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【第二章】17

 その頃、雅羅は途中離れてしまったジゼル達と合流する為、共に外に出ようと言ってくれた樹月刀真達の申し出を丁重に断って館内を歩いていた。
 強盗達が現れ見つかりそうになった雅羅を呼んだのは瓜生 コウ(うりゅう・こう)だ。
「雅羅! こっちだ!!」
 そう呼んだ時、彼女は一階のトイレに立てこもっていた。
「あんたもこい!!」
 コウに言われてトイレに入ってきたのは辺りをぷらぷらと歩いていた柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)だ。

 瓜生コウはヴィクトリーシークレットの愛用者で、試着イベントを目的にやってきた所を事件に巻き込まれていた。
 事件発生時は試着室に居た為、カーテンを破り民族衣装のように身体に巻きつけて走り出す。
 降りた二階で、吹き抜けから一階に雅羅達が居るのが見えるとそのカーテンを使い一階へ降下し、偶然見つけた強盗団が近づいてこなかったこの女子トイレで態勢を整えていたのだ。

「雅羅、コレを使え」
 コウが差し出したのは途中強盗の一人から奪った拳銃だ。
「ありがと、助かる」
 雅羅の礼に、小さく頷いて答えると、コウは外の様子を見に行った。
 漸く安心出来る武器を手に入れて一息ついた雅羅の横に、氷藍がどすんと音を立てて座った。
「しっかしわかんねーよなー」
「なにが?」
「昔から思ってたんだが、何で皆下着姿だの裸だのを隠したがるんだろうなって。
親父達とかとは普通に一緒に風呂とかに入ってたし、別に見られてどうこうはしないだろうし……」
「何それ、あんたもジゼル病?」
「は?」
「何でも無い、こっちの事よ」
「ふーん? あ、ほらあれだ……あいつらが狙ってるのは下着なんだし、脱いで投げつけてやろーぜ。
そうしたら満足して帰るだろ」
「はぁ!? 何言ってんのよ」
 突拍子もない考えに、雅羅は思わず立ち上がって抗議した。 
「いやもし駄目でも少なからず隙も出来るだろうしさ」
 氷藍も立ち上がると、雅羅に至極真面目な顔で言った。
「ホラ脱げ雅羅! 皆を救うためだと思ってな!」
「何馬鹿な事言ってんの! だったらアンタも脱ぎなさいよね!!」
「俺は無理だぞ! 男のプライドに掛けてそんな事は出来ん」
「今は女なんだから私と同じでしょ! いいから脱げ!」
「そういう雅羅こそ脱げ!」
 互いのパンツとスカートを掴んでキャットファイトしている二人を見て、戻ってきたコウは額を掻いた。
「なにやってんだあんたらは……」
「べつにー! ただこいつがパンツ脱げとかいうから」
「雅羅だって俺に脱げつっただろ!」
「…………」
「…………」
 しばしの沈黙の後、雅羅と氷藍は再び戦いだす。
 みゃーみゃーと。
 猫か子供のように。
 コウは溜息をつくしかない。
「……じゃれあいはそのくらいにして。
 そろそろここにも敵が集まり過ぎた。このまま時間稼ぎをするのと、外出て戦うのと、どうする?」
 コウが質問している二択の選択肢の、選ぶべき道は三人とも決まっていた。
「勿論」
「戦うわよ!!」

「武器は雅羅に渡したものだけだ、オレは持ってきていない。そこで作戦なのだが……」
 コウの作戦通り、まず氷藍がトイレの外へ向かって神威の矢を放った。
 矢は強盗達を奇襲していく。
「うわっなんだこれ! 何処から!?」
 慌てている強盗達の前に飛び出した雅羅銃で相手の持っている武器を正確に撃っていく。
 武器を失った強盗の上にコウが唱えた雷術が落ちた。
「意外と簡単だったな」
「ね、パンツなんて脱がなくて良かったじゃない」
「……そういう雅羅だって俺の脱がそうとした癖に……」
 三人は暫くその場で見つめ合って、そして一斉に噴き出すと笑い出した。