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お花見+スライム

「本当に珍しい色の桜ですね。護衛として連れて来ていただいて感謝しています。紫は、私が大好きな色なので大変嬉しいです」
「あ、あぁ……」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、桜よりも、マスターであるベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の方にばかりに注意を払っていた。
(護衛じゃなくて、デートのつもりだったんだがなぁ……)
 桜の下でフレンディスとデート。
 更には、桜の効果を狙って彼女との関係の発展を!
 そんな下心もあって、ベルクの方も桜はほとんど見ていなかった。
「ん……」
 暫く歩いているうちに、フレンディスの様子がおかしいことに、ベルクは気づいた。
 顔を赤らめ、もじもじとこちらの様子を伺ったり、しかしベルクが彼女の方を見るとすぐに視線を逸らしたり。
 これは、早速桜の花粉が効いてきたか!?
 さあ来いとウェルカム状態のベルクを余所に、フレンディスの内心は大変なことになっていた。
(これは……これは、どうしたことでしょう)
(マスターに、甘えたい。お側に行って、その手を……あぁあっ、そんな、はしたない)
(人前でそんな真似なんて……うぅ、我慢、我慢です)
「フレンディス」
「は、はい、マスター」
「何なら、もっと近くに来てもいいんだぜ?」
「い、いえっ、そんな事は……!」
 ぼふっと顔に血を上らせ、ついでに超感覚まで発動して尻尾まで生やしてしまうフレンディス。
 彼女の言動とは別に、その尻尾は思いっきりぱったぱった振られている。
 必死で自分の気持ちを押し殺していたフレンディスは、だから、気づくのが遅れた。
 足元まで迫っている、青い不定形の物体に。
「にょ」
「え?」
「にょ、にょ、にょにょにょ」
「え……あ、や、やあっ」
 いつの間にか、フレンディスの足元はスライムに絡め取られていた。
 それだけでは飽き足らず、フレンディスの身体の方へと侵略をはじめるスライム。
「そ、そんな、今の状況で来ないでくださいっ。マスターの前で……っ」
「にょにょー」
「お、おおおー……」
 なんとかスライムを引きはがそうとするが、相手に敵意がないのを見て取って攻撃的な手段には出られないフレンディス。
 次第に、スライムのなすがままに“甘えられて”いく。
 最初は助けようと近づいたベルクだが、常日頃には見られない彼女の様子についつい救助の足を止め、見入ってしまう。
「あ……や、マスタ、見ないで……」
「あ、ああ、今助けるぞ」
「……やっ……」
「ん?」
 荒い息の中から、フレンディスの途切れ途切れの言葉が聞こえた。
「マスター以外は、いやぁ……」
「ふ……フレンディス! 今助ける!」
 我を忘れ、スライムの中に飛び込んで行った。