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イルミンスールの怪物

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イルミンスールの怪物

リアクション

「んっ、外が騒がしいようですが……」

 逃げる準備をほぼ終えた白衣の男は騒がしい外の様子に眉をひそめる。

「うわぁッ!?」

 と、警備をしていた鏖殺寺院の信徒が何者かに吹き飛ばされた。
 白衣の男とその助手たちは驚いて後ろを振り向く。
 するとそこにはいち早くこの場所へたどり着いた柊真司とリーラ・タイルヒュンの姿があった。

「鏖殺寺院とやらはパラミタで名の知れた武装集団だと聞いていたのですが、こんな若者ひとりも止められないとはね」

 フッ、と皮肉な笑みを浮かべ白衣の男が肩を竦める。
 そんな男に向かって真司は言った。

「そこまでだ。大人しく捕まれば危害は加えない。だから抵抗はするな」
「そうそう、そうした方がいいわよ」

 と、真司の後ろから女の声が聞こえてきた。
 見ればそこには擲弾銃バルバロスを構えたセレンフィリティ・シャーレットとそのパートナー、セレアナ・ミアキスの姿。
 彼女たちも彼らに遅れてこの場所に到着したのだった。

「おまえたちか……生徒を捕まえて人体実験をしようって奴は! 許さない。絶対にぶっ潰す!」

 今度は怒りに燃える猪川勇平が躍り込んできた。
 その手にはすでに白竜鱗剣「無銘」が握られており、戦闘態勢は整っている。
 彼をここまで熱くさせているのは、彼のパートナー井澤優花も人体実験の被験者だったからだ。
 優花はいまもその心に傷をおって生きている。だから彼女と同じような犠牲者を出さない。悲劇を繰り返したくない。
 そんなことをいつも胸に秘めていた勇平は、エリザベートがふと洩らした「もしかしたら、迷子の生徒たちは悪い科学者に捕まって人体実験の材料にでもされちゃったりするのかもしれないのですぅ」という言葉を聞いた時から怒りが収まらなかった。

「覚悟しろッ!」

 勇平が怒りのこもった声を発する。
 すると焦った助手のひとりが、テーブルの上に置かれていた拳銃を手にした。
 だが次の瞬間――銃声が響き、助手の手から地面へと拳銃が落ちる。

「おっと、抵抗するなよ。抵抗するなら容赦なく撃たせてもらうぜ」

 そう言ったのはザカコ・グーメルのパートナーである強盗ヘル。
 構えている機晶スナイパーライフルの銃口からは白煙が上がっている。
 そんなヘルに続くように、次から次へと他の仲間たちもやってきた。

「これはこれは……皆さんお揃いで」

 だが白衣の男は余裕の表情を浮かべる。
 そんな白衣の男に向かってシェイド・クレインが言った。

「ヘタな演技はやめて、観念したらどうです?」
「クククっ、そうですねぇ。どうしましょうか?」
「……その様子では、大人しく捕まる気はないみたいですね」

 スっと目を細めたシェィドはさらに続ける。

「いいでしょう。では、あなたが気を失う前にひとつ聞かせてください。外にいる怪物を止める方法はあるんですか?」
「N‐1のことですか? それなら無理だ。アイツは僕の命令しか聞きませんよ。僕はアイツの神なんですからね……」

 クククっ、と低い笑い声を上げながら、白衣の男は血走った目を契約者たちに向けた。
「人を憎んで牙を剥いていた野良犬だったアイツを拾って、人や獣、魔物までをも喰らう力強きキメラにしてやったのがこの僕です。
 そんなアイツにとって僕は神にも等しいのでしょう。だから僕の言う事しか聞かない。止めるなど、無理な話だ!」
「キメラ……」

 白衣の男の言葉を聞いていたミレイユ・グリシャムは思わずつぶやく。
 彼女には仲の良いキメラがいた。そのキメラの事が思い出され、彼女の中で怒りの炎が燃える。

「キメラにも心があるんだよ……!」

 静かだが怒りを湛えた声でミレイユが言った。
 すると白衣の男が下卑た笑い声をあげる。

「心ですか!? あんな化物に心があると……! これは傑作だァッ!!」

 ミレイユは白衣の男を睨みつける。

「きっとその子は、助けてくれたり優しくされたりして嬉しかったんだよ。だからあなたの言うことだけは聞くんだよ。
 神様だからとかじゃなくて、嬉しかったから、自分を必要としてくれたから――!」
「フンっ、くだらない!」

 ミレイユの話を遮って、白衣の男は言葉を吐き捨てる。
 そして苦々しい表情を浮かべたまま言った。

「おしゃべりはもう終わりにしましょう」
「――賛成ですね」

 と、白衣の男の背後から声が聞こえる。
 その声に驚いた白衣の男は後ろを振り向こうとした。
 だがそうする前に、白衣の男は突然地べたに押し付けられるように倒れ込む。
 すると、光学迷彩で姿を隠していたザカコ・グーメルが、白衣の男の上に馬乗りになった状態で姿を現した。

「下手に動かないでください。動けばどうなるかは保証はできませんよ」

 ザカコはそう言いながら、白衣の男の首筋にカタールを当てる。
 そして周りの助手たちにも大人しくするようにと警告した。

「これで終わりね。あとは私にまかせて」

 フレデリカ・レヴィはそう言うと、首から下げていた封印の魔石を手の平の上に置いて瞳を閉じた。
 そして封印呪縛の呪文を唱え始める。
 彼女はこの魔石の中に白衣の男を拘束して、連れ帰ろうとしているのだった。