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第三章 ランブルマッチ

『さぁさぁ間もなく始まりまります! この試合、最後まで生き残るのは誰になるのでしょうか! 実況は蝙蝠獣人のウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)がやるぜ! よろしくな!』
『解説を務める長尾 顕景(ながお・あきかげ)だ。今日は面白い試合になることを期待しているよ』
『この試合のルールを今一度おさらいだ! 試合開始時の人数は2人! だが一定時間経過すると新しく選手が入場してくる!』
『フォールされたり、ギブアップしたら選手は試合から抜ける。そうして最後に残った1人が勝者となる』
『今回参加する選手は総勢10人! まさか2桁集まるとはな!』
『尤も一番驚いたのはこの試合の発案者らしいがな。『ぶっちゃけ3人集まればいーや』とか考えていたらしい。そして『なんで俺はこんな形式考えたんだぁぁぁぁ!』と嘆いていたようである。あまりに滑稽だね』
『……何の話をしているんだお前は。まぁそれはともかくとして、最初の2人の入場だ!』

 まず初めに入場ゲートを潜って現れたのは、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)であった。手には分厚い鉄板を持っており、高々と掲げてアピールする。

『おぉっと、これまたすごい物を持ってきたな! この試合も勿論ハードコアルール! 凶器の持ち込みは自由だ!』
 
 だが、勇平はその鉄板の端を掴むと、紙屑のように折り畳み始める。あっという間にぐしゃぐしゃに丸めると、それをぽいと放り投げた。がしゃん、と地面に落ちる音が、それが偽物ではなく本物の鉄板である事を示していた。

『なんと! 鉄板をぐしゃぐしゃに丸めちまったぜ!』
『この力が凶器、と言いたいようであるな』
『さあ続いて入場するのは、ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)だ!』
『ふむ、あまり気乗りしない表情だな』

 続いて入場ゲートを潜ってきたのはソフィア。言うとおり、表情は明るくない。

『対してセコンドの大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)はやけにノリノリだよな』
『今回参加させたのはセコンドらしいからな。それは楽しみだろうよ』

 顕景の言う通り、ソフィアの出場理由は募集を見た剛太郎の思いつきのような物であった。試合数日前からトレーニングを受けさせられ、リングでの戦い方を叩きこまれる羽目になったのだ。
「いいか、お前はマシンだ。その機械の身体を上手く使え。出るからにはすぐに負ける事は許さん。ある程度は勝ち残れ」
「はいはい、わかってますわよ」
 剛太郎の言葉に、少しうんざりしたようにソフィアが言う。
「その代り勝ち残ったらイイ物買ってやるから」
「……絶対ですわよ?」
 ご褒美につられている所を見ると、どっちもどっちなところがある。

『さあリングに2人が上がった! この試合のレフェリーはルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)! そしてルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)!』
『今回のルールは場外でもフォールとギブアップが適応される。参加選手も多いからその対策の為だ』
『注目の試合、今ゴングが鳴り響くぅぅぅぅぅッ!』

 試合が開始され、ソフィアはアマチュアレスリングの構えを取った。練習を受けたとはいえ、付け焼刃の技術。積極的に攻めるのではなく、受けに回り隙を見てフォールを狙う作戦であった。
 対して勇平が取った行動は、全力全霊のKO狙い。積極的にソフィアを攻め立てる。
「オラオラァ!」
「くっ……」
 執拗に狙われるボディブローに、ソフィアが顔を顰めた。隙を狙おうにも、後先を考えない攻撃ではダメージを受けないようにするので精一杯。
「はっ!」
 時折相手の頬を張るなどするが、勇平は怯むことなくボディブローを叩きこんできた。じわりじわり、とダメージという毒がソフィアの身体を巡りだす。
 試合開始から数分が経過し、既にソフィアの息が切れだす。

『ソフィア選手、既に疲労が出てきてますね』
『結構なダメージを受けているからな。このままだと拙いだろう』

 だからと言ってソフィアも黙っているわけではない。一瞬の隙をつくと、勇平の背後に回り込みスリーパーホールドで絞め上げる。
「あまり調子に乗らないでほしいですわね!」
 勇平が苦しさから、顔を顰めた。

『ははは、苦しそうではないか……お? どうやら次の選手の入場が始まるようであるな』
 顕景が言うと、会場にブザーが鳴り響く。その直後、入場ゲートから何者かが現れる。
『3番手の選手は虚弱体質の探検家! ガラスの身体でリングに上がって大丈夫か!? 『ザ・ネバーデッド』ジロー・ザ・ヒリアーこと、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)入場ッ!!』

 入場ゲートを潜り、迷彩柄のハーフパンツとフェイスペイントを施した風次郎がゆっくりとリングへと歩み寄る。
 そんな中でも、リング上では試合は続いている。
「ギブアップ!?」
「の、ノー!」
 ルーシェリアの言葉に勇平が叫ぶ。それでもソフィアの手は緩まない。
 苦し紛れに、勇平は絞め続けるソフィアごと後ろへと下がる。ロープの反動を利用し、ソフィアを力任せに投げて技を解くつもりであった。
 そのままロープへともたれかかった瞬間、
「おぅッ!?」
リングに上がろうとしていた風次郎と衝突。そのまま風次郎はリング下へと転落してしまった。
「ぐはぁッ!?」
 段差に弱いスペランカーの風次郎は、そのまま仰向けで倒れたまま動かなくなる。

