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【第二章】13
 
 ところで、先程の男美人局の被害者はこの他にも存在していた。
「……すまぬ、わしは男なのじゃ」
 心底申し訳なさそうなルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)の声に、後ろから抱きついた強盗の男は一瞬訳がわからず動きをとめてしまった。
 と、その時。
「ダーリンになんてことするの!!」
 勢いよく後ろから殴られて、強盗は昏倒した。
 殴ったのはイリア・ヘラー(いりあ・へらー)。ルファンを女装させたその人である。
「下着買いたいよね! でもダーリンと一緒に入れない! ダーリンが女装すれば問題ないじゃん!」
 有無を言わさない超理論でダーリンことルファンを説き伏せると、長尾 顕景(ながお・あきかげ)を巻き込んでここへやってきたのだ。
「で、大丈夫ジゼルん?」
 イリアが振り返った先にはジゼル達が居た。
 ついさっきそこで知り合ったばかりなのだが、イリアの気さくな性格にすぐに打ち解けたのだ。
「……大丈夫っていうか、全然。
 それよりルファンは本当に男の子なのよね?」
 ジゼルは言いながらルファンの前に立つと彼の顔をじーっと見つめる。
 身長もそれ程変わらないし、顔立ちは端正に整っていて本来の性別を感じさせない。
 違うといえば喉仏くらいか。

「うーん……雅羅達はああ言ったけど、男の人と女の人ってそんなに違うのかしら?」
「そ、それは……」
 言い淀んでいるルファンから、ジゼルは顕景に視線を移す。
「顕景は男の人? 女の人?」
 春先だと言うのに黒のハイヒールブーツに黒のロングコート、黒のドレスという独特のファッションで纏めている彼は、性別どころか何もかもが怪しく見えた。
「無性別」
 怪しい人物はそう煙に巻いてくる。
「それより私は君の事が気になるがね」
 そう言って顕景はジゼルの髪をひと房掴むと、指先でするすると弄んだ。
 色素の薄いプラチナブロンドの髪色が、照明の色に照らされて透けて見える。
 この髪も、ピンク色の頬も、コーラルの小さめな唇も、ジゼルのパーツは些か完璧すぎるのだ。
 極めつけは顕景を見つめている長いまつげに縁取られた宝石のようにキラキラと光る目だ。
 生物としては不自然な色合い。
 ジゼルをまじまじと見つめれば不気味の谷じゃないが、こんな人間が存在する訳じゃないと、敏い人間は気付いてしまうのだ。
「まるで人形のようだな」
 そう、顕景は気付いていた。
 ジゼルが人ではなく作られた存在だということに。
 ――ただまあ同時に面白いから黙っていよう
 とも思った。
「はいはいそこまでー。ジゼルんにセクハラしないでくださーい」
 イリアが割って入ったところで、皆は強盗がこちらへ向かっているのに気付き始めた。
「ほら、またきた。
 こんなとこで立ち止まってるからだよー」
 イリアが抗議している間に、ルファンは動いていた。
 遠当てを放たれた強盗が一人倒れる。
 もう一人の強盗は顕景に向かって行ったが、可哀想にネチネチと返りうちにあっていた。
 ルファンは強盗を顕景に任せてジゼルの近くへやってくるとこう言った。
「ジゼルよ、
 このように女性を護るのが男、というのでは駄目じゃろうか?」
 ルシェンに微笑まれてジゼルは微笑み返した。
「成程。じゃあ何時も私を護ってくれる雅羅やさっき私を助けてくれたルカは私にとって男の子なのね」
 濡れた瞳でやんわりと頬を染めているジゼルに、友人たちは彼女が新しい道に目覚めた事を喜んでいいのか分からず溜息をついた。