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イルミンスールの怪物

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イルミンスールの怪物

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ACT1・不穏


 エリザベートからの情報で禁術の行われた現場へとやってきた契約者たち。
 そこには確かに無残な光景が広がっていた。

「なるほどー、これは確かに見たことのない術式です」

 と、無数に転がる死骸には目もくれず、残されていた魔方陣を観察しながらそうつぶやくのは神代 明日香(かみしろ・あすか)
 エリザベートの御付きメイドのひとりであり、エリザベートから禁術の調査をまかされている彼女は事件よりも禁術の調査に重きを置いていた。
 明日香は禁術が行われたこの場所をつぶさに見てまわる。
 そして何か気になる事があると、レポート用紙にペンを走らせていく。

「これは――無貌の神を称える生贄の儀式の際に使われた魔術式と確かに似ている」

 明日香と同じように魔方陣を見つめながら、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)がつぶやく。
 彼はクトゥルフ神話学科に所属しており、この手の知識は他の契約者よりも持っている。

「でも兄さま、これには足りない記術が多すぎますわ」

 しゃがみこんで魔方陣を確認していたエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が、京介を見上げて言った。

「ああ、そうみたいだな。でも一体誰がこんなものを……」

 京介は眉間にシワを寄せる。

「八重」

 と、事件の現場を目にした結城 奈津(ゆうき・なつ)が、思わず自分の幼なじみの名前をつぶやく。
 彼女の幼なじみ永倉 八重(ながくら・やえ)は、先に出発して行方不明となった調査隊のメンバーだった。

「今日は連絡がとれないと思ってたけど、八重も巻き込まれてたなんて――くそッ!」

 奈津は焦りと苛立ちを紛らわすように、握り拳を手の平にぶつける。
 そんな奈津の目の前に、突然一輪の花を差し出された。
 奈津は驚いて顔を横に向けると、そこにはニコリと微笑むエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の姿があった。

「お嬢さん、焦りは禁物だ。まずは手掛かりを探そう」
「そっ、そうだな」

 奈津はぎこちない笑みを浮かべると、エースの側から離れて手掛かりを探し始める。

「フラれちゃいましたね、エース」

 温和な笑みを浮かべてエースのパートナーエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が現れる。

「おいおい、エオリア。なんてこと言うんだよ」
「あははっ、すいません」
「こらっ、ソコ! サボってんじゃないわよ!」

 と、ふたりに向かって鋭い声が飛ぶ。
 見ればそこには不機嫌そうな顔をしたエルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)の姿があった。
 エースはエルサーラのご機嫌を治そうと、笑顔をセットにして一輪の花を差し出す。

「他人にあげた花を私にもあげようなんて――いい度胸ね、エース」

 だがそれは逆効果だったようだ。
 そんなエルサーラの様子を見て、白いモモンガ姿のゆる族ペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)が、ぴょんぴょんと跳ねながら言う。

「エル、こんなところでケンカはダメだよー」

 そんなペシェの愛らしい姿を見て、エルサーラは怒る気をなくしたのかため息をついた。
 そしていつもの口調に戻るとエースたちに言った。

「いいこと、絶対に敵のアジトを見つけるのよ。そこにはせい……じゃなかった。溜め込んだ宝石とか魔法のアイテムとかがあるかもしれないわ。そういうのをいただくためにも、早く見つけないといけないんだからね」
「それは火事場泥棒って言うんじゃ……?」
「うっ、うるさい!」

 エルサーラは一喝してどこかに行ってしまう。そんな彼女の後ろ姿をエースが笑みを浮かべながら見つめる。
 本当はエルサーラも生徒たちを心配しているが、彼女はそれを素直に言えない性格だということをエースはよく知っていた。
 そんな彼女を守る。それはエースが決めていたことだった。

「俺は貴女の騎士ですから」