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【第二章】8

 その日、大好きな高柳 陣(たかやなぎ・じん)ティエン・シア(てぃえん・しあ)木曽 義仲(きそ・よしなか)の四人で買い物に来ていたユピリア・クォーレ(ゆぴりあ・くぉーれ)は、
その容姿の美しさから事件が起こると瞬く間に強盗達に囲まれてしまった。
 ピンク色をベースに黒のレースが入った挑発的なベビードール姿に、強盗……いや男達の鼻息は荒く、顔も真っ赤に上気している。
 ユピリアの白くしなやかなやわ肌に、節くれだった太い指が伸びてくる。
 ピンク色の紐に無骨なその指がかかると、柔らかな太股の上をパンティが滑り落ちて行く。
 きゃーやめてぇ触らないでぇいくら私がセクシーだからってそんなぁ! ああ、男達が! 男達が私を狙って獣に!
 このままじゃ私!! ……そうなる前に陣! ……早く私をつ・か・ま・え」
「お姉ちゃん、お姉ちゃんったら!!」
「え? 何か言った?」
「どうしちゃったのお姉ちゃん。お兄ちゃんもう助けにきてくれたよ?」
 ティエンが指差す先にその人、陣と義仲が立っていた。
「陣!」
 ユピリア劇場ことめくるめく彼女の妄想は数分間繰り広げられていたから非常に今更感がぬぐえないのだが、陣が現れた事でユピリアが今更ながらに胸元を手で覆いしなを作ったポーズをとる。
 ――さあどう出るの陣!? もしあなたがその気なら私ここで間違いが起こっても……
「セクハラ野郎共は粗方片づけてきたからさっさと行くぞ」
「お兄ちゃん、行くってどこへ?」
「屋上に逃げた奴等を追うのじゃ。
 愛らしい女子を狙う強盗団とは……男の風上にもおけん! 俺が成敗してくれる!!」
「そうそう、屋上なら気にせずスキルを使いまくれるしな」
「そっか、じゃあ僕も一緒に」
「ちょちょちょちょっと待って!!」
 ユピリアが三人の前に割って入ったので、三人話し続けていた陣らは不思議そうにユピリアの顔を見た。
「……なんだ?」「なぁに?」「なんじゃ?」
 三人は横ながらびに同じ角度で首を傾げている。
 ユピリアは一息おいてからゴホンと咳払いして、ベビードールの裾に指を掛けて摘まんだ。
「……陣。下着姿を見てなんとも思わないの!?」
「……
 ……
 ……ああ!」
 陣は急に手をぽんと叩くと、自分の上着をいそいそと脱ぎ始めた。
 ――そうそう、そうこなくっちゃ。恥ずかしい格好の女の子に上着を着せてあげる。中々いいシュチュエーションだわ。
 ところが、事は中々ユピリアの想像通りには進まないようだ。
「ティエン、お前そんなあ格好でうろつくな」
 陣の上着はシルクのリボンが付いたレースの白いブラジャーとパンツをセット、それにガーターベルトまで付けていたティエンに着せられてしまったのだ!
 ユピリアに言われて「たまにはスポーツブラやボクサーパンツをやめよう」とティエンは頑張ったのだ。
 でもこんな事が起こって本人は恥ずかしさで一杯だった。
 後悔していたところだったが、しかし努力の甲斐もあってか流石の陣も一生懸命背伸びしたティエンに気付いてくれたようだ。
「よかったわねティエン……ってそうじゃなくて!
 私よ私! 私も下着なのよ!?」
「……ユピリアは普段と変わらないな。それ下着なのか?」
「これは下着よ!?」
「そうなのか?」
「俺も何時もと変わらぬように見えるぞ」
「これはベビードールっていう……」
「ふーん」
 心底興味なさそうな陣の顔に、ユピリアは顔を蒼白にする。
 ――……そんな……もしかして普段から露出度高くして頑張ってたから? だからこうなるの?
 それとも陣は私のこの胸じゃ! ……やっぱバストアップブラ買おうかな。
 ユピリアが止めどなくそんな事を考えてると、その耳をティエンの悲鳴がつんざいた。
「おいおいおい中々可愛い子じゃねーかァ?」
「ほぉら、いいこですねーぬぎぬぎしましょーねー」
「ブラジャー見せろや」
 何時の間にか彼等の所にやってきていた強盗団が、ティエンに群がり始めていたのだ。
 しかしその中の一人として、ベビードールセクシーランジェリーユピリアさんの所へはやってこないのだ。
「あれ? 私は? 私のところにはこないの?」
「ユピリア何してんだ! ティエンを助けるぞ!」
「いくぞユピリア! 強盗団を倒すのじゃ」
 ――あれ、私男チームに入れられてない?
 なんで? どうして?
 一体何が悪かった……


 

「………………強盗団ぶっ潰す」

 数秒後、ベビードールを振り乱して鬼神の如く暴れまわるユピリアがそこに居た。


 ところで。
 驚くべき事にその戦いの後ろで買い物を続けている女性が居た。
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)、パラミタ内海を根城にする海賊娘だ。
「随分と騒がしいですね」
 と言いつつも、我関せずでマイペースに商品を選んでいる。
「あ、この色いいですわね」
 そう言ってスモーキーブラックのサテンブラジャーを手に取ってみる。
 気に行った。
「えーと鏡は……」
 試着室の方へ向かって行くと、ガラガラの試着室の鏡で自分の肌の色と合わせて確認してみる。
 セシルのイメージにぴったりだった。
「中々いいですわね。
 先に試着してみようかしら、それとも別のも見てみようかしら」
 セシルが独り言を言っていると、鏡に彼女めがけて走ってくる強盗らしき男の姿が見える。
「うおおお下着を見せろおおお」
 美しいセシルに興奮ぎみで猛ダッシュする男の声にセシル思う。
 ――うるさいですわね
 と。
 ただそれだけだ。
「邪魔ですわよ」
 そして走ってきた強盗の棒形光条兵器を首を傾けるだけで避けてしまった。
「外したッ!?」
 動揺したまま直ぐに動かないのは雑魚のやることだ。
 セシルは鏡向けられる形になっていた棒を左手で掴むと勢いをつけて後ろへ押し出してやる。
「ぉわッッ!!」
 持っていた武器を動かされ重心が崩れた強盗の首に、セシルは手刀振り下ろした。
 そして彼女の手の残像と共に、強盗は床に倒れた。
「やっぱりもう一枚選んでからにしましょう」
 彼女を襲おうとした敵の存在等、自分の世界には存在しなかったかのようにセシルは歩き出す。
 途中倒れた強盗をヒールブーツで踏みつけたようだったが、セシルはさして気にも留めないまま売り場へと戻って行った。
「さて、あと一枚はどれにしましょうか」


 そんなセシルが立ち寄った試着室には宇都宮 祥子とイオテス・サイフォードが未だに買い物を続けていた。
「イオテス、これも似合ってるわ」
「祥子さん、きつく締めすぎですわぁっ」
「うふふふ
 次は思いきって大胆なこのデザインにしてみましょうか」
「そんな……そんなセクシーな」
「私の為に着てくれるんでしょぅ」
「もう、祥子さんったら!」
 余りのいちゃいちゃパラダイスに、例え人が居る事が分かってもそこへ近づく強盗は居なかったという……。


 そしてテラー・ダイノサウラスとクロウディア・アン・ゥリアンもまだ調査を続けていた。
「がぅがぅ」
「そうだな、これはかなり売れているようだ。
 もうサイズも残り少ないですし」
「ぐぅが、ぐがぅぁう」
「うむ。吾輩もこちらの方がいいとは思う。
 しかしこちらのカラーの方が人気商品のようだな」
「ぐぅが!」
「こちらは縫製が細かい分値段がかさむのか。
 こういった商品でも売れているようだが」
「がうがうがー」
「下着とは中々奥が深い、分からないものだな」
「がーぅ」
 相変わらず会話の内容は皆には良く分からないままだったが、やっぱり本人たちは真剣そのものだった。