百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

優しい誘拐犯達と寂しい女の子

リアクション公開中!

優しい誘拐犯達と寂しい女の子

リアクション


第四章 仲直りと新しいお友達 


「……ふぅ」
 子供達の無邪気な攻撃をたっぷりと受けたちびっこ姿のアキラは疲れのため休憩中。疲れ過ぎてまだベンチに移動出来ず、地面に座り込んでいる。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
 智知が心配そうにアキラの様子を見に来た。
「おう、これぐらい何でもないぜ」
 疲れ顔を引っ込めて元気な笑顔で小さなお友達に答えた。
「よかった」
 そう言って智知は、アキラの隣に座った。
「……大丈夫かな」
「おまえの友達もすぐに帰って来て先生も笑顔になるって」
 何度も絵音の両親に頭を下げ、通報はしないでくれと待ってくれと訴えているナコを智知は心配そうに見ていた。そんな彼にアキラはくしゃりと頭を撫でながら励ました。

 絵音捜索が始まってからずっとベンチで賑やかに五人組のヒーローについて熱く語る三人の男の子がいた。

「シュウヤ君、こういう感じで登場するんだ」
「……アル君、面白いの?」

 地球人の少年がいつも持ち歩いている図鑑に載っているヒーローのポーズをとり、いかに格好いいかを表現している。ちなみ、地球人の少年アルリッヒは、雪だるま騒ぎでイリアにヒーローの氷像を頼んだ子供だったりする。

「分かってないなぁ。必殺技なんかすごくかっこいいんだぜ」
 ヴァルキリーの少年がこれまた熱く五人組の必殺技の素晴らしさを語る。
「……すごいんだね」
 シュウヤは手に持っている自前の本を側に置いてアルリッヒの図鑑をぱらりと眺めた。読書好きな彼は、最近仲良くなった二人のお気に入りの番組を見たことが無いのだ。

「この話の怪人、すげぇ強くてかっこよかったんだぜ」
 ヴァルキリーの少年ウルトも持って来た放送された第一話から第三話をまとめたフィルムコミックを見せながら説明する。
「……ウル君もすごいなぁ」
 今度はウルトの本を見ながら声を上げた時、公園に入って来るノアを発見した。

「あ、絵音ちゃんは見つかった?」
 シュウヤは、近くに来たノアに聞いた。
「うん、見つかりましたよ」
 とりあえずノアは見つかったことだけを報告し、誘拐犯については口を閉じていた。
「……でも、絵音ちゃんいないよ。そっくりの写真があったから誰かと一緒かな?」
 ノアの横に絵音がいないことに気付き、彼女にそっくりの写真が落ちていたことから自分達に伝えられていないことに考えを巡らせる。
「そういうところです。でも、すぐに帰って来ますよ。ナコ先生はどうしてますか」
 ノアは賢いシャンバラ人の少年に頷き、公園の状況を聞いた。
「ずっと、絵音ちゃんのお父さんとお母さんと話してるよ」
 シュウヤはナコ達の方を向きながら説明した。
「……そうですか」
 殺伐とした雰囲気に話に行くのはもう少し後にしようと決めた。
 
「姉ちゃん、これ知ってるか? シュウヤは知らないんだぜ」
「最近、早朝に放送してる」
 ウルトがフィルムコミックを手にノアに五人組ヒーローについて話し出した。
 優しいノアは、フィルムコミックを見ながらたまたま見かけたことを思い出していた。

「ボクなんか誕生日に一緒に写真を撮ったんだよ」
 アルリッヒがとっておきを取り出した。彼も絵音と同じようにお金持ちの子供なので両親が彼のためにヒーロー五人を呼んで写真を撮ったのだ。写真は一生の宝物にしている。

「いい思い出ですね」
 今度は写真を見て嬉しそうにしているアルリッヒに言った。

「シュウヤのその本、面白いのか?」
「面白いよ」
 ウルトがシュウヤの側にある本が気になって訊ねると彼は即答した。

「分厚い本ですね」
 写真を持ち主に返した後、かなり分厚い本に興味を持った。

「うん。お父さんに買って貰ったんだ。これがね、地図なんだ」
 折り込みにある地図を広げた。事細かに国名や地名が記されたりしていてかなり世界観が作り込まれた長編ファンタジー小説の前編。
「へぇ、すごい本を読むんですね」
 ぱらりと中身を確認すると5歳児が読むには難しい表現があったりする内容に驚いた。

「ちょっと、ナコ先生と話して来ますね」

 子供達と一通り会話をした後、ナコに報告をするため行こうとしたら新たな二人に呼び止められた。

「……今はどうなってるんだ?」
「絵音ちゃんは?」

 何とか復活したアキラと智知がノアを見かけてやって来たのだ。

「もう少ししたら戻って来るはずです。事故で亡くなった妹さんと勘違いして連れ去ったみたいです」
 ノアは、相手が園児ではないので入手した情報そのまま伝えた。
 途端、アキラの表情がおかしくなった。
「……妹と勘違いか」
「何かありましたか?」
 何かあるのかを察したノアは聞いた。

「あぁ、少し前にナコ先生に電話があって迷子になった絵音を民間人が保護したとか、帰りたがるために時間が欲しいとか言われたらしくてな」

 少し前に洋からかかってきた電話のことを話した。その電話でいっそう両親に責められていたりするのだが。

「……情報が少し違いますね。もしかして、誘拐犯のためにわざとそう言ったのかもしれません」
「だと思うぜ。ナコ先生が写真を見せようとしてもそんなもんどうでもいい、娘を出せって見ていないしな」

 ノアは、違う情報を伝えた理由を推測し、アキラもその推測に同意した。
 アキラはずっと公園にいて子供達の相手をしながら時々、ナコ達の様子を確認していたのだ。

「だったら、妹と勘違いしては言わない方がいいですね。何より連絡がいっているのでしたら」
 報告をやめた。自分が報告して事態が混乱するのを避けることにした。違う情報を流すということは誘拐犯はそれほど悪い人ではないだろうし、何より綾瀬とドレスに加夜も現場に向かっているのだから。

「よし、また遊ぶか」
「うん」
 状況の確認を終えたアキラは智知を連れて再び遊び回った。
 ノアはまた三人の少年の大好きなもの談義に巻き込まれた。