『ジロー・ザ・ヒリアー! リングに上がる前に死んだぁぁぁぁぁぁぁ!』
『流石スペランカー! これは笑わせてくれる!』


「……あの、これどうした方がいいですかねぇ?」
 困ったようにルーシェリアが風次郎を指さしながら言う。
「ふむ、スペランカーならすぐに復活するじゃろうて。放っておいてもいいじゃろう」
 それに対し、ルファンは顎に手を当てつつ答えた。
「……っておい! こっち見ろよ!」
 一方、投げて技を解いた勇平は倒れたソフィアをボー・アンド・アロー・バックブリーカー、所謂弓矢固めで締め上げていた。
 鉄板を曲げる腕力で締め上げ、ギブアップを狙うがレフェリーが風次郎に気を取られてしまっている為全く見ていない。
 その隙に、ソフィアが放電する。
「うぉっと!?」
 電撃に思わず勇平は手を放してしまい、技を解いてしまう。
「くっそー……ギブアップ狙えると思ったのにぐぁッ!?」
 悔しそうに勇平が呟く。直後、いつの間にかリングに戻った風次郎が持ち込んだ長机で後ろから殴られた。
「さっき一回殺してくれた礼だ。今の内返しておいたぞ」
 予想外の攻撃にふらつく勇平。それを好機と見たソフィアが、素早く勇平の頭を抱えるとそのまま後方に倒れ込む。DDTで前頭葉を叩きつけられ、仰向けに転がる勇平をソフィアが抑え込む。
「カウント! 1……2……3ッ!」
「くそっ!」
 勇平が跳ね上がり肩を上げるが、それはルーシェリアがマットを3つ叩いた後。ゴングが鳴った。

『カウント3! 最初の脱落者は勇平だ!』
『中々面白いじゃないか。何が起こるかわからない』
『お前本当に面白そうな顔してるな……おっと、そう言っている内に次の選手が入場してくるぜ!』
 ブザーが鳴り響き、入場ゲートを潜って現れたのは――
『お子様が居る家庭は今すぐチャンネルを変えろ! お客様はお気を付け下さい! これから変態……いや、変熊が来るぜ!』

「ハァーッハッハッハッハ! さあ観客よ! 美しい俺様を存分に見るがいい!」
 変熊 仮面(へんくま・かめん)が高らかに笑い、花道を歩いてくる。両腕を広げ、マントを翻し自慢の肉体を曝け出していた。

『……あ、今日はレスラーパンツ履いてるのか』
『当たり前だろう……それより、隣で観客に悪態ついているアイツはなんだ?』
『あー、セコンドのにゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)だな』

「ぺっ! ぺっ! 寄るな、にわかファン! グッズ買え! グッズ!」
 観客に向かいつばを吐くにゃんくま仮面であるが、可愛さに観戦席からは黄色い声が上がる。可愛いは正義。
「可愛さばかりに目を向けるとは愚かな! 観客共、俺様の勇士を目に焼き付けろ!」
 そう叫ぶと変熊は一気にコーナーポストを駆け上がり仁王立ちになる。そしてマントを投げ捨てると、そのままムーンサルトで飛び、
「ぐぇっ!?」
顔面から自爆した。

『……見事な自爆だなー。あ、顕景は今の見て笑い堪えるのに必死だからちょっとの間喋れないわ』

 盛大な鼻血を流しつつ、変熊が立ち上がる。
「……おい! 普通誰か受け止めるだろうが!? ショーなんだからさぶぉッ!?」
「……グレーゾーン発言は鉄拳制裁になるですぅ」
 危ない発言をした変熊を、ルーシェリアが殴った。グーで。ちなみにこのショー発言はプロレスファン的にアウトであるので発言してはならない。
「そなたが選手を攻撃してどうするのじゃ」
 呆れたようにルファンが呟く。
「おいそこの女レフェリー! この危ないレフェリー止めろ!」
「ん? 女レフェリーとはわしか? 失敬な、わしは男じゃぞ」
「なん……だ……と……」
 ルファンの言葉に、愕然となる変熊。
「……何だろう、アイツとは戦いたくない、というか近寄りたくない」
「わたくしも同感ですわ……」
 風次郎とソフィアが呟いた。
「ふっふっふ……こいつは楽しくなってきた……」
 セコンドと言いつつもほぼ観客に近い剛太郎は、この状況を楽しんでいた。

『……ああ、本当に愉快だ。笑えるよ』
『お、顕景が復活したようだ。そんな状況だが、もう次の選手の入場が始まるみたいだな……っておぉ!?』

 ブザーと共に、入場ゲートを潜りぬけてきたのは――
「ふはははは! 某ロボ学のマッドサイエンティスト、那由多が生み出したSSイコン、イコン仮面の入場であるぞ〜!」
ビームサーベル(蛍光灯)を振り回す阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)、その後ろからはカスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)を身に纏い、小さいイコンのような外見をした斎賀 昌毅(さいが・まさき)が入場してくる。
「むぅ……あまりこの姿で人前に出たくないんじゃがのぉ」
 歓声を浴びつつ、カスケードが呟く。
「まあまあ、子供がいたら喜ぶぜ?」
「……なら仕方ないのぉ」
 昌毅の言葉に、カスケードは渋々といった様子を見せた。

『へ、変態の次はイコンだとぉ!? アリかよそんなの!?』
『ははは、本当に何でもありではないか! 面白くなってきたであろうよ!』

(現在試合参加選手:4名 脱落者:1名)