術法で書かれたこの魔術式を解することはできなかった。

「はうぅ、ダメです。なんだかめまいがしてきました」
「やっぱりダメだったか」

 残念な結果に幼常は小さなため息をついた。
 そんな二人にラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が声をかける。

「皆さんあまり無理をしないほうがいいですよ。ここにあるモノを解読しようとすれば、あなたもアラビアの狂える詩人のようになってしまうかもしれませんからね」