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【第二章】12

 知らず知らずの間に男を上手く誘導する女達もいれば、男に騙される女も居る。 

 霧島 玖朔(きりしま・くざく)は思っていた。
 割に合わない。と。
 買い物中に館内放送が鳴ったと思えば上のフロアで面倒な事が起きているらしい。
 ――……たまの買い物でこういう事態に鉢合わせるとはツイてなさ過ぎる。
  俺は面倒な事が嫌いなんだ、早い所トンズラしたい。
 そう思って出口に向かっていた時だった。
「……あれはもしや?」
 明らかに彼の知っている顔が強盗団から逃げていたのだ。
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)それにサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)
「しかしなんだぁ、あれ?」
 玖朔は眉を吊り上げた。彼女達の戦いぶりが少々無茶なのだ。
「やめて! ボクに乱暴する気でしょ! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!」
 大事な事は二回言う御約束を護りながら男たちに襲われているのはサビクだ。
「おいサビク、訳分かんない事してないで真面目にやれって!」
 シリウスに言われて「しょうがない」と諦めたのか、サビクはウルフアヴァターラ、アクティブモードにした。
 ウルフアヴァターラ・ソードがペット形態に変形すると、狼が強盗団を襲う。
「リーブラ、おどしだ。
 全力でやっちゃいな!」
「で。でも」
「いいから」
「本当にいいんですの……?
 では」
 シリウスが頷くのをみて、リーブラは光条兵器の柄を握りしめると
「えぇい」
 全力で薙ぎ払いをする。
 人間は流石に攻撃対象外にしていたが、周囲の被害規模は推して知るべし。だ。
「つ、次は当てますわ!? 死にたいですの!? 下がって下さいませ!!!」
 随分と強気の発言だが声が裏返っているところをみると、本当にテンパっているのは本人らしい。
「ったく見てらんねぇな」
 そう言って玖朔は前に出ていた。
「霧島!? 一体どうしてここに!!」
「話しは後だ、アイツらの追撃を逃れなきゃ酷い目に遭う!!」
 如何にも必死な顔――を作って、玖朔はシリウスの手を引いた。
 急に引っ張られたシリウスがバランスを崩してつんのめった所を、玖朔は抱きとめるように胸を鷲掴みにする。
「え? え?」
「いいから逃げるぞ!」
 動揺しているシリウスを無視して、玖朔は走り出す。
 目的地はパウダールーム。
 女性向けのショッピングモールの為に着替える為の部屋なんてものも存在するのだ。
 着替える為の部屋だから、一人で入るには十二分に広いそこも、三人と一人で入るには大分狭い。
 互いの身体が、胸が、尻が、太股が密着していた。
「さあ、ここに入ればもう大丈夫だ」
「でもオレ……身体がぶつかって」
「身体が触れたって奴等に見つかるよりはマシだ」
「そ……そうか」
 玖朔に説得されて、シリウスは上目づかいで彼を見つめて何か言いたげな口を閉じている。
 勿論手は入った瞬間から彼女の胸を鷲掴み状態だ。
「ばっ、ばかやめ……こら、どこさわって……!?」
 ワシワシと動かしている間も、シリウスは頬を真っ赤に染め上げてイヤイヤと首を振っている。
 普段は男っぽいシリウスがこんなにおぼこい反応をするとは思わなかった。
 これはまさかの収穫だ。
「仕方ないだろ。狭いんだから」
「で、でも……や! 離せ!!」
「分かった、離す」
 やけに素直に従ったと思った。
「きゃ!」「わ!!」
 玖朔の手はリーブラとサビクの胸を鷲掴みにしていたのだ。
「ちょ、お前何をして」
「だから狭いから、しょうがないだろって」
「だめですわ! わたくしそんな……」
「本当にエロ同人みたいな事になっちゃったよ!」
「いやいやまだ少年誌レベルだよ、こんなの序の口だよ。
 それにこれは不可抗力だから、仕方ないことだから」
「そうか、仕方ない事なら……仕方なあ!! またっ! やめっ……」
 初心(うぶ)なシリウスがこの強盗団よりある意味ヤバイ男に騙されたという真実に気づくのは、残念ながらこれからかなり後の事だった。