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【第二章】6

 「ああっ! 触らないで下さいませ! きゃっ! いやあああああぁん」
 如何にもお色気担当と言った感じで悲鳴を上げているのは、本当に何時もお色気担当お世話様な泉美緒だ。

 事件が起こって試着室から飛び出した時、雅羅やジゼル、アリサ達はすかさず追ってきた15人近い強盗達を分散させようと、
 バラバラに逃げようと打ち合わせて四方へ走り出した。
 しかし美緒はその際に全員とはぐれてしまった。強盗達の殆どが彼女に狙いを付けて追いかけてきたからだ。

 理由は明白。
 彼女のはち切れんばかりのバストの強盗達が彼女に集中して狙いを定めたからだった。
 強盗に追いかけられ、必死に走る美緒のバストが上下にたゆんたゆんと揺れるたび、強盗達の目は蒲鉾型に歪んで行く。
 伸びてきた手に触られそうになるのを避け、抱きつかれそうな所を寸ででかわし、商品の棚の後ろに隠れたりしながらなんとか残り5人まで振り切ったが、このまま逃げ切るにも美緒の体力は限界に近付いている。
「このままじゃ埒が明きませんわ、何処かに隠れなきゃ」
 美緒が何処かに隠れようと左右を見まわした時だった。
「ぎゃ!!」「ぐえっ!」
 聞こえてきた声に振り向くと、強盗団の二人が倒れている。
「お、おい。どうした!?」
 仲間達は何が起こったか分からず、倒れた二人に気を取られていた。
 今なら逃げられる。美緒がそう思った時だ。
「美緒ちゃん、こっちよ!」
 何処からか声が聞こえた気がしたと思ったら、今度は誰かに腕を引かれるように引っ張られる。
「え? え?」
 なされるがままに腕を引かれて走って行くと、文房具や玩具がごちゃごちゃとディスプレイされたファンシーショップのカウンターの中へ連れてこられた。
 天井には縫いぐるみがのせられたハンモックが飾られ、カウンター自体もポスターや大きなフィギアで周囲をぐるりと囲まれているので、座ってしまえば一見すると中に人が居る様に見えない。
「ここまで来れば大丈夫」
 声と共に現れたのは筑摩 彩(ちくま・いろどり)だった。
「隠形の術で姿を消してブラインドナイブズで攻撃したの。
 トラッパーも掛けたから暫くはここに人はこないはずだよ」
「ありがとうございます、本当に助かりましたわ」
「どういたしまして。やっぱり美緒ちゃんは……こういう時も大変だよね」
 彩がそう言いながら視線を送ったのは美緒の顔、そして胸元だ。
 服の上から一目見て分かるほど常識を超えるその大きさを初めて目にした時、普通サイズの自分と違って色々苦労が多いだろうと思っていたが、まさかこんな事までとは。
「美緒ちゃん可愛いから、明らかに狙ってたよね」
「はあ……たまに嫌になりますわ、この胸」
 ――あれ? ちょっと違うんだけど……
 彩は顔の事も言っていたのだが、美緒は胸の事だと勘違いしたらしい。
 確かに胸が大きい友人達かか「重い」とか「肩こる」とか「汗疹が出来る」とかそんな苦労話しは聞いた事はあるけれど、こちらからすれば普通に憧れしかなかったのものなのに、美緒の顔を見る限りそうではなさそうだ。
「はい。ブラジャーのサイズも通常販売してないですし」
「え!!? じゃあどうやって買うの?」
「基本的に特別オーダーですわ。
 それに既製の物だと柄が余り可愛くないんですの」
「成程。それは女の子にとって大問題ね」
「……今日は初めてお店でこのサイズを売っているのを見て感動していたんですの。
 なのにこんな事になるなんて……」
 しゅんとしている美緒を見ていると、彩の胸はなんというかきゅーっと掴まれたような気持ちだった。
 彩の中に芽生えるこれがどういう感情なのかは良く分からないけれど、兎に角彼女を助けてあげたい。と素直に思った。
 そして彩は自分の特技で出来る一つの解決策を導きだしていた。
「……私が作ろっか」
「え?」
「筑摩彩ブランドでオーダーメイド。
 ブラジャーはまだ作った事がないから最初は上手く行くかわからないけど、ちゃんと勉強する」
「本当に?」
「うん。解決してあげたいって思ったの、美緒ちゃんの悩み。
 当たり前に、服とおしゃれば好きな一人の女の子として」
 彩の手が隣に座っていた美緒の手をそっと握った。
 ――力になってあげたい。
 彩の温かい心が美緒を包み込む。
「彩様……」
 ふと気付くと、美緒は彩の手を握り返していた。
 喜びと共にどっと疲れが襲ってくる。
「はぁー……」
 深呼吸をする美緒を覗きこんだ、彩は優しい微笑みを向けていた。
「ちょっと休も?」
「……はい」
 美緒は彩の肩に頭を預けると、疲れきっていたその羽を優しい少女の元でゆっくりと休めた。