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 買い物帰りに、ふと耳にした紫桜のお花見会。
「昴、紫桜だってよ。ちょっと見に行ってみないか?」
「え、でも片付けが……」
「後でいいだろ。俺たちの時間は、これからたっぷりあるんだから」
「……そうですね」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)九十九 昴(つくも・すばる)は、連れだって会場へと歩き出す。
 手には、たくさんの買い物袋。
 二人で使うための、お揃いの箸、ペアのグラス。
 昴が選んだ、唯斗の着物。
 二人の、新しい暮らしを迎えるための夢と希望が詰まっている。
「不思議……でも、とても幻想的で、綺麗です」
「ああ。昴と一緒だからってものあるんだろうけどな」
 肩を寄せ合い、ひとつの桜を見上げる。
 しばらく桜を見ていた昴は、唯斗の方を見る。
 気になっていたことを質問するいい機会だと思って。
「唯斗さんは、どうして忍びになったのですか?」
「んー? そういや言ってなかったっけ」
 自分を見上げる昴の瞳を真正面に受け止める唯斗。
「最初は格闘家として鍛えてたんだけど……」
 二人の上に、紫桜がちらちらと散る。
「……そんで、陰陽道とかいろいろ齧ってたら忍術ってのが総合的に使いやすくてな。俺の戦闘スタイルにも合ってたみたいでずっと使ってたらいつの間にか忍者やってたって訳」
 そこまで言うと、唯斗は苦笑しながら頬をかく。
「いや、我ながら適当な忍者だね」
「そんなことありません」
 隣りで、真面目な声がした。
「唯斗さんの事を、私は知ってますから」
 真剣な表情でそこまで言うと、にこりと笑った。

 少し歩いても、まだ紫桜は見えていた。
 そこで、唯斗はふと足を止める。
「?」
 不思議そうな顔で見上げる昴に、唯斗は急にもじもじと、鼻をかいたり懐を探ったり、挙動不審になる。
「あー、うん。けじめというか、ちゃんと言わせてくれ」
 居住まいを正す。
「昴。来週からは一つ屋根の下、よろしくな」
 それだけ言うと、照れ隠しのように昴の頭をぐりぐりと撫でる。
「唯斗さん……」
 昴が手を伸ばす。
 唯斗の花粉避けのマスクを外した。
 ぶぉっと、昴を中心に風が舞う。
 それに隠れるように、昴の唇が唯斗に重なる。
 しばらくの間、そのままで。
 やがてゆっくり離れる、二人。
「……風術で、唯斗さんも守っていましたから。マスクがなくても花粉を吸い込まなかったと思います」
「……いや」
 昴の言葉に、唯斗が小さく笑う。
「少し、吸ったよ――」
 身を寄せる。
「試してみるかい?」