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お花見その2(雅羅たち)

 おにぎりに卵焼き、エビフライにハンバーグ。
 いつもより多めに作ったお弁当を手にした音名瀬 清音(おとなせ・きよね)は、花見客の中に知っている顔を見つけて微笑んだ。
 雅羅・サンダース三世。
 パラミタに来たばかりでまだ不慣れな清音を学園に案内してくれた恩人だ。
 こんにちはと声をかけようとして、清音はう、とその言葉を飲み込んだ。
 雅羅の周囲には、たくさんの友人たち。
 おそらく手作りだろう、弁当を広げて雅羅に勧めているのは四谷 大助(しや・だいすけ)
 それにあれこれ文句をつけている少女たち。
 飲み物を配っているのは想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)
 雅羅の隣でおしゃべりに興じているのは白波 理沙(しらなみ・りさ)
「雅羅さん、お友達いっぱいいるのねぇ……」
 そこに自分が混じってもいいものかどうか、少しの間躊躇する。
「あら、あなた先日会った子ね」
 そこに、声がかけられた。
「あ、雅羅さん……」
 清音の手に抱えられたたくさんの弁当を見て、雅羅は少し笑って言った。
「もしよかったら、一緒にお花見しない?」
「はい。あの〜ぅ、先日はぁ、迷っているところを助けていただいてありがとうございましたぁ」
 やっと言えた。
 そのままバスケットを手に、雅羅に差し出した。
「よかったら、何か食べませんかぁ?」
 その時。
 ぴゅぅう〜。
 突風が吹いた。
「ふぁ……雅羅さぁ〜ん」
「ちょ……!?」
 ふらふらと雅羅に近づき、背後から抱き着く清音。
「やだちょっと雅羅ちゃん、大変じゃない」
 清音に甘えられて困惑している雅羅に、瑠兎子が近づいてきた。
「そんな雅羅ちゃんにちょっとお願いがあるんだけど……ほら、夢悠」
「え、なになに?」
「何かしら?」
 マスクをした夢悠を、雅羅の正面に立たせる。
「雅羅ちゃんは夢悠の肩を抑えてて。そう」
「こう?」
「えいっ」
 首を傾げている雅羅の目前で、瑠兎子は夢悠のマスクをはぎ取る。
「あ……」
「え……」
 夢悠の表情がとろんと蕩ける。
「雅羅お姉ちゃ〜ん」
 後ろには清音がくっついているので、真正面から抱き着く夢悠。
「ねぇ、雅羅お姉ちゃん。オレ良い子かな? ねえねえ」
「よ……良い子、なんじゃないかしら?」
「やったー! 雅羅お姉ちゃん、大好きー!」
 ぎゅむぅっ。
 夢悠の腕に力が籠る。
 むちゅっ。
 夢悠の顔が雅羅の胸に埋まる。
「きゃ、ちょ、ちょっと……!」
(ぅおーっしゃ、夢悠、ナーイス!)
 こっそり録画用のカメラを抱えつつ、瑠兎子はひとりガッツポーズ。
 夢悠の決定的瞬間を録画して、後々の脅しの材料に使う予定らしい。
 ついでに、雅羅の困った様子も見られるので趣味と実益を兼ねてます!
(うふふふふ、慌ててる慌ててる。いいモノ見えた〜)
 ひとしきり撮影すると、瑠兎子はカメラをしまう。
 そしてこっそり後ろから雅羅へと近づいていく。
(いよいよメインディッシュ。マスクを外して、雅羅ちゃんはワタシに……うふふふふ。お姉さんとして、可愛い妹を甘えさせちゃうぞー!)
 笑いを堪えて雅羅のマスクのゴムに手をかけた時。
「なぁあああにやってんだコラぁ!」
 ばちこーん!
 大助が夢悠をどついた。
 そのまま崩れ落ちる夢悠。
 そして雅羅のマスクが外れ……
「ん……大助……」
「あー! そこワタシの位置ーっ!」
 雅羅が大助の腕にしがみつく。
 まるでラッシュ時の電車のような窮屈な動きで。
 それもそのはず。
「むー、雅羅さん、だめよ! 大助は私の従者なのだから」
「よしよし大助ー。ボクに甘えてもいいんだよ」
「マスター、七乃にも七乃にもぉっ!」
 大助には、既に三人の少女がくっついていたのだ。
 雅羅を入れて四人。
 ハーレムなんてもんじゃない!
「ちょっとぉ、欲張りすぎでしょ!」
「いや、その、オレが好んでやってるわけじゃ……」
 瑠兎子の文句に、風邪気味の為マスクをしたままの大助が困ったように告げる。
 大助を従者扱いし、無断で花見を決めた挙句、準備も弁当も全部彼に押し付けたグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)は大助の真正面に抱き着いている。
「今日は一日中あなたの側にいてあげるんだから! ありがたいと思いなさい」
「あー、ありがたいありがたい」
「ご主人様の命令よ! このお弁当、『あーん』で食べさせること! いいわね」
「はいはいわかったよご主人サマ。ほら、あ、あーん」
「あーん」
 グリムゲーテの言葉に逆らわず素直に返していた大助は、弁当の卵焼きを箸で持ってグリムゲーテに運ぶ。
 あーん、の言葉が若干震えていたのは、照れもあるのだろうか。
「先輩兼相棒のボクがたっぷり可愛がってあげよう。遠慮しなくてもいいのだよ」
 大助の腕にしがみつき、べたべたと大助を撫でているのは白麻 戌子(しろま・いぬこ)
 パーカーについているわんこ耳が、その度にぴくぴくと揺れる。
「いや、別に……」
「つれないねぇ。ほらほら、ボクにもあーんってしれくれたまえ〜。相棒なのだろう? これくらいベタベタしててもおかしくないだろう?」
「ええい鬱陶しい!」
 べたべたとくっつく戌子。
 甘えさせてやるとか言いつつ、思いっきり自分の方が甘えている。
 温和な大助の言葉もついつい荒くなる。
「相棒なら相棒の気苦労くらい察しろよワンコ!」
「ぎゃうん!?」
「ますたー、ぎゅーってしてください」
 大助の背中に張り付いているのは四谷 七乃(しや・ななの)
 そのまま背中に頬をこすりつける。
 やがて背中を堪能したのか、大助に要望を言い始める。
「マスター、わんこさんとグリムさんと雅羅さんばっかりズルいです! 七乃にも『あーん』!」
 必死で口を開けるが、場所取りの不利さ、後方なので大助はすぐには反応できない。
 それでも七乃はめげない。
「ますたー、ぎゅーです、ぎゅー。肩車もしてほしいですよー!」
「あぁ、くっついたら危ない! 『あーん』だな。ほら、『あーん』……って口の周りべたべただろうが……ったく」
「うーん、七乃嬉しいですー」
 ぴょんぴょん跳ね回る七乃。
「じゃあ次は私の番ね。そこのカニさんウインナーがいいな」
「ま、雅羅まで……」
 大助の腕に絡みついたまま、雅羅が口をあーんと開ける。
「ま、マズいよ雅羅。そんなに甘えられるとオレ……」
「……迷惑?」
「いや、全然そんな事は! 嬉しいよ、嬉しいけどさ……」
「どーん!」
 大助が、どつかれた。
 雅羅以外に大助にくっついていた少女たちと共に、大助は派手にひっくり返った。
「……迷惑だったようだから、私が変わってあげるわね」
 理沙だった。
 頭部には怒りのマークが視覚化できるほどはっきり浮かんでいる。
「あ、いや決してそんな事は……」
「さあ雅羅、私が食べさせてあ・げ・る。はいあーん」
「うふ……あーん」
 理沙が差し出したウインナーを口を開けてぱくりと食べる雅羅。
「ん。おいしー」
「そう、良かった」
「あのそれオレが作った弁当なんですけどー」
「うん、マスターのご飯とってもおいしいですー。あーん」
「もう、大助は私だけの従者なんだから! 次はまだなの!? あーん!」
「相棒としてあーんしてあげよう!」
「あ、えーと……」
 大助の前にずらりと並ぶ、雛鳥のようにぴいぴいと口を開けるパートナーたち。
「ほらあなたは他の子の相手で忙しいでしょ! 雅羅の相手は私がしてあげる」
「嬉しい……」
 理沙の肩に顔を埋める雅羅。
 顔のすぐ横にある雅羅の頭を、かいぐりかいぐり撫でまくる。
「ん。なでなで、好き」
「もっとしてあげようか?」
「うん」
 きゅっと理沙に抱き着く雅羅。
「雅羅……」
「雅羅さん……」
「雅羅お姉ちゃん……」
 雅羅の腰には、清音と夢悠が抱き着いたまま